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ラウロフェルの民?

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「ラル……ロフェ、ラ、の民……ですか?」
「ラウロフェルです。ここパリソメニアにかつてあった国の名前です」
「かつて、あった?」
「はい」

 ラーシュさんの話では、ここは創世の女神が作った世界で、ここアーグ王国は女神の十一人の子神の一人、豊穣の男神が造ったと言われているそうだ。女神には子神が十一人いてそれぞれにこの世界で国を建て、その一人がラウロなんちゃらというそうだ。彼は女神に逆らって怒りを買い、彼に従った民も魔力を取り上げられ、この世界から消されたと言われている。

「…………」

 女神に逆らった民って、それってあんまり嬉しくない状態なのでは……いや、私は地球に住む日本人で、ラウロなんちゃらの民なんかじゃないんだけど。

「この世界の民は誰もが微弱ながらも魔力を持ちます。ですが、あなたからは魔力を全く感じません」
「……そ、そうですか」

(ま、魔力って、あのファンタジーにある、魔法の魔力?)

 もう、何言ってんのかわけわからなくなってきたんだけど……このファンタジーっぽい話、まだ続くの?

「ああ、心配なさらず。あなたはこうして生きています。それはあなたが女神様に無実だと認められたからです」

 無実って……あれを無実って言っていいのだろうか。あの狼は襲う気満々だったと思うし、崖からも落ちたんだけど……

「……認められたって……これで?」
「ええ」

 どうにも疑わしいけれど、ラーシュさんはにっこり笑顔を浮かべてそう言い切った。

「女神様に認められなかった場合、この世界に足を踏み入れた時点で死が訪れると言われています。ですがあなたは生きていた。それは女神様があなたにこの世界に存在することをお認めになった証拠なのです」
「……そ、そう、ですか……」

 なんか、喜んでいいのか微妙だ。というか、私はラウロなんちゃらの民じゃないんだけどなぁと思うんだけど、ラーシュさんの様子からして私がそうなのは確定っぽい……いくら女神様が認めたと言っても、ここにいるのは危険な気がする。

「あの、元の世界には……」

 百歩譲ってラーシュさんの言うラウロなんちゃらの国が地球だとして、戻る方法はあるのだろうか。一方通行でなければいいのだけど……

「正直、戻れるとは言えません。そのような話を聞いたことがないので……」
「そう、ですか……」

 物凄く申し訳なさそうにそう言われてしまうと、それ以上尋ねることは出来なかった。イケメンが恐縮するとこちらが罪悪感を抱く事になろうとは……これもイケメン効果と言うものだろうか。いや、そんな悠長なこと、言ってられないんだけど……

「ご心配なく。あなたのことは私が責任をもってお守りしますから」
「え?」

 言われた言葉が直ぐには理解出来なかった。ラーシュさんにとって私は女神様の怒りを買った民の末裔だし、助けてくれたことは有難いけれど、責任を感じてもらうような謂れはないと思うんだけど。こういう場合、公的機関に預けるとかが普通じゃないだろうか。

「い、いえ。そこまでお世話になるわけには……」
「遠慮なさらなくても大丈夫です。ラウロフェルの民の保護は私たちの義務でもあるのです」
「でも……さすがにお世話になるわけには……」

 そりゃあ、こんな素晴らしいイケメンを拝める生活は僥倖だけど、ずっと一緒はさすがに私の神経が持たない気がする。それに、この身体じゃただの居候にしかならないんじゃないだろうか。ラーシュさんほどのイケメンなら恋人が、いや、奥さんがいてもおかしくないだろう。だったら私、思いっきりお邪魔虫じゃないか。

「でしたら、せめて傷が癒えるまでここで過ごしませんか?」
「え?」
「ここは静かで空気もよく、療養に向いています」
「でも……」
「それに……私としてもこうして話せる相手にお会い出来て、大変嬉しいのです」
「は?」

 こんなイケメン、誰でも話をしたがるだろうに。それとも何だ、イケメン過ぎてみんな目がハートになってまともな会話が成立しないとか? 確かにこれほどのイケメンだったら肉食女子の皆さんが黙ってはいないだろうけど。

「実は……私は、生まれつき魔力が多いせか、周囲に干渉してしまうのです」
「は?」

 ラーシュさんが言うには、この世界では魔力は相手の精神にも干渉する程の力があるらしい。彼は生まれつき魔力が多く、彼と同じくらいの魔力量がある者でないと会話もままならないのだと言う。何その設定、怖い……

「魔力には相性もあるので強ければ大丈夫とも言えなくて……そういう意味ではあなたは初めて普通に話が出来た方なのです」
「そ、そうですか……」
「ずっと一人だったので、話す相手が出来てとても嬉しく思っているのですよ」

 にこにこと笑顔でそう言われてしまうと、何だか放っておけない。何だろう、耳と尻尾が見える気がするんだけど……

「もしかして、ここに一人で住んでいるのって……」
「はい、人が近くにいると魔力を抑えるのに難儀してしまって。それでこの森の番人になったのです。かれこれ十年になりますか……」
「え? 十年も、一人で?」
「ええ、まぁ。でも街に買い出しにも行きますし、報告を上げに王都に行ったりもします。たまに訪ねてくる者もいますし、完全に一人という訳ではありません」

 なんて事ないように言うけれど、こんな森に一人でなんて寂しいんじゃないだろうか。私もどちらかといえば人付き合いは苦手だけど、それでも友達とは会いたいと思うし、会社の同僚との付き合いも嫌いじゃない。さすがにここまでボッチは無理だ。心が折れそう……

「もしあなたがお嫌でなければ、暫くだけでもここにいてくれませんか?」

 なんてこった! 尻尾と耳が視えそうな気がしたけれど、イケメンなのによりにもよって捨て犬系わんこだったのか。昔犬を飼っていた私は、このお願いを断れる精神力を持ち合わせていなかった。




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