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いざ解呪!の筈が……

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 翌日、お屋敷の解呪のお許しを得た私は、意気揚々と朝を迎えました。ずっと憧れていた解呪の仕事が出来るのです。ここに来るまでもエンゲルス先生から頂いた記録だけでなく、解呪に関する教本や授業でとったノート、これまたエンゲルス先生から頂いた本などを何度も読み返していました。お陰で今まで習った知識はほぼ頭に入っていて準備万端です。
 お屋敷の中のことですが、勝手に歩き回るのはどうかと思うので、まずはマーゴに案内してもらいながら……などと考えていたら、デリカがやってきました。何でしょうか? 

「さぁ、奥方様! まずは衣裳を揃えましょうね。仕立て屋を呼んでありますので階下までお越しください」
「え?」

 衣裳? 仕立て屋? そのような話は初耳なのですが……戸惑っている間にも、若い侍女さんが何人かやってきました。

「奥方様、ここヘルゲンは王都よりも北で寒いのですよ。王都の衣装では風邪をひいてしまいますから」
「そうですわ。朝晩は冷え込みますから」
「さぁさぁ、奥方様に似合う服を選びましょう」

 彼女たちの勢いに押されて私が仕立て屋の待っている部屋に向かうと、あっという間に採寸されてしまいました。その上で、色とりどりの生地やら既製品のワンピースやドレスを宛がわれて、すっかり着せ替え人形です。

(ど、どうしてこんなことに?)

 そりゃあ、お姉様のお古しかなかったし、それもリリアーヌの私服と交換して貰ったので、公爵夫人が着るにはお粗末だったかもしれませんが……でも、解呪するならそんな服で十分なのですよね。それに、誰かに見せるわけでもないですし……そう思ったのですが……

「公爵夫人としての品位は保ちませんと!」
「ええ、ええ。ようやく女主人が来て下さったのですもの!」
「奥方様が来て下さったからには腕が鳴りますわ!」

 侍女さん達のやる気が凄いことになっています。私の意見は見事なくらいに綺麗に流されて、皆さま好き好きに衣裳を選んでいますが、いいのでしょうか? 身体は一つですし、夜会などに出る必要もないから普段着が数着あれば十分なのですが……

 結局、普段使いの既製品のワンピースが十着、それに合わせたカーディガンなどの羽織るもの、解呪などの作業時に仕えそうな動きやすいワンピース五着、ちょっとしたお茶会などに使えるデイドレス五着がそのままクローゼットに仕舞われました。それ以外でもオーダーメイドのドレスやワンピース、靴や服に合わせた宝飾品もあるというのですが……

(ちょ……いくら何でも散財し過ぎじゃ……)

 そんな私の思いは誰にも届きませんでした。侍女さん達の結束力が半端ないです。

 しかもその後は、何故かお風呂に放り込まれて綺麗に磨き上げられ、全身フルマッサージに突入です。ここに到着した時もマッサージして頂きましたが、その時以上に入念でした。気持ちよかったけれど、凄くすっきりしましたけれど……

(早く解呪したいんですけど……)

 公爵様が少しでも楽になれるよう、私は解呪がしたいのです。それに呪いはそこにあるだけで周囲の人たちにマイナスに作用します。公爵様だけでなくこのお屋敷で働く皆さんためにも早くやりたいのに……

「ねぇ、デリカ。私、一日も早く解呪したいのだけど」
「奥方様、それはここでの生活に慣れてからにいたしましょう」
「でも……」
「旦那様からもそのように伺っております。ここにきてまだ日も浅く、お疲れが残っている状態では危険です」
「そんなことはないわ。ここに来てからはたくさん食べてよく寝ていますもの。こんなに快適に過ごせているのは生まれて初めてなのよ?」

 そう言うのですが、デリカはもう少し様子を見るように言うばかりでした。早くお役に立ちたいのに……これではかえってストレスになってしまいそうです。結局その日は解呪出来ないまま終わってしまいました。



 翌朝、我が家から付いてきてくれたリリアーヌや護衛たちが帰っていきました。最後までリリアーヌが謝ることはありませんでしたが、公爵様が私との結婚を了承したことを聞くと複雑な表情を浮かべていました。何だというのでしょう? でも、それを知ったところで私にはどうしようもありません。彼らには公爵様から個別に褒賞が与えられ、また実家向けに馬車二台分の贈り物が用意されていました。
 あの贈り物を見て、また両親たちが勘違いしなければいいのですが……どこまでも自分たちの都合のいいように考える人たちなので、公爵様、いえ、ウィル様のご迷惑にならないかと不安になってしまうのが悲しいです。



 彼らがこの屋敷から去った後、ようやく肩の力は抜けたのを感じました。リリアーヌはあの騒動の後は私にきつく当たることはありませんでしたが、やはり近くにいるだけでプレッシャーになっていたようです。そのせいでしょうか、その日の晩から熱を出してしまいました。

「やはりお疲れが残っていたのですね」

 デリカがそう言いながら甲斐甲斐しく看病をしてくれました。半分は正解ですが半分は……リリアーヌたち実家の関係者がいなくなって気が緩んだのでしょう。自覚はありませんでしたが、実家という存在は私には重荷になっていたようです。

「もう奥方様を傷つける者はおりませんわ。ゆっくりお休みになって下さい」

 デリカのそんな声をどこか遠くで聞きながら私の意識は白い闇に吸い込まれ……それからの三日三晩、寝込んでしまったのでした。




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