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目が覚めればそこは……

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「は? ここ、どこ……」

 目が覚めると、そこは知らない場所だった。じっとりと嫌な感覚がつま先からせり上がってくるようで、それがお腹の辺りまで来たと感じたら吐き気までしてきた。

(確か……ラーシュと王都に、陛下に会いに来てた、んだよね?)

 直近の記憶を手繰り寄せる。そう、私はラーシュに連れられて王宮に来ていたのだ。結婚したからその報告を陛下にするために。陛下に会った後で侍女さんが大臣がラーシュを呼んでいるって声をかけてきたから、私は一人で豪華な部屋で待っていることになって、それから……

(ダメだ、全然思い出せない……)

 その後は……眠ったか意識を失ったのだろう。何一つ思い出せなかった。服は記憶の最後に来ていたものと同じだし、お腹も空いていないから、そんなに時間は経っていないと思うけど……

(ここ、どこ?)

 周りを見渡すと、倉庫なのだろうか。大きな木の箱が積み上げられているし、一部はひっくり返っていて中身が散乱していた。埃っぽいし、高いところに採光窓みたいなのがあるけど薄暗い。それだけでこの状況が真っ当ではないと理解した。

「目が覚めましたかぁ~」

 やたら高くて間の抜けた舌足らずのうざい口調は、顔を見なくてもわかった。

「これはどういうことかしら? 笠井さん」

 声がした方に視線を向けると案の定笠井がいて、その隣には一輝が、少し離れた場所にはトーレがいた。まぁ、こっちで私を知っているのはラーシュ以外には王様とこの三人だから、想定内と言えば想定内か。

「えっとぉ、一輝さんが先輩を心配するので、お手伝いしただけですよ?」

 悪気など欠片もないのだろう。あっけらかんとそう答えた。

「ふぅん? 同意もなく連れ去るのは誘拐に当たる筈だけど?」
「やだ、先輩ったら、誘拐だなんて大袈裟ですよぉ。私たちの仲じゃないですか?」
「私にとってあなたは、恋人を寝取った最低な尻軽女でしかないけど?」
「……っ! ひ、酷いですぅ。そんなの先輩の誤解じゃないですか」

 誤解? この女の頭はどういう作りになっているんだ? それにしても……どうしたものか……歩けないから逃げ出すのも容易ではない。幸い縛られてはいないけど……

「一輝さん、やっぱり先輩がいいんですって。だから私、お二人のキューピット役を買って出たんです!」

 言っていることと仕草は可愛いかもしれない。時と場合と条件に寄るが。そしてそのどれも満たしていないけど。要はラーシュを手に入れたいから、邪魔な一輝と私をもう一度くっつけて厄介払いしたいのだろう。稚拙過ぎるけど。

「前にも言ったけど、私は御免だわ。頭と下半身の緩い空気読めない男なんて」
「な……! 佐那!」
「先輩酷いです。一輝さんは先輩と離れたことで先輩が真実の愛だって気付いたんですよ? そりゃあ、ちょっと遠回りしたけど、これからは先輩だけを大切にするって言っているんだから受け入れてあげてください」
「そうなんだ、佐那。俺にはやっぱりお前しかいないんだ。だから……」

 そう言って一輝が近づいてくるけど、嫌悪感しか生まれなかった。ラーシュ、こいつらを何とかして……

「ああ、ラーシュの助けを期待しても無駄だよ」
「は?」

 今まで人を見下した笑みしか見せなかったトーレが口を開いた。

「どういうことです?」
「簡単なことさ。ここに認識疎外の結界を張ったんだよ、これでラーシュは君の気配を掴むことは出来なくなるんだ」
「なんで……そんなことを……」

 この人が一輝や笠井を仲間だと思っているとは思えない。二人は気付いていないみたいだけど、明らかに二人を侮蔑した目で見ている。彼にとってラウロフェルの民はそういうものなんだろう。

「何で? 簡単なことだよ。お前がラーシュの弱点だから。あいつはいっつも俺の邪魔をしてくれるんだ。昔から! そして今だって!」
「邪魔? ラーシュが何をしたって言うんです?」
「何をだって? 彼の存在そのものが俺の邪魔なんだよ! 俺よりも多い魔力量! 魔術の腕! 見た目だってそうだ!」
「…………」

 それは単なる嫉妬で言いがかりと言うものだろう。だってラーシュはトーレの事気にもしていないし。

「一番腹立つのが、俺のことを全く意識していないことだ! 俺はあいつに勝とうと必死だったのに、あいつはいつも澄ました顔しやがって! 俺が必死になって手に入れたものを容易く手にする! なのにそれに頓着もしない! そんなところが死ぬほど許せないんだよ!」

 どうやら嫉妬という一言では表せない思いをラーシュに向けていたらしい。それは劣等感からのもので、相当根が深そうに見えた。一輝と笠井もトーレの剣幕に顔色を変えていた。

「だから、あいつの大切なものを奪って、あいつの顔が歪むところが見たかったんだ!」

 ああ、それが本音だったのか。だからあの二人に手を貸したのか。確かに私と一輝がよりを戻せばラーシュは傷つくだろう。

「あいつが執着している女が、他の男に目の前で穢されたら……あいつはどんな顔をするだろうな?」

 にやりとトーレの綺麗な顔が歪んだ。






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