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私は孤児で平民で、そして聖女です
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「は?殿下。今…何と、おっしゃいましたか?」
突然婚約者であるセザール王子殿下に呼び出された私は、部屋に入るなり突然宣言された言葉に、暫く言葉を失ってしまいました。そして、しばしの沈黙の後で出た言葉が冒頭の言葉でした。
「出自が悪いと耳も悪いと見える。仕方がない、もう一度行ってやろう。ルネ、貴様との婚約を破棄してやると言ったのだ!」
どうだと言わんばかりに宣言された言葉に、私は戸惑うばかりでした。何故なら殿下との婚約は、国王陛下からのご命令だったからです。いくら実子である殿下といえども、簡単に反故にしてもいいのでしょうか…しかも陛下は今、視察に出られていて王宮にいらっしゃらないのです。
「いくら聖女と言え、お前のような孤児上がりを妻にするなど俺はごめんだ。俺はこの国で最も高貴なる存在。であれば当然、妻にする者も高貴であって然るべきなのだ」
すっかり自分に酔っている様にも見える殿下ですが、いいのでしょうか…
殿下が私と婚約したのは、私がこの国の結界を維持する事の出来る唯一の聖女だからです。そんな力を持つ聖女を他国や悪意のある者に渡さないため、そして出来る事なら王家に聖女の力を取り込むための婚約ですのに、それを陛下の許可なく反故にしては…大変なお怒りを受けると思うのですが…
「しかし、国王陛下は…」
「陛下には私から話をする。聖女であるなら、何もお前である必要はないのだからな!」
吐き捨てるようにそう言われましたが…確かに仰る通りです。私と同じかそれ以上の聖女の力を持つ方がいれば、その方で問題ないでしょう。
いえ、むしろそんな方がいらっしゃるのなら、今すぐにでもこの座をお譲りしたいところです。私も好んで聖女になったわけではありませんから…
「では、代わりの聖女が見つけられたと?」
誰でも構いません。この役目を変わって下さるというのであれば、直ぐにでもお譲りしたいと思っていたので、私にとっては渡りに船です。むしろこの様な役目になりたい人がいるなんて…随分と物好きな…いえ、殊勝な方がいらっしゃるようです。
「いや、聖女は見つかってはおらぬ」
「はぁ?」
「だが、案ずることはない。新たな聖女を呼び出せばいいのだからな!」
「呼び出す…」
殿下が何を言いたいのか、何を狙っているのか、私には全くわかりませんでした。国中の神殿が血眼になって探しても滅多に見つからない超希少な存在―それが聖女の力を持つ者です。昔は力を持つ者がたくさんいたと伝えられていますが、今はその数は珍獣並みに少ないのです。なのに、呼び出すだなんて…一体どこから?どうやって?
「お前のような下賤な者には想像も出来ないだろうが、王家には古から伝わる秘術があるのだ。その秘術をもってすれば、聖女の力を持った者を呼び出す事も可能だ。聞けば初代の聖女もそうして異世界から召喚されたというのだからな」
「……」
えっと…異世界?召喚?殿下の仰っている意味がわかりません。そりゃあ、聖女の歴史では初代の聖女様は遠き国からいらっしゃったとは伝えられていますが…それはその、召喚とやらで呼び出した…という事でしょうか?
それに…どうやって召喚するのでしょうか…昔は色んな秘術が使えたそうですが、今ではそのほとんどが失われていますし、やり方が分かっても使える人はいないと思うのですが…
「ふん。下賤なだけに察しも悪いとみえる。いいだろう、特別に教えてやろう。召喚術には聖女の力が必要だ。そして、その力を持っているのはお前だ。俺はお前のその力を使って、お前よりももっと力のある、俺に相応しい高貴な聖女を呼び出すのだ。そう、初代の大聖女様のような御方をな!」
「私の…力?」
「ああ、その力を俺に捧げよ!婚約者なのだ、一度くらいは俺に役に立て!」
「しかし…そんな事をすれば、結界が…」
「それも心配無用だ。呼び出した高貴なる聖女様がお前の代わりに結界を守って下さる。もしかすると失われた分を補って下さるかもしれぬ」
ああ、なるほど。この王子は私の力を使って、もっといい婚約者を得ようとお考えなのですね。孤児上がりの平民で貧相な私ではなく、初代の大聖女様のようなお方を異世界から呼び出して妻に迎えようと…
「大聖女様のような御方なら、地位も身分も俺の妻としても相応しい」
「はぁ…」
確かに殿下は見た目だけは一級品でしょう。輝く金の髪も、夏の空のような青い瞳も、整った顔立ちも素晴らしいものです。黙っていれば。
一方の私は、色の抜けた老婆のような白い髪と、魔女のようだと言われる赤い瞳ですし、顔だって平均的です。それに痩せていて、肌や髪に艶もありません。それがまた殿下は気に食わないのですよね。
「それに、これが成功すれば私は兄上よりも優位な立場になれる。兄上は長子というだけで王太子になったが、その妻はしがない侯爵家の出だ。大聖女を妻に持つ私の方がずっと至高なる存在に相応しくなるのだ」
「しかし、陛下の許可なく勝手な事をしては…」
「陛下も平民の聖女よりも、高貴で麗しい強い力をお持ちの聖女様の方を良しとされるだろう。これは国のため、ひいては父上の御ためでもあるのだ」
ダメです、話になりません。完全に殿下の中では呼び出されるのは、高貴で美しくて強い聖力を持った若い女性になっているようです。その確率、凄く低いような気がするのですが…
「でも殿下、もし召喚されたのが小さい子供や、逆に親の年くらい上だったら…」
「そんな事にはならぬ!聖女といえば若いに決まっているだろう!それに、身目麗しく愛らしく高貴な生まれなのだ!」
高らかに宣言されましたが…あの、私も聖女なのですが…それに先代の聖女様も出自は決して高くはありませんでしたし、見た目も割と普通でしたよ。その方は今、臣下になられた王弟殿下と仲睦まじくお暮らしですが…
「とにかく、貴様には召喚の儀に付き合って貰う。これは命令だ。拒否は許さぬ」
殿下がそう仰ると同時に、私は騎士達に囲まれてしまいました。殿下はどうあっても召喚の儀を行い、聖女を異世界から招くおつもりのようです。
突然婚約者であるセザール王子殿下に呼び出された私は、部屋に入るなり突然宣言された言葉に、暫く言葉を失ってしまいました。そして、しばしの沈黙の後で出た言葉が冒頭の言葉でした。
「出自が悪いと耳も悪いと見える。仕方がない、もう一度行ってやろう。ルネ、貴様との婚約を破棄してやると言ったのだ!」
どうだと言わんばかりに宣言された言葉に、私は戸惑うばかりでした。何故なら殿下との婚約は、国王陛下からのご命令だったからです。いくら実子である殿下といえども、簡単に反故にしてもいいのでしょうか…しかも陛下は今、視察に出られていて王宮にいらっしゃらないのです。
「いくら聖女と言え、お前のような孤児上がりを妻にするなど俺はごめんだ。俺はこの国で最も高貴なる存在。であれば当然、妻にする者も高貴であって然るべきなのだ」
すっかり自分に酔っている様にも見える殿下ですが、いいのでしょうか…
殿下が私と婚約したのは、私がこの国の結界を維持する事の出来る唯一の聖女だからです。そんな力を持つ聖女を他国や悪意のある者に渡さないため、そして出来る事なら王家に聖女の力を取り込むための婚約ですのに、それを陛下の許可なく反故にしては…大変なお怒りを受けると思うのですが…
「しかし、国王陛下は…」
「陛下には私から話をする。聖女であるなら、何もお前である必要はないのだからな!」
吐き捨てるようにそう言われましたが…確かに仰る通りです。私と同じかそれ以上の聖女の力を持つ方がいれば、その方で問題ないでしょう。
いえ、むしろそんな方がいらっしゃるのなら、今すぐにでもこの座をお譲りしたいところです。私も好んで聖女になったわけではありませんから…
「では、代わりの聖女が見つけられたと?」
誰でも構いません。この役目を変わって下さるというのであれば、直ぐにでもお譲りしたいと思っていたので、私にとっては渡りに船です。むしろこの様な役目になりたい人がいるなんて…随分と物好きな…いえ、殊勝な方がいらっしゃるようです。
「いや、聖女は見つかってはおらぬ」
「はぁ?」
「だが、案ずることはない。新たな聖女を呼び出せばいいのだからな!」
「呼び出す…」
殿下が何を言いたいのか、何を狙っているのか、私には全くわかりませんでした。国中の神殿が血眼になって探しても滅多に見つからない超希少な存在―それが聖女の力を持つ者です。昔は力を持つ者がたくさんいたと伝えられていますが、今はその数は珍獣並みに少ないのです。なのに、呼び出すだなんて…一体どこから?どうやって?
「お前のような下賤な者には想像も出来ないだろうが、王家には古から伝わる秘術があるのだ。その秘術をもってすれば、聖女の力を持った者を呼び出す事も可能だ。聞けば初代の聖女もそうして異世界から召喚されたというのだからな」
「……」
えっと…異世界?召喚?殿下の仰っている意味がわかりません。そりゃあ、聖女の歴史では初代の聖女様は遠き国からいらっしゃったとは伝えられていますが…それはその、召喚とやらで呼び出した…という事でしょうか?
それに…どうやって召喚するのでしょうか…昔は色んな秘術が使えたそうですが、今ではそのほとんどが失われていますし、やり方が分かっても使える人はいないと思うのですが…
「ふん。下賤なだけに察しも悪いとみえる。いいだろう、特別に教えてやろう。召喚術には聖女の力が必要だ。そして、その力を持っているのはお前だ。俺はお前のその力を使って、お前よりももっと力のある、俺に相応しい高貴な聖女を呼び出すのだ。そう、初代の大聖女様のような御方をな!」
「私の…力?」
「ああ、その力を俺に捧げよ!婚約者なのだ、一度くらいは俺に役に立て!」
「しかし…そんな事をすれば、結界が…」
「それも心配無用だ。呼び出した高貴なる聖女様がお前の代わりに結界を守って下さる。もしかすると失われた分を補って下さるかもしれぬ」
ああ、なるほど。この王子は私の力を使って、もっといい婚約者を得ようとお考えなのですね。孤児上がりの平民で貧相な私ではなく、初代の大聖女様のようなお方を異世界から呼び出して妻に迎えようと…
「大聖女様のような御方なら、地位も身分も俺の妻としても相応しい」
「はぁ…」
確かに殿下は見た目だけは一級品でしょう。輝く金の髪も、夏の空のような青い瞳も、整った顔立ちも素晴らしいものです。黙っていれば。
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「しかし、陛下の許可なく勝手な事をしては…」
「陛下も平民の聖女よりも、高貴で麗しい強い力をお持ちの聖女様の方を良しとされるだろう。これは国のため、ひいては父上の御ためでもあるのだ」
ダメです、話になりません。完全に殿下の中では呼び出されるのは、高貴で美しくて強い聖力を持った若い女性になっているようです。その確率、凄く低いような気がするのですが…
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