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一人で留守番

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「ああっ! アクアったらまた!」

 目が覚めると、もふもふがいた。ラーシュさんに貰った子犬だった。
私はその子にアクアと名付けた。毛並みが銀色だからシルバーでもいいかなと思ったけど、透き通った薄青の瞳がアクアマリンみたいで、こっちの印象が強かったからだ。さすがにアクアマリンは長いので、アクアになった。
ちなみに昔飼っていた犬の名前も考えたけど……モカだったのでやめた。どう考えても色的にモカじゃないからだ。

 そんなアクアは私のベッドに入ってきたがった。ちゃんとアクア用のベッドがベッドの脇にあるのに、目が覚めるとベッドで寝ているのだ。可愛いから私としては全然構わないけど、家主のラーシュさんがどう思うだろう。ペットとはきちんと線引きをしたがる人なら嫌がるだろうし……

「ああ、シャナがいいのなら構いませんよ」
「いいんですか?」
「ええ。護衛も兼ねていますからね。小さいけれど番犬の役目は果たしますから」
「そ、そうですか」

 あんなに小さくて可愛いのに、まさかの番犬枠だったとは……そりゃあ、小型犬でもミニピンみたいにしっかり番犬になる犬もいるけど、アクアは見た目ポメラニアンなので、正直戦力になるのか疑問だ。まぁ、ラーシュさんがそれでいいならいいんだけど。

 その翌日、ラーシュさんは獣討伐に向かった。討伐には普段のラフな服装ではなく、かっちりした仕事着だった。ファンタジーでよく見かける騎士服の上に、紺色よりも更に暗い青のフード付きのローブを着た姿は、確かに魔法使いっぽかった。銀色の髪がローブによく映えるし、一層背が高く見える。勿論、文句なしにかっこよかった。拝みたくなるくらいに眼福だ。

「いいですね、シャナ。絶対に家から出ないで下さい」

 姿は変わっても、中身はいつもの心配性なラーシュさんだった。

「わかりましたってば」
「ですが……」

 もう何度言われたことか。そんなに私は勝手に飛び出すように見えるのだろうか。

「そもそもこの足じゃ、どこにも行けませんよ。部屋を出るのも難儀しているんですから」
「それはそうですが……」
「それよりも、ラーシュさんもそろそろ行かないと」
「……くれぐれも気を付けて下さいね。夕食の時間までには戻りますから」
「わかってますって。ちゃんとアクアとお留守番していますよ」
「……わかりました。では、いってきます」

 今生の別れじゃないんだから、そこまで後ろ髪を引かれることもないだろうに。そう思うほどにラーシュさんは名残惜しそうにしながらも出かけた。最後にもう一度、家から出ないようにと言って。

(ほんと過保護よねぇ。あれで娘なんか出来た日にゃ、とんでもなく過保護なパパになりそう……)

 ラーシュさんの子どもなら絶対に美形だろうから、心配もひとしおだろう。そうは言っても私はラーシュさんの娘じゃない。成人しているし、これでも仕事をして一人暮らしをしていた身だ。そこまで心配だれることはないと思う。しかも夕飯までの間なのだ。

(さてと……何しようかな?)

 ラーシュさんがいないなんて、初めてのことだ。これまでも一、二時間ほど出かけたことはあったけれど、今日は半日とこれまでで最長だ。庭に出るのも禁止されたから、部屋で過ごすしかないなけど……

(……何してっていうか、できることがない……?)

 歩けないから部屋から出るのは難しいし、TVもスマホもない。スマホも一月寝込んでいた間に完全にバッテリーが無くなったから、どっちにしても使えないけど。本も何もないとなると、時間の潰しようがないことに気付いた。

(こんなことなら……本でも用意して貰えばよかったかな……)

 読めるかどうかは別として、暇つぶしくらいにはなっただろうに。仕方なく私はアクアと遊ぶことにした。まだ子犬のアクアは布を丸めて作ったボールを投げると嬉しそうに取ってくる。この遊びが一番のお気に入りだったから、私は飽きるまでその遊びに付き合うことにした。

(……あれ? いつの間に、寝てた?)

 気が付けばベッドの上で寝てしまっていたらしい。目が覚めると外は夕焼けが広がっていた。横ではアクアが丸くなって眠っていた。そう言えば散々ボール遊びに付き合って、疲れたアクアが眠そうにしていたので、一緒にお昼寝をすることにしたんだった。あれはお昼過ぎだったから、結構な時間寝ていたことになる。

「ねぇ、アクア。ラーシュさんはまだ戻ってこないのかな?」
「きゅうん?」

 アクアに尋ねてみたけれど、小首をかしげるだけだった。でもそんな仕草も滅茶苦茶可愛かった。
 次の瞬間、アクアの耳がピンと立って徐に立ち上がった。どうしたのかとその様子を目で追っていたら、急に可愛い姿で唸り始めた。

「へぇ、ラーシュの奴、ラウロフェルの民を囲ってるんだ」
「え?」

 急にかけられた声に驚いて振り向くと……そこには見たことのない人が、好奇心を前面に押し出した表情で佇んでいた。



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