王女殿下を優先する婚約者に愛想が尽きました もう貴方に未練はありません!

灰銀猫

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番外編

アルヴァン②

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 ヴィオラがデビュタントを迎える夜会の日。反ハイアット派がグローリア様を狙っているとの情報から、近衛騎士も侍女たちも朝からピリピリした空気が漂っていた。グローリア様の側は先輩方で固められていた。俺は同僚のマーカスと一緒に、少し離れた位置から不審者がいないかを見張るよう命じられた。

(ヴィオラ……)

 会場内で婚約者の姿が目に入った。リード侯爵にエスコートされたヴィオラは、想像以上に可愛らしかった。柔らかく光を放つような白金の髪に真っ白なドレス姿は、まるで妖精のようにすら見えた。少し大人っぽくなったのも驚きだった。女の子はいきなり変わると聞いたけれど、正にその通りだ。その隣にいられなかったことは残念の一言では言い表せなかったが、俺たちにはまだ先がある。そう思う事で言いようのない焦燥感を押さえつけた。

「今日はコンラット殿下もお見えか」
「そうだな」

 ハイアットのコンラット殿下は、反ハイアット派をけん制するかのように、最近はよく我が国を訪問されていた。その隣でグローリア様も楽しそうにお過ごしだった。今日はラファティの王子殿下もお見えだとかで、警備が物々しいのはそのせいもある。
 ただ、反ハイアット派は親ラファティ派でもあるので、この場で騒ぎを起こすのは得策ではないように思えた。お二人の縁談を主導していたのはラファティだからだ。情報はガセだったのかもしれない。そう思うと、ヴィオラのエスコートが出来なかったことが一層残念に思われた。



 その頃からだろうか、先輩方の態度が更に刺々しくなったのは。まだ若輩で階級も低かったのもあり、周りからの反発は予想以上だった。嫌味や仕事の押しつけは日常茶飯事で、必要な連絡事項が俺にだけ届かないことも多々あった。その点ではカインには酷く苦労をかけていたが、最近はそれが一層酷くなっていた

「よお、アルヴァン、今日もグローリア様のお呼び出しか?」
「はい」
「いいよなぁ、お気に入りは」
「そうそう。だが身の程は弁えておけよ」

 すれ違いざま、そんな台詞を先輩方が残すようになった。別に俺はグローリア様のお気に入りというわけでもない。もう一人の先輩騎士の方がずっとグローリア様と親しく、距離が近いのだから。

「あんなの気にするなよ」
「ああ」

 同僚のマーカスがそう言ってくれて、少し救われる気がした。



 そんな中でも、ヴィオラからの手紙は定期的に来ていた。会えないことを申し訳なく思うが、ヴィオラからも気にしていないし今は仕事を優先して欲しい、自分も学業が忙しいから大丈夫だと手紙で伝えてきた。だから俺は全く心配していなかった。それだけの時間を積み重ねているとの自負もあった。

「アルヴァン、相談なのだけど……」

 グローリア様からの相談は相変わらず続いていた。このままではハイアットに行くのが不安だと仰ることが増えた。知り合いのいない他国で一人過ごすのは確かに不安も大きいだろうと、今の間に少しでも物事がよい方に向かえば、と出来る限り相談には真摯に答えるようにしていた。

「アルヴァンに言われると反論出来ないわ」

 その言葉にドキリとした。それは俺がヴィオラによく言われていた言葉だったからだ。それは彼女が渋々ながらも俺の言葉を受け入れてくれた時のものだった。グローリア様がヴィオラに重なった。年が同じなのもあっただろう。もう一人妹が出来たような、そんな気分だった。



 その夜会から暫く経った頃、事件が起きた。同僚のマーカスの婚約者が往来で襲われたのだ。彼らは仲のいい婚約者同士で、来年結婚式を挙げることをとても楽しみにしていたのに。

「一体誰が……マリアンヌ……!」
「マーカス……」

 婚約者が大怪我を負い、襲撃を受けた恐怖から部屋から出られなくなってしまったと言う。彼が会いに行っても男性を怖がって近づくことも出来ないとも。暫くすると彼女は静養のために領地に行ってしまい、二人の婚約も解消されてしまった。
 マーカスは最後まで待つと主張したが、「娘をこれ以上追い詰めないで欲しい」と彼女の父に言われて、それ以上待つことも叶わなくなった。その時の彼の落ち込み様は酷く、見ていられなかった。
 
 またこの事件より半年と少し前にも、同様の事件が起きていた。その時の被害者も近衛騎士の婚約者で、その令嬢は亡くなったと聞く。このような事件が続いたことを陛下は重く見られ、調査をお命じになった。



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