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王の務め

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 私が落ちた国、アーグ王国は他国にも例を見ないほどの実力主義だった。これはこの国を創った女神の子神・アーグデイオーの方針で、この国が発展する原動力でもあったという。
 この世界のことはこれまでもラーシュさんから簡単には聞いていたけれど、王様が言うにはこの国はアーグデイオー神の教えを忠実に守り、実力主義を守り続けているという。その為国王だろうが大臣だろうが実力優先で、貴族なんてものは存在しないのだという。だから国王も世襲制ではなく、その代に最も優秀な魔術師がその地位に就くのだと。
 どうして魔術師かというと、アーグデイオー神が結界で建国したばかりの国を守っていたという逸話からだという。騎士を国境に配置するのは非効率的で、結界を張れば隣国からの侵攻を察知出来る上、ある程度の侵入を止める効果もあるのだとか。

「じゃ、王様って、結界を張るのが仕事……」
「そうなるな。政に関しては詳しい者がやればよいが、結界だけは出来る者が限られている。その者を守るための王位とも言えるな」

 結界を張れるのは魔力量が多くて魔術の腕が際立っている者に限られる。こればかりは生まれ持った資質が物を言い、努力でどうにかなるものではないらしい。だから王位に就けて厳重に守るのだという。ラーシュさんはその次期国王候補だと言うけど……

(そんな凄い人だったなんて! 知っていたら一緒に来なかったのに!)

 いや、その前にラーシュさんのお世話になっている場合じゃないよね、私? 次期国王に看護させるとか、多分ダメだと思う。それにしても……

(何と言うか……これまでの王様の概念と全然違いすぎる……)

 どちらかというと神官とか聖女みたいな感じだろうか? 所変われば品変わるとはこういうことを言うのかもしれない。

「で、そちがラウロフェルの民か。なるほど、魔力が全くないな」

 興味津々で私を注視する王様に、私は何となく居心地の悪さを感じた。変に興味を持たれて実験台とかにされやしないだろうか。この人たちは私をラウロフェルの民と信じているから、どんな扱いをされるか不安しかない。

「陛下」

 今度は違う意味でドキドキしている私を助けるように、ラーシュさんが陛下に呼び掛けた。声が鋭いから顔を見なくても不機嫌なのがわかった。

「ああ、そう魔力を滾らせるな。何もせぬよ。ただ……」
「ただ、何です?」
「お主がこうも興味を持った人間は初めてだからな。それが気になっただけだよ」
「……」

 それってどう意味だろうと気になったけれど、ラーシュさんは何も答えなかった。ええ? それどういう意味なんだろう。すごく気になるんですけど……

「まぁ、お主の魔力に中てられず平気な者など滅多にいないからな。大事にせよ」
「言われなくてもそのつもりです」

 どうやら王様は私に何かする気はないみたいだけど……

(ラーシュさん、それって、どういう意味……)

 大事にしろと言われて、そのつもりって……それって……?

「ああ、だが、近々後継者を決めることになるだろう。その時は……」
「……己の責は、弁えているつもりです」
「ならいい。それまでには諸々準備しておけよ」
「そのつもりです」

 不服そうに答えるラーシュさんに対して、陛下が返した言葉も少なかったけれど、二人の間ではそれで通じたらしい。話が見えそうで見えないのがもどかしい。

「ラウロフェルの娘よ、会えてよかったよ。これからもラーシュを頼むぞ」
「え? あ、あの、お世話になっているのは私の方で……」
「それでも、だ。ラーシュはまともに話せる相手もいなかったからな。そなたはいるだけで支えになる。よろしく頼むよ」
「……はい、私でよければ……」

 最後は凄く柔らかい笑顔で、まるで息子を頼むと言われているような口調だったものだから、ついそう答えてしまった。よかったのだろうか……陛下は私の返事を聞くと「ではまた会おう」と言って行ってしまった。

「お疲れ様でした、シャナ。これで終わりですよ」
「ええ? もう?」
「はい。言ったでしょう? 周りの者は私の魔力に中てられると」
「じゃ、王様は……」
「陛下の魔力は私のと相性が良くないんです」

 それって王様よりもラーシュさんの魔力の方が強いということ? だから陛下は早々に行ってしまったと? 

(だったら、次の王様って……)

 もうラーシュさんに決まりじゃないだろうか。そのことを喜んでいいのか、正直わからなかった。どう見てもラーシュさんがそれを望んでいるようには見えなかったからだ。でも……

(あのトーレって人、もしかして……同じく王様候補ってこと?)

 そう言えば、どっちが魔術師として上かはっきりさせたいみたいなことを言っていた。やたらと対抗意識を持っていたのは、王位かかかっていたから?

「さ、こんなところに長居は無用です。さっさと家に帰りましょう」

 そう言うとラーシュさんはいつものように私を抱き上げて、扉に向かって躊躇なく歩き始めた。来た道を戻っているんだろうけど、すれ違う人が驚きの表情で見ているような気がして落ち着かない。こうなると早く歩けるようになりたかった。

「ラーシュ!」

 あと少しで移転してきた部屋だろうというところで、誰かがラーシュさんの名を呼んだ。





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