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再び王城へ

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 陛下から登城要請があったのは、あの夜会から十日後のことでした。私はウィル様とレオと共に王宮に向かうと、侍従に謁見の間へと案内されました。未成年ということもあってレオの出席は任意でしたが、レオが自分は次期当主だから見届けたいと言い、ウィル様もその方がいいと勧めて下さったのです。
 謁見の間に入ると、既に陛下と王妃様、王太子殿下と宰相様、お祖母様の横には壮年の貴族が十人ほど並んでいらっしゃいました。夜会で挨拶した方もいらっしゃいますが、皆さまお偉い方なのは明らかです。

「ヘルゲン公爵夫妻とリルケ伯爵令息、よく来たな。今日呼び出したのはリルケ伯爵家の件だ」

 そのことは事前にウィル様から伺っていました。多分、両親とお姉様の処分が決まったのでしょう。自ずと背筋が伸びました。そうしている間に、両親とお姉様が騎士に囲まれながら入ってきました。三人とも質素な服装で、お母様やお姉様などお化粧などもしていないせいか枯れた花のようです。入室時にはすっかり打ちひしがれていた三人でしたが、私に気付くと憎々し気な視線を向けてきました。どうやら反省する気はないようです。そうだろうなぁと思っていましたが……これは先々が思いやられますわね。

 私がそんなことを思っている間も、宰相様が両親とお姉様の罪状を読み上げていきます。王宮内でも魔術の無断使用に禁呪の悪用、私への虐待に王家からの支度金の横領は私も知っているものでした。
 お父様に至っては、職場での横領に公文書の改ざん、部下への不当な金銭要求や職務の押しつけなど、聞いているこちらが恥ずかしくなるようなものが次々と並べられていきました。それぞれは実に小さく、普通なら口頭での注意で済むレベルですが、数が多さから日常的に不正や不当な行為を繰り返していたのでしょう。こうなると、存在自体が恥ですわね。
 またお母様は、お父様やお姉様の治癒魔術を使ってご夫人方の顔の皴や傷を消すかわりに金銭や劇場の優先席などの要求を繰り返していたようです。魔術師の力は王家が一括して管理しているので、そのような行為は禁じられているのですが、三人は些細なことだからと無視していたそうです。他にも日常的に我が家よりも家格が低い家への横柄な態度を繰り返していたことが露わになりました。
 お姉様に関しても……お母様に協力したこと、私への禁呪の使用と学園内での偽りの噂の流布、またイドニア様への嫌がらせを繰り返していたことが明らかになりました。お姉様はイドニア様を害しようとしたマダリン様を唆した疑いもありました。

(それにしても……よくこれだけのことを……)

 一つ一つは大層なことではないのでしょうが、そこが小悪党と言いますか小物感満載の内容です。まぁ、お父様は尊大に振舞っていますが、離れたところから見れば劣等感の裏返しなのだろうことは容易に察せられました。あんなに怖いと思っていたのに、です。これも呪いのせいだったのでしょうか。

「三人に問う。申し開きはあるか?」
「と、当然でございます!!」

 お父様が胸を張って声を張り上げました。

「ほう? 既に証拠も多々あり調べはついているのにか? それでも異議があると?」
「な……?」

 さっきの勢いはどこへやら、お父様が狼狽えました。

「当り前であろう? 我が国にも法はある。証拠もなく罪を問うことなど、例え国王の私でも無理な話だ」
「しかし……」
「そなたらは随分と好き放題していたそうだな。聞き取りをすれば皆、嬉々として話してくれたぞ」
「な……!!」

 お父様だけでなく、お母様やお姉様も驚きの表情を浮かべていますが、どうして驚くのでしょう。そっちの方が驚きなのですが……お母様に至っては「あんなによくしてあげたのに……」と呟いています。夫人方のお顔の悩みを解決してあげていた、むしろ恩を感じろと思っていたのでしょう。違法だとも知らずに。

「そなたらへの刑を言い渡す。三人とも伯爵家からの籍を抜き平民とする。また今後は魔力封じの腕輪を装着の上、ヘルゲン公爵領の騎士団にての雑役を命じる」
「お、お待ちください!!! いくら何でも平民などと……」
「そうですわ、雑役だなんて……私は伯爵夫人ですのに!」

 案の定、両親は大声で陛下の下された沙汰に抗議をしています。お姉様だけは一言も発しませんが、その表情は茫然として現状が理解出来ないように見えました。

「こ、これもエル―シアの仕業ね! 何て子なの、親を陥れるなんて!!!」
「そうだ、この恩知らずが! お前など、お前など生まれてこなければよかったのに!!!」

 とうとう私への的外れな怨言が始まりました。ビックリしながら両親を見ていると、急にそれが聞こえなくなりました。ウィル様が私の耳を両手で塞いでしまったのです。いえ、どうせなら聞いておきたいのですが……幸いにも完全とはいえず、小さな音で何を言っているのかは理解出来ました。

「黙れ!」

 顔を赤くし憤怒を顔に乗せて叫ぶ両親にとうとう限界が来たのか、陛下が一喝されました。貴族が、それも陛下の御前であの罵詈雑言はないでしょう。よくもまぁ、あんなに悪口が考え付くなぁと感心してしまいます。しかも殆どが妄想と言いますか、身に覚えのないことです。

「本来なら三人とも処刑が妥当だったのだ。命が助かっただけでも十分すぎるほどの恩情だ」
「ですが……!」
「そこまで言うなら、本来の刑に戻すか?」
「ほ。本来の刑?」
「むち打ち百回の後で斬首刑だ」
「ヒィイイッ!」
「ざ、斬首……」

 お母様が聞いたこともない悲鳴を上げると倒れてしまいました。お父様とお姉さまはそんなお母様の元に駆け寄るわけでもなく、茫然と立ち尽くしています。

「禁呪の無断使用は即刻斬首刑。魔術師なのにそんなことも知らなかったのか?」
「あ……」

 とうとうお父様が膝をついて項垂れてしまいました。ということはその事はご存じだったのですね。なのにお姉様がそれを使ったのに諫めもしなかったと。今の状態はご自身が招いたことだと、理解して下さったのでしょうか。

「心配するな、簡単には死なせぬ。精々長く生きて罪を償え。労働の中身はそなたらの反省次第だと言うことも付け加えておこう」

 三人を生かす目的は魔力の回収です。ローレに私が乗っ取られないよう魔力を補う必要があるからですが、これのことは三人には伏せられています。知ればよからぬことを考えるだろうからとのことで、魔力封じの腕輪も実際には魔力を搾り取り溜めておくものです。あまり過酷な労働では魔力も生まれなくなる上、出来る限り長生きさせる必要があるので簡単な雑役になったのですよね。これは温情ではなく、私のための魔力を如何に得るかを一番に優先した結果でした。



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