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番外編
アルヴァン⑦
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「婚約者を襲ったのが……グローリア様の取り巻きだと?!!」
マーカスから聞かされた話は、俺の想像の枠を超えていた。彼が大切にしていた婚約者を襲ったのが、グローリア様の取り巻きの可能性があるのだと、そう言ったからだった。あまりにも意外過ぎて、頭の整理が追い付かない……
「まだそうと決まったわけではない。だが、可能性は高いと、俺は考えている」
「どうして、そんなことを……」
「犯罪者の考えなんて俺には理解出来ない。だが、あれから俺はずっと犯人を追っていたんだ。そこで気になる会話を耳にしたんだ」
確かに彼は婚約が白紙になった後も、新しい婚約者を迎えることを拒否して、彼女を襲った暴漢たちを追っていた。動機も何もかもがわからない中、彼は最近あった夜会の警備中に令息たちが話していた内容から、彼らの関与を疑うようになったのだと言う。
「令息たちの会話とは……」
「夜会で酔っていた時の話だ。証拠にもならないだろう。だが、あいつらは確かに言ったんだ。グローリア様が不本意な結婚をするのに、お仕えする者が幸せな結婚をするなど分不相応だと」
「な……!」
耳を疑いたくなるような内容だった。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。たったそれだけの理由で、一生傷が残る怪我を負わせて婚約を解消させたと言うのか……いや、まだそうだと決まったわけじゃないが……
だが、思い返せばグローリア様の取り巻きたちの中には、婚約者と仲がいい者はいなかった。彼らがグローリア様は最上の存在で、婚約者など取るに足らないと話していたのを思い出した。自身の婚約者とグローリア様を比べては嘲笑していた姿も。
「それじゃ、最初に襲われたあの事件も……」
「ああ。あいつらの仕業だろうと俺は考えている。あいつらの性格からしても、やっても不思議だとは思わない」
その言葉に反論出来なかった。確かに彼らはグローリア様の前では大人しいが、裏では家の力を笠に着て横暴な振る舞いを繰り返していた。
「そしてアルヴァン、次のターゲットは、多分お前だったんだろう」
「俺が?!」
そうは言ったが、どこかでそうかもしれないとの思いが過った。休暇申請は何かと理由を付けて却下され、仮に許可されても直前で取りやめになったりもした。デビュタントの件も、誕生パーティーに合わせたような急なラファティ行きも……すべてがそうだとは思わないが、嫌がらせだったと言われれば納得だった。
「お前は婚約を破棄されたから大丈夫だろう。だが、もう暫くは警戒しておいた方がいいように思う」
その言葉に俺は、いよいよグローリア様の元を辞そうとの思いを強めた。もう馬鹿馬鹿しいとしか思えなかったからだ。そしてこのことをヴィオラに伝えられないだろうか。せめてリード侯爵かクリスに伝えるべきだろう。いや、まだ推測でしかないし、信用を無くした今の俺では聞き入れてくれるかも怪しいが……
「アルヴァン、頼みがある」
「何だ?」
「一緒に犯人を捜してくれ」
そう言ってマーカスは深く頭を下げた。彼一人では限界があり、彼は協力者を探していたと言う。それに俺はグローリア様に信用を得られているので、より令息たちの動向を探れるだろうと。確かに俺とマーカスではグローリア様の側に居る時間には差がある。令息たちとのお茶会なども、俺が側に控える機会が多いのは確かだった。
「直ぐには返事は求めない、でも考えて欲しい」
そう言ってマーカスは帰っていった。もう辞めようと思っていたが、こうなると事情は変わってくる。今更婚約破棄が撤回されることはないと、両親やリード侯爵、更にはカインからも言われたが、まだ諦めきれない自分がいた。
(だったら……犯人捜しに手を貸すべきか……)
まだヴィオラが狙われる可能性があるとの予測も、俺を思い止まらせた。今更俺が彼女に出来る事は何もないが、犯人を捕まえれば彼女を守ることに繋がるだろう。
それに、もしかしたらこれでもう一度チャンスが与えられるかもしれない。そんな自分の都合のいい思いもあって、俺はマーカスに協力することにした。他にやりたい事がなかったのもあるし、何か目的がないと虚無感に飲み込まれそうな恐怖もあった。
(もしかして……カインは、知っていたのか?)
ふとそんな思いがよぎったが、確かめる術はなかった。彼が今、どこにいるのかがわからなかったからだ。それでも、もしそういうことなら彼の行動にはつじつまが合うような気がした。そしてあの満足そうな、安堵したような表情の意味も。俺とヴィオラの婚約を破棄させることで、俺たちを守ったのだろうか……
(いや、そう決めるのは早すぎる……)
もう一度カインに会って話をしたかった。マーカスに聞いた話をしたら、彼は何と言うだろうか。俺はカインと連絡を取るべく、彼の居場所を探すことにした。
マーカスから聞かされた話は、俺の想像の枠を超えていた。彼が大切にしていた婚約者を襲ったのが、グローリア様の取り巻きの可能性があるのだと、そう言ったからだった。あまりにも意外過ぎて、頭の整理が追い付かない……
「まだそうと決まったわけではない。だが、可能性は高いと、俺は考えている」
「どうして、そんなことを……」
「犯罪者の考えなんて俺には理解出来ない。だが、あれから俺はずっと犯人を追っていたんだ。そこで気になる会話を耳にしたんだ」
確かに彼は婚約が白紙になった後も、新しい婚約者を迎えることを拒否して、彼女を襲った暴漢たちを追っていた。動機も何もかもがわからない中、彼は最近あった夜会の警備中に令息たちが話していた内容から、彼らの関与を疑うようになったのだと言う。
「令息たちの会話とは……」
「夜会で酔っていた時の話だ。証拠にもならないだろう。だが、あいつらは確かに言ったんだ。グローリア様が不本意な結婚をするのに、お仕えする者が幸せな結婚をするなど分不相応だと」
「な……!」
耳を疑いたくなるような内容だった。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。たったそれだけの理由で、一生傷が残る怪我を負わせて婚約を解消させたと言うのか……いや、まだそうだと決まったわけじゃないが……
だが、思い返せばグローリア様の取り巻きたちの中には、婚約者と仲がいい者はいなかった。彼らがグローリア様は最上の存在で、婚約者など取るに足らないと話していたのを思い出した。自身の婚約者とグローリア様を比べては嘲笑していた姿も。
「それじゃ、最初に襲われたあの事件も……」
「ああ。あいつらの仕業だろうと俺は考えている。あいつらの性格からしても、やっても不思議だとは思わない」
その言葉に反論出来なかった。確かに彼らはグローリア様の前では大人しいが、裏では家の力を笠に着て横暴な振る舞いを繰り返していた。
「そしてアルヴァン、次のターゲットは、多分お前だったんだろう」
「俺が?!」
そうは言ったが、どこかでそうかもしれないとの思いが過った。休暇申請は何かと理由を付けて却下され、仮に許可されても直前で取りやめになったりもした。デビュタントの件も、誕生パーティーに合わせたような急なラファティ行きも……すべてがそうだとは思わないが、嫌がらせだったと言われれば納得だった。
「お前は婚約を破棄されたから大丈夫だろう。だが、もう暫くは警戒しておいた方がいいように思う」
その言葉に俺は、いよいよグローリア様の元を辞そうとの思いを強めた。もう馬鹿馬鹿しいとしか思えなかったからだ。そしてこのことをヴィオラに伝えられないだろうか。せめてリード侯爵かクリスに伝えるべきだろう。いや、まだ推測でしかないし、信用を無くした今の俺では聞き入れてくれるかも怪しいが……
「アルヴァン、頼みがある」
「何だ?」
「一緒に犯人を捜してくれ」
そう言ってマーカスは深く頭を下げた。彼一人では限界があり、彼は協力者を探していたと言う。それに俺はグローリア様に信用を得られているので、より令息たちの動向を探れるだろうと。確かに俺とマーカスではグローリア様の側に居る時間には差がある。令息たちとのお茶会なども、俺が側に控える機会が多いのは確かだった。
「直ぐには返事は求めない、でも考えて欲しい」
そう言ってマーカスは帰っていった。もう辞めようと思っていたが、こうなると事情は変わってくる。今更婚約破棄が撤回されることはないと、両親やリード侯爵、更にはカインからも言われたが、まだ諦めきれない自分がいた。
(だったら……犯人捜しに手を貸すべきか……)
まだヴィオラが狙われる可能性があるとの予測も、俺を思い止まらせた。今更俺が彼女に出来る事は何もないが、犯人を捕まえれば彼女を守ることに繋がるだろう。
それに、もしかしたらこれでもう一度チャンスが与えられるかもしれない。そんな自分の都合のいい思いもあって、俺はマーカスに協力することにした。他にやりたい事がなかったのもあるし、何か目的がないと虚無感に飲み込まれそうな恐怖もあった。
(もしかして……カインは、知っていたのか?)
ふとそんな思いがよぎったが、確かめる術はなかった。彼が今、どこにいるのかがわからなかったからだ。それでも、もしそういうことなら彼の行動にはつじつまが合うような気がした。そしてあの満足そうな、安堵したような表情の意味も。俺とヴィオラの婚約を破棄させることで、俺たちを守ったのだろうか……
(いや、そう決めるのは早すぎる……)
もう一度カインに会って話をしたかった。マーカスに聞いた話をしたら、彼は何と言うだろうか。俺はカインと連絡を取るべく、彼の居場所を探すことにした。
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