19 / 39
番外編
アルヴァン②
しおりを挟む
ヴィオラがデビュタントを迎える夜会の日。反ハイアット派がグローリア様を狙っているとの情報から、近衛騎士も侍女たちも朝からピリピリした空気が漂っていた。グローリア様の側は先輩方で固められていた。俺は同僚のマーカスと一緒に、少し離れた位置から不審者がいないかを見張るよう命じられた。
(ヴィオラ……)
会場内で婚約者の姿が目に入った。リード侯爵にエスコートされたヴィオラは、想像以上に可愛らしかった。柔らかく光を放つような白金の髪に真っ白なドレス姿は、まるで妖精のようにすら見えた。少し大人っぽくなったのも驚きだった。女の子はいきなり変わると聞いたけれど、正にその通りだ。その隣にいられなかったことは残念の一言では言い表せなかったが、俺たちにはまだ先がある。そう思う事で言いようのない焦燥感を押さえつけた。
「今日はコンラット殿下もお見えか」
「そうだな」
ハイアットのコンラット殿下は、反ハイアット派をけん制するかのように、最近はよく我が国を訪問されていた。その隣でグローリア様も楽しそうにお過ごしだった。今日はラファティの王子殿下もお見えだとかで、警備が物々しいのはそのせいもある。
ただ、反ハイアット派は親ラファティ派でもあるので、この場で騒ぎを起こすのは得策ではないように思えた。お二人の縁談を主導していたのはラファティだからだ。情報はガセだったのかもしれない。そう思うと、ヴィオラのエスコートが出来なかったことが一層残念に思われた。
その頃からだろうか、先輩方の態度が更に刺々しくなったのは。まだ若輩で階級も低かったのもあり、周りからの反発は予想以上だった。嫌味や仕事の押しつけは日常茶飯事で、必要な連絡事項が俺にだけ届かないことも多々あった。その点ではカインには酷く苦労をかけていたが、最近はそれが一層酷くなっていた
「よお、アルヴァン、今日もグローリア様のお呼び出しか?」
「はい」
「いいよなぁ、お気に入りは」
「そうそう。だが身の程は弁えておけよ」
すれ違いざま、そんな台詞を先輩方が残すようになった。別に俺はグローリア様のお気に入りというわけでもない。もう一人の先輩騎士の方がずっとグローリア様と親しく、距離が近いのだから。
「あんなの気にするなよ」
「ああ」
同僚のマーカスがそう言ってくれて、少し救われる気がした。
そんな中でも、ヴィオラからの手紙は定期的に来ていた。会えないことを申し訳なく思うが、ヴィオラからも気にしていないし今は仕事を優先して欲しい、自分も学業が忙しいから大丈夫だと手紙で伝えてきた。だから俺は全く心配していなかった。それだけの時間を積み重ねているとの自負もあった。
「アルヴァン、相談なのだけど……」
グローリア様からの相談は相変わらず続いていた。このままではハイアットに行くのが不安だと仰ることが増えた。知り合いのいない他国で一人過ごすのは確かに不安も大きいだろうと、今の間に少しでも物事がよい方に向かえば、と出来る限り相談には真摯に答えるようにしていた。
「アルヴァンに言われると反論出来ないわ」
その言葉にドキリとした。それは俺がヴィオラによく言われていた言葉だったからだ。それは彼女が渋々ながらも俺の言葉を受け入れてくれた時のものだった。グローリア様がヴィオラに重なった。年が同じなのもあっただろう。もう一人妹が出来たような、そんな気分だった。
その夜会から暫く経った頃、事件が起きた。同僚のマーカスの婚約者が往来で襲われたのだ。彼らは仲のいい婚約者同士で、来年結婚式を挙げることをとても楽しみにしていたのに。
「一体誰が……マリアンヌ……!」
「マーカス……」
婚約者が大怪我を負い、襲撃を受けた恐怖から部屋から出られなくなってしまったと言う。彼が会いに行っても男性を怖がって近づくことも出来ないとも。暫くすると彼女は静養のために領地に行ってしまい、二人の婚約も解消されてしまった。
マーカスは最後まで待つと主張したが、「娘をこれ以上追い詰めないで欲しい」と彼女の父に言われて、それ以上待つことも叶わなくなった。その時の彼の落ち込み様は酷く、見ていられなかった。
またこの事件より半年と少し前にも、同様の事件が起きていた。その時の被害者も近衛騎士の婚約者で、その令嬢は亡くなったと聞く。このような事件が続いたことを陛下は重く見られ、調査をお命じになった。
(ヴィオラ……)
会場内で婚約者の姿が目に入った。リード侯爵にエスコートされたヴィオラは、想像以上に可愛らしかった。柔らかく光を放つような白金の髪に真っ白なドレス姿は、まるで妖精のようにすら見えた。少し大人っぽくなったのも驚きだった。女の子はいきなり変わると聞いたけれど、正にその通りだ。その隣にいられなかったことは残念の一言では言い表せなかったが、俺たちにはまだ先がある。そう思う事で言いようのない焦燥感を押さえつけた。
「今日はコンラット殿下もお見えか」
「そうだな」
ハイアットのコンラット殿下は、反ハイアット派をけん制するかのように、最近はよく我が国を訪問されていた。その隣でグローリア様も楽しそうにお過ごしだった。今日はラファティの王子殿下もお見えだとかで、警備が物々しいのはそのせいもある。
ただ、反ハイアット派は親ラファティ派でもあるので、この場で騒ぎを起こすのは得策ではないように思えた。お二人の縁談を主導していたのはラファティだからだ。情報はガセだったのかもしれない。そう思うと、ヴィオラのエスコートが出来なかったことが一層残念に思われた。
その頃からだろうか、先輩方の態度が更に刺々しくなったのは。まだ若輩で階級も低かったのもあり、周りからの反発は予想以上だった。嫌味や仕事の押しつけは日常茶飯事で、必要な連絡事項が俺にだけ届かないことも多々あった。その点ではカインには酷く苦労をかけていたが、最近はそれが一層酷くなっていた
「よお、アルヴァン、今日もグローリア様のお呼び出しか?」
「はい」
「いいよなぁ、お気に入りは」
「そうそう。だが身の程は弁えておけよ」
すれ違いざま、そんな台詞を先輩方が残すようになった。別に俺はグローリア様のお気に入りというわけでもない。もう一人の先輩騎士の方がずっとグローリア様と親しく、距離が近いのだから。
「あんなの気にするなよ」
「ああ」
同僚のマーカスがそう言ってくれて、少し救われる気がした。
そんな中でも、ヴィオラからの手紙は定期的に来ていた。会えないことを申し訳なく思うが、ヴィオラからも気にしていないし今は仕事を優先して欲しい、自分も学業が忙しいから大丈夫だと手紙で伝えてきた。だから俺は全く心配していなかった。それだけの時間を積み重ねているとの自負もあった。
「アルヴァン、相談なのだけど……」
グローリア様からの相談は相変わらず続いていた。このままではハイアットに行くのが不安だと仰ることが増えた。知り合いのいない他国で一人過ごすのは確かに不安も大きいだろうと、今の間に少しでも物事がよい方に向かえば、と出来る限り相談には真摯に答えるようにしていた。
「アルヴァンに言われると反論出来ないわ」
その言葉にドキリとした。それは俺がヴィオラによく言われていた言葉だったからだ。それは彼女が渋々ながらも俺の言葉を受け入れてくれた時のものだった。グローリア様がヴィオラに重なった。年が同じなのもあっただろう。もう一人妹が出来たような、そんな気分だった。
その夜会から暫く経った頃、事件が起きた。同僚のマーカスの婚約者が往来で襲われたのだ。彼らは仲のいい婚約者同士で、来年結婚式を挙げることをとても楽しみにしていたのに。
「一体誰が……マリアンヌ……!」
「マーカス……」
婚約者が大怪我を負い、襲撃を受けた恐怖から部屋から出られなくなってしまったと言う。彼が会いに行っても男性を怖がって近づくことも出来ないとも。暫くすると彼女は静養のために領地に行ってしまい、二人の婚約も解消されてしまった。
マーカスは最後まで待つと主張したが、「娘をこれ以上追い詰めないで欲しい」と彼女の父に言われて、それ以上待つことも叶わなくなった。その時の彼の落ち込み様は酷く、見ていられなかった。
またこの事件より半年と少し前にも、同様の事件が起きていた。その時の被害者も近衛騎士の婚約者で、その令嬢は亡くなったと聞く。このような事件が続いたことを陛下は重く見られ、調査をお命じになった。
221
読んで下さってありがとうございます。
また、お気に入り登録やエール、とっても励みになります。
ただ今感想を受け付けておりません。
ご了承ください。
また、お気に入り登録やエール、とっても励みになります。
ただ今感想を受け付けておりません。
ご了承ください。
お気に入りに追加
10,724
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃のお仕事は終了です。
火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。
だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。
それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。