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魔術師の真実?
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私が連れ去られたのは、一輝が私とよりを戻したかったこと、笠井が私をラーシュから引き離したかったこと、トーレがラーシュを傷つけたかったからだとわかったけれど……
(いい年した大人が、揃いも揃って何言ってんのよ?)
私は呆れるしかなかった、彼らの幼稚さに。
でも、残念ながら状況はそんな悠長なことを言えるものではなかった。彼らの計画は私をどこかに連れ去って一輝に監禁凌辱生活……だろうか。そんなのは絶対に嫌だ。まぁ。一輝はああ見えてナイーブだしヤンデレでもないので、私が嫌だと強く言えば無理強いはしないだろうけど。
「心配するな、ちゃんとラーシュには合わせてやるよ。それに……あいつの真実を知ったら、お前だってあいつの側にいたくなくなると思うよ?」
「……真実?」
自信たっぷりにそう言われて、何故か嫌な予感がした。ラーシュの真実って……
「お前は気付いていないみたいだけど、お前の足は治らないんじゃない。治さないんだよ。お前が逃げ出せないようにね」
「治さない……」
それってラーシュが、という主語付きだろうか。逃げられないようにって、それって……
「お前はわかっていないみたいだから教えてやるけど、あいつがお前を側に置くのはラウロフェルの民だからだよ」
「ラウロフェルの?」
「魔力に左右されないお前らって、性欲処理にちょうどいいんだよ。魔力酔いするからこっちの女を抱くのは簡単じゃないし。精には魔力が含まれているから、注ぐだけでも最悪死んじゃうんだ」
何とも明け透けに話すトールに嫌悪感が湧いた。好きでもない男からこういう話を聞くのは想像以上に気持ち悪いものだった。
「俺たち魔術師は大きな魔術を使うと昂っちゃうんだ。だから処理用の女を側に置くか、娼館に行ったりして発散するんだよ。まぁ、ラーシュは糞真面目だったから娼婦に近づきもしなかったけどね」
トーレの見下すような物言いが腹立たしかった。でも、確かにラーシュなら娼婦なんて絶対に拒否するだろう。私にだって婚姻するまで手は出さなかったのだから。その機会はいくらでもあったのに。
「あいつがお前を側に置くのは性欲処理のためなんだよ。ペットみたいなものかな。逃げ出せないよう足の怪我も治せないって言って。あいつの手にかかればそんな怪我、一瞬で治せるのにね」
「うわぁ、先輩、可哀相……でも仕方ないですよね。先輩、可愛くないし……」
得意顔でトーレがそう言い放ち、その横ではさりげなく、でも聞こえるように失礼なことを笠井が呟いた。
(そっか、この怪我、やっぱり治せたんだ……)
それは最初から感じていたものだった。崖から落ちたんだから相当な怪我をしたはずだけど、足だけ治らないのが不思議だったのだ。他は小さな傷一つなかったし、何なら昔の怪我まで治っていたし。
「佐那、そんな酷い男なんかやめておけよ。お前が利用されるの、俺、黙って見てらんないよ」
「そうですよ、先輩。トーレさんに足治して貰ったら自由になれるんですよ」
「ほら、同郷の彼らもそう言ってるよ。もしラーシュが追いかけてきても俺が逃がしてあげるよ。何なら俺が王になったら、ラーシュには君に近づかないように命令してあげるしね」
三人が三様に私にそう話しかけてきた。確かに足が治ればラーシュの元を離れることも出来るだろう。足が動けば働けるし、食べていけるだろう。でも……
「……お断りだわ」
「は?
「え?」
「何?」
私の呟きは彼らには聞きとれなかったらしい。
「お断りだって言ってんの!」
「はぁ? 何言ってんだよ、佐那?」
「そうですよ先輩。このままじゃ一生歩けずに軟禁生活ですよ?」
「このままラーシュのペットに甘んじるの? 年取ったら捨てられるかもしれないのに?」
心配しているふりをしているけど、実はそうじゃないなんて見え見えだ。一輝は笠井の本性を知って嫌気がさしたんだろうし、笠井は一輝よりも見目がよくて王候補のラーシュに乗り換えたいだけ。トーレに至ってはラーシュを貶めて傷つけたいだけだ。
「私はラーシュと結婚したの。ほら、婚姻の契約魔術も交わしたし。だから別れる気なんてないの」
「はぁ?」
「婚姻?」
「お前! それって!」
私が手の甲を彼らに見せると、三人が驚きの声を上げた。
「お前っ! それの意味、分かってんのかよ?!」
ひときわ大きな声を上げたのはトーレだった。何だろう、そんなに取り乱すことだろうか?
「それは、互いを縛る契約魔術だぞ?」
「女神様が認めてくれた恋人同士だけが成功する契約でしょ?」
「そんな生っちょろいもんじゃない! それは……そいつは、魂を、命を分け合う秘術中の秘術だ!」
さっきまでの余裕はどこへやら。トーレが動揺を露わにして叫んだ。ふ~ん、そうなんだ。よくわからないけど。
「へぇ? そうなの?」
「おまっ! その意味わかってんのかよ?」
「さぁ? わかってないと思うけど。でもまぁ、私ラーシュが好きだし、別にいいわよ」
少なくとも浮気者で甲斐性なさそうな一輝よりはマシだろう。足の怪我も治せるなら治してくれるようにお願いすればいいんだし。
「お前! ちょっとはあの男を疑えよ!」
一輝が血相を変えて叫んだ。
(いい年した大人が、揃いも揃って何言ってんのよ?)
私は呆れるしかなかった、彼らの幼稚さに。
でも、残念ながら状況はそんな悠長なことを言えるものではなかった。彼らの計画は私をどこかに連れ去って一輝に監禁凌辱生活……だろうか。そんなのは絶対に嫌だ。まぁ。一輝はああ見えてナイーブだしヤンデレでもないので、私が嫌だと強く言えば無理強いはしないだろうけど。
「心配するな、ちゃんとラーシュには合わせてやるよ。それに……あいつの真実を知ったら、お前だってあいつの側にいたくなくなると思うよ?」
「……真実?」
自信たっぷりにそう言われて、何故か嫌な予感がした。ラーシュの真実って……
「お前は気付いていないみたいだけど、お前の足は治らないんじゃない。治さないんだよ。お前が逃げ出せないようにね」
「治さない……」
それってラーシュが、という主語付きだろうか。逃げられないようにって、それって……
「お前はわかっていないみたいだから教えてやるけど、あいつがお前を側に置くのはラウロフェルの民だからだよ」
「ラウロフェルの?」
「魔力に左右されないお前らって、性欲処理にちょうどいいんだよ。魔力酔いするからこっちの女を抱くのは簡単じゃないし。精には魔力が含まれているから、注ぐだけでも最悪死んじゃうんだ」
何とも明け透けに話すトールに嫌悪感が湧いた。好きでもない男からこういう話を聞くのは想像以上に気持ち悪いものだった。
「俺たち魔術師は大きな魔術を使うと昂っちゃうんだ。だから処理用の女を側に置くか、娼館に行ったりして発散するんだよ。まぁ、ラーシュは糞真面目だったから娼婦に近づきもしなかったけどね」
トーレの見下すような物言いが腹立たしかった。でも、確かにラーシュなら娼婦なんて絶対に拒否するだろう。私にだって婚姻するまで手は出さなかったのだから。その機会はいくらでもあったのに。
「あいつがお前を側に置くのは性欲処理のためなんだよ。ペットみたいなものかな。逃げ出せないよう足の怪我も治せないって言って。あいつの手にかかればそんな怪我、一瞬で治せるのにね」
「うわぁ、先輩、可哀相……でも仕方ないですよね。先輩、可愛くないし……」
得意顔でトーレがそう言い放ち、その横ではさりげなく、でも聞こえるように失礼なことを笠井が呟いた。
(そっか、この怪我、やっぱり治せたんだ……)
それは最初から感じていたものだった。崖から落ちたんだから相当な怪我をしたはずだけど、足だけ治らないのが不思議だったのだ。他は小さな傷一つなかったし、何なら昔の怪我まで治っていたし。
「佐那、そんな酷い男なんかやめておけよ。お前が利用されるの、俺、黙って見てらんないよ」
「そうですよ、先輩。トーレさんに足治して貰ったら自由になれるんですよ」
「ほら、同郷の彼らもそう言ってるよ。もしラーシュが追いかけてきても俺が逃がしてあげるよ。何なら俺が王になったら、ラーシュには君に近づかないように命令してあげるしね」
三人が三様に私にそう話しかけてきた。確かに足が治ればラーシュの元を離れることも出来るだろう。足が動けば働けるし、食べていけるだろう。でも……
「……お断りだわ」
「は?
「え?」
「何?」
私の呟きは彼らには聞きとれなかったらしい。
「お断りだって言ってんの!」
「はぁ? 何言ってんだよ、佐那?」
「そうですよ先輩。このままじゃ一生歩けずに軟禁生活ですよ?」
「このままラーシュのペットに甘んじるの? 年取ったら捨てられるかもしれないのに?」
心配しているふりをしているけど、実はそうじゃないなんて見え見えだ。一輝は笠井の本性を知って嫌気がさしたんだろうし、笠井は一輝よりも見目がよくて王候補のラーシュに乗り換えたいだけ。トーレに至ってはラーシュを貶めて傷つけたいだけだ。
「私はラーシュと結婚したの。ほら、婚姻の契約魔術も交わしたし。だから別れる気なんてないの」
「はぁ?」
「婚姻?」
「お前! それって!」
私が手の甲を彼らに見せると、三人が驚きの声を上げた。
「お前っ! それの意味、分かってんのかよ?!」
ひときわ大きな声を上げたのはトーレだった。何だろう、そんなに取り乱すことだろうか?
「それは、互いを縛る契約魔術だぞ?」
「女神様が認めてくれた恋人同士だけが成功する契約でしょ?」
「そんな生っちょろいもんじゃない! それは……そいつは、魂を、命を分け合う秘術中の秘術だ!」
さっきまでの余裕はどこへやら。トーレが動揺を露わにして叫んだ。ふ~ん、そうなんだ。よくわからないけど。
「へぇ? そうなの?」
「おまっ! その意味わかってんのかよ?」
「さぁ? わかってないと思うけど。でもまぁ、私ラーシュが好きだし、別にいいわよ」
少なくとも浮気者で甲斐性なさそうな一輝よりはマシだろう。足の怪我も治せるなら治してくれるようにお願いすればいいんだし。
「お前! ちょっとはあの男を疑えよ!」
一輝が血相を変えて叫んだ。
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