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王子からの出頭命令が届きました…
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夜会でフレデリク王子に出会ってしまった私に、翌日、王子の名で手紙が届いた。屋敷の中が大騒ぎになったのは言うまでもない。内容は…一度話をしたいからぜひ王宮に来て欲しい…というお願いの体をした出頭命令だった。
(うそでしょ…フラグはとっくに無効なはず…)
王子との出会いのイベントはスルーした。そしてアイザック様と婚約した私は、既に安全圏にいる筈だった。なのに…小説の強制力とでもいう力なのか、王子は小説通りに私に接触してきた。
(これって…強制力からは逃げられない、って事?)
手紙には話がしたい、二人きりでは外聞が悪いからクローディアも同席すると書いてあるが、王子に興味を持たれた事が問題なのだ。話をするだけで済むのだろうか…
いや、最初はそうかもしれないけど、会えば気持ちがこちらに傾いてくるのではないか…そんな懸念がじわじわと膨れ上がっていくのを、私は止める事が出来なかった。
王子の指定した日は、五日後だった。子爵家の娘でしかない私が、このお願いを無視するなんて事は許されないのは明らかだった。
アイザック様にも相談したけれど…アイザック様も話がしたいだけなら深く考えずに行ってくるといい、クローディアも一緒ならいい機会だと言われてしまった。先日のパーティーでもクローディアに私と仲良くしてやって欲しいと言っていたので、楽しんでくるといいと背中を押されてしまったのだ。
アイザック様は小説の事も、私が本物のセラフィーナじゃない事も知らない。だからきっと、本当に同年代の者同士で交流を…と思ったのだろう。マクニール侯爵家とローウェル侯爵家は親戚関係にあるらしく、実際に仲もいい。アイザック様と結婚すれば、いずれは王子やクローディアとの交流も生じるのだ。
クローディアは侯爵家の一人娘で跡取りだ。王子は第三王子だから成人すれば王族から離れる立場で、来年には臣籍に下ってマクニール侯爵家に婿に入る。
こんな状態でよく婚約破棄したよなぁ…とこの世界に来て思ったものだ。うん、本当に小説の中の王子とセラフィーナって、頭の中がお花畑だったよね…
指定された五日後。私はアイザック様が用意してくれたドレスで王宮を訪れた。今日は上半身が青で、スカートの裾に向かって白くなるグラデーションの美しいドレスだった。青はもちろんアイザック様の瞳の色で、差し色は黒とピンクだった。
「ローウェル侯爵様って…もしかしてとんでもなく独占欲が強いのかも…」
このドレスを見たエレンがそう言ったけれど…それはないと思う。だってアイザック様はいつでも余裕の態度だし、一回り年が離れた小娘にそこまで執着なんてしないだろう。
同年代目線からすると、何でも卒なくこなす様は羨ましい限りだ。社畜化してじたばたしていた自分を思うと…ちょっと凹む。そういう意味ではアイザック様は、同期でも出世組にいた連中と同じなんだろう。そこは頭の出来と要領の良さも多いに関わってくるので、平々凡々な私には手が届かない領域だった。
王宮はやっぱり、ローウェル侯爵家なんか比じゃないほど豪華絢爛だった。世の中にはこんな金持ちもいるんだな…と思わず視線が遠くなってしまったのは許して欲しい。正直言って既に胃が痛い。帰ったら胃薬を飲もう、そうしよう…
侍女に案内された部屋は、王族の生活エリアにある客間だった。こんなところにまで入ってもいいのだろうか…と逆に不安になったのは言うまでもない。
「ああ、ハットン子爵令嬢、よく来てくれたね」
「ようこそ、ハットン子爵令嬢」
部屋に通されると、そこには王子と…クローディアが並んで座り、既にお茶をしていた。二人共表情は穏やかで、小説の中にあったような余所余所しさがなく、仲がよさそうに見えた。
(何だろう…この違和感…)
想定外の二人の雰囲気に、当初とは別の意味で緊張感が増した。そんな私の心情などお構いなく、王子は機嫌よく私に席を勧めた。二人の向かい側のソファに腰を下ろすと、侍女が二人のお茶を下げて、新しく三人分を入れてから下がった。そうなれば…この部屋にいるのは王子とクローディア、そして私の三人だけになった。
(な、何で人払いを…)
侍女が下がった事で私は急に不安になった。呼び出された理由が、皆目見当がつかなかったからだ。小説に関係している可能性しか考えられないのだけど、それだったら目の前の二人の仲のよさそうな雰囲気はどう受け止めればいいのだろうか…
まさかクローディアと懇ろだけど私とも…なんて正妻公認で愛人を囲う訳でもあるまいに…まさかそう聞くわけにもいかず…私は二人が話し出すのを静かに待った。子爵家の私が話しかけるなんて不敬だからだ。
「ああ、気楽にしてくれていいよ。今はここには私たちだけだから」
「恐れ入ります、フレデリク王子殿下。それと、先日の夜会ではお気にかけて下さってありがとうございました」
「ああ、その事か。気にしなくていいよ。それよりも顔色が悪かったけれど、もう大丈夫なの?」
「はい、もう大丈夫です」
これから顔色が悪くなりそうな気がしたけど、そんな事を言えるわけもなく、私は定型文で対応するのが精いっぱいだった。だって子爵家だよ?下位貴族だよ?王族相手では上位貴族のマナーが必要なのに、私はまだそっちは勉強中なのだ。失礼な事をしないかと、内心はドキドキしっ放しだった。
「ふふっ、そこまで畏まらなくてもいいよ。今日は君には聞きたい事があってね」
「聞きたい事、ですか…」
な、何だろう…聞かれたくない様な気がするのは防衛本能だろうか。何となく王子から圧を感じた私は、後退りしたい衝動に駆られた。
「うん。例えば…セラフィーナ嬢の姿をした君はどこの誰か、とかね」
(うそでしょ…フラグはとっくに無効なはず…)
王子との出会いのイベントはスルーした。そしてアイザック様と婚約した私は、既に安全圏にいる筈だった。なのに…小説の強制力とでもいう力なのか、王子は小説通りに私に接触してきた。
(これって…強制力からは逃げられない、って事?)
手紙には話がしたい、二人きりでは外聞が悪いからクローディアも同席すると書いてあるが、王子に興味を持たれた事が問題なのだ。話をするだけで済むのだろうか…
いや、最初はそうかもしれないけど、会えば気持ちがこちらに傾いてくるのではないか…そんな懸念がじわじわと膨れ上がっていくのを、私は止める事が出来なかった。
王子の指定した日は、五日後だった。子爵家の娘でしかない私が、このお願いを無視するなんて事は許されないのは明らかだった。
アイザック様にも相談したけれど…アイザック様も話がしたいだけなら深く考えずに行ってくるといい、クローディアも一緒ならいい機会だと言われてしまった。先日のパーティーでもクローディアに私と仲良くしてやって欲しいと言っていたので、楽しんでくるといいと背中を押されてしまったのだ。
アイザック様は小説の事も、私が本物のセラフィーナじゃない事も知らない。だからきっと、本当に同年代の者同士で交流を…と思ったのだろう。マクニール侯爵家とローウェル侯爵家は親戚関係にあるらしく、実際に仲もいい。アイザック様と結婚すれば、いずれは王子やクローディアとの交流も生じるのだ。
クローディアは侯爵家の一人娘で跡取りだ。王子は第三王子だから成人すれば王族から離れる立場で、来年には臣籍に下ってマクニール侯爵家に婿に入る。
こんな状態でよく婚約破棄したよなぁ…とこの世界に来て思ったものだ。うん、本当に小説の中の王子とセラフィーナって、頭の中がお花畑だったよね…
指定された五日後。私はアイザック様が用意してくれたドレスで王宮を訪れた。今日は上半身が青で、スカートの裾に向かって白くなるグラデーションの美しいドレスだった。青はもちろんアイザック様の瞳の色で、差し色は黒とピンクだった。
「ローウェル侯爵様って…もしかしてとんでもなく独占欲が強いのかも…」
このドレスを見たエレンがそう言ったけれど…それはないと思う。だってアイザック様はいつでも余裕の態度だし、一回り年が離れた小娘にそこまで執着なんてしないだろう。
同年代目線からすると、何でも卒なくこなす様は羨ましい限りだ。社畜化してじたばたしていた自分を思うと…ちょっと凹む。そういう意味ではアイザック様は、同期でも出世組にいた連中と同じなんだろう。そこは頭の出来と要領の良さも多いに関わってくるので、平々凡々な私には手が届かない領域だった。
王宮はやっぱり、ローウェル侯爵家なんか比じゃないほど豪華絢爛だった。世の中にはこんな金持ちもいるんだな…と思わず視線が遠くなってしまったのは許して欲しい。正直言って既に胃が痛い。帰ったら胃薬を飲もう、そうしよう…
侍女に案内された部屋は、王族の生活エリアにある客間だった。こんなところにまで入ってもいいのだろうか…と逆に不安になったのは言うまでもない。
「ああ、ハットン子爵令嬢、よく来てくれたね」
「ようこそ、ハットン子爵令嬢」
部屋に通されると、そこには王子と…クローディアが並んで座り、既にお茶をしていた。二人共表情は穏やかで、小説の中にあったような余所余所しさがなく、仲がよさそうに見えた。
(何だろう…この違和感…)
想定外の二人の雰囲気に、当初とは別の意味で緊張感が増した。そんな私の心情などお構いなく、王子は機嫌よく私に席を勧めた。二人の向かい側のソファに腰を下ろすと、侍女が二人のお茶を下げて、新しく三人分を入れてから下がった。そうなれば…この部屋にいるのは王子とクローディア、そして私の三人だけになった。
(な、何で人払いを…)
侍女が下がった事で私は急に不安になった。呼び出された理由が、皆目見当がつかなかったからだ。小説に関係している可能性しか考えられないのだけど、それだったら目の前の二人の仲のよさそうな雰囲気はどう受け止めればいいのだろうか…
まさかクローディアと懇ろだけど私とも…なんて正妻公認で愛人を囲う訳でもあるまいに…まさかそう聞くわけにもいかず…私は二人が話し出すのを静かに待った。子爵家の私が話しかけるなんて不敬だからだ。
「ああ、気楽にしてくれていいよ。今はここには私たちだけだから」
「恐れ入ります、フレデリク王子殿下。それと、先日の夜会ではお気にかけて下さってありがとうございました」
「ああ、その事か。気にしなくていいよ。それよりも顔色が悪かったけれど、もう大丈夫なの?」
「はい、もう大丈夫です」
これから顔色が悪くなりそうな気がしたけど、そんな事を言えるわけもなく、私は定型文で対応するのが精いっぱいだった。だって子爵家だよ?下位貴族だよ?王族相手では上位貴族のマナーが必要なのに、私はまだそっちは勉強中なのだ。失礼な事をしないかと、内心はドキドキしっ放しだった。
「ふふっ、そこまで畏まらなくてもいいよ。今日は君には聞きたい事があってね」
「聞きたい事、ですか…」
な、何だろう…聞かれたくない様な気がするのは防衛本能だろうか。何となく王子から圧を感じた私は、後退りしたい衝動に駆られた。
「うん。例えば…セラフィーナ嬢の姿をした君はどこの誰か、とかね」
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