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王子との出会いをスルーしました

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 今後の方針を決めた私は、更に「セラフィーナ」についての情報を集める事に専念した。目が覚めてから二十日ほどが経ち、両親や屋敷内の主だった侍女たちとは顔を合わせて大体の事は掴んだが、やっぱり全く知らない人だった。
 医師は相変わらずそのうち記憶が戻るでしょう、なんて言っていたけど、この頃の私は、多分それはないんじゃないかなぁ…と思ったので、記憶が戻らない前提での人生設計を考えた。あ、設計って程でもないわね。方針って感じ?今決まっているのって、王子とは出会わないし恋愛しない、だけだし。

 セラフィーナの家は子爵家だけど、子爵家って公侯伯爵家の分家とかそんな感じよね?こんな家の出で王子妃ってかなりハードルが高い。何と言うか…王子の恋人になったらやっかみとか凄そうだし、面倒くさそう。パワハラセクハラを経験してきた身としては、そういうのはノーサンキューなのだ。どうせ十七歳からやり直せるなら、私は平和に暮らしたかった。



「セフィ、調子はどう?」
「お母様?ありがとうございます。大丈夫です」
「そう?痛いところや苦しいところがあったら直ぐに言うのですよ」
「はい、ありがとうございます」

 お見舞いに来てくれたのは、私のこの世界での母親であるシンシアさんだった。私と同じピンクの髪だけど、目は鮮やかな緑色。私の目の色は父親であるクリストファーさん譲りだ。あ、何でさん付けかって?そりゃあ、知らない人だし、年もあまり変わらなそうな人をいきなり親とは呼べなくてねぇ…
 あ、対外的にはちゃんとお父様とお母様って呼んでいますよ。でないと、とんでもなく悲しそうな顔をするので。何て言うか、罪悪感が、ね…

 シンシアさんは大らかで楽天的で、一緒にいても気が楽な人だった。後妻って言うとシンデレラの影響か意地悪なイメージがあるけど、シンシアさんはどっちかというと姑に苛められそうなタイプだ。貴族だから堅苦しさはあるけど、父親のクリストファーさんよりはずっと気楽。
 クリストファーさんは何と言うか、真面目で堅物って感じで話し難いんだよね。まぁ、それでもパワハラとかセクハラするタイプじゃないだけマシだけど。って、実の娘にやったらそれはそれで問題か。こちらは王宮勤めで忙しいらしく、二日に一回くらいしか帰ってこないけど、帰ってくると必ず様子を見に来るから…不器用なだけでいい人なんだと思う。

 あと異母兄がいるんだけど…まだこっちには会っていなかった。彼は名をライナスと言い、今は騎士団で騎士をしていて寮に住んでいるとかで、滅多に家には帰って来ないらしい。彼は先妻の子で、後妻の母と私の事は嫌っている、というのがエレンや他の侍女たちの見解だった。
 シンシアさんは思春期の男の子は難しいわねぇ…なんて言っていたけど、それなりにいい歳なんだし、いい加減大人の事情も察したら?と思う。父が母と再婚したのは、跡継ぎが一人しかいないのはダメだと本家でもある侯爵様が命じたからだと言う。別に不倫していたわけでもないし、両親が逆らえる話でもなかったんだからさぁ…と思うんだけどね。




 さて、王子と出会うXデーが十日後に迫ってきた。その日は春の訪れを祝う春明祭の日で、王都にはたくさんの露店が並ぶという。王都では秋にある秋晴祭と冬にある冬星祭に並ぶ大掛かりなお祭りらしい。どこの世界も春と秋、そして冬はお祭りシーズンらしいわね。もう何年そんなイベントとは無縁の生活を送っていたっけ…と記憶を手繰っていたらエレンに声を掛けられた。

「セラフィーナ様、春明祭はいかがいたしますか?」
「春明祭…」

 エレンにそう言われた私は、直ぐには答えられなかった。春明祭は興味があるけれど…今回は行くのは危険よね。王子と出会うイベントの日だ。どこで出会ったかも覚えていないだけに、街に出るのは危険な気がする…
 となれば、今回は行かない一択だ。下手に外に出て王子と出会ってしまったら、今の穏やかな引き籠り生活が崩れちゃうかもしれないし。

「せっかくだけど…今年はやめておくわ」
「そうですか?でも…」
「まだ、頭痛やめまいもあるし…お祭りで倒れたら周りの人に嫌な思いをさせちゃうでしょう?」
「それはそうですが…」

 エレンは残念そうだったけれど、ごめんね、今回は引けないわ。王子と出会ったところで私は相手にする気はさらっさらないから、出会わない方がいいのよ。でなきゃ王子が可哀想でしょう?
 第一、何が嬉しくて高校生を相手にせにゃならんのだ?私は年上が好みなのだ。十七歳のお子様に愛なんか囁かれた日にゃ…ごめん、笑っちゃう自信ならある。
 となると、やっぱりね、未来ある青少年を傷つけるなんて事、年長者としては出来ないじゃない?そう言うのって、パワハラとかモラハラになりそうだし。つい最近まで上司のパワハラセクハラに悩まされていた私としては、自分が加害者になるつもりは毛頭ないのだ。

 そんな訳で、春明祭の日、私は家に引き籠った。万が一にも誰かに外に連れ出されないようにと、前日から体調が悪いふりをする念の入れようだった。主に頭痛と眩暈で、何かの拍子に立ちくらむ演技つき。みんなに心配をかけるのは心苦しいけれど、どうせやるなら完璧にこなしたい。中途半端な事して未来ある青少年をトチ狂わせたくはないし、私も厄介事はノーサンキューなのだ。



 こうして、私が王子と恋に落ちる筈の春明祭は無事に終わった。念のため、その後も数日は外に出ずに過ごしたから、王子とのいわゆるフラグも立たなかった筈だ。私の最初の目的は達成したと思われた。

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