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危機一髪
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何が起きたのか、直ぐにはわからなかった。瓦礫を含んだ熱風が叩きつけて痛みと熱が襲い掛かった。息をするのも苦しいほどの熱さが通り抜け土ぼこりが舞った。目に何か入ったみたいで痛くて目を開けられない。誰かに身体ごと覆われている気がする。ティアだろうか……
「ソフィ様!!」
ティアの叫ぶ声に答えようとして目を開けたけれど、目に痛みが走って涙がそれを洗い流そうと溢れてきた。
「何で……」
こうなっているのか。見上げた先にあったのは炎の赤だった。炎のせいで皇子の髪は一層赤みを増していた。覆い被さっていたのはここにいる筈のない皇子だった。
「な、何でここに……!」
自ずと目が大きく見開かれて一層痛みと涙が増したけれど、それどころじゃない。何で皇子がここにいるのか。しかも私に覆いかぶさるようにしているなんて。もしかしてこれは気を失った私が見ている夢なのだろうか……
「おい、無事か!?」
夢の中でも皇子は相変わらずだった。口が悪くて全然皇子らしくない。黙っていれば皇子らしいのに、残念だ。
「おい? 何を考えている? 目を開けたまま寝ているのか?」
「……随分失礼な物言いですね」
「何だ、一応起きてはいるのか」
一応とは何だ、一応とは。相変わらず一言多い。優しくないし、目が痛いんだから夢じゃなかったらしい。
「呆けている暇はないぞ。何でこうなっているのか、後できっちり聞かせて貰うからな」
そう言うと皇子は私を立たせた。そこにティアが駆けつけてきて私を支えてくれたけれど……
(っ!)
触れられた腕が痛かった。さっき痛めたのかもしれない。目の痛みは気付いても腕はわからなかったのは状況のせいだろうか……それでも酷くはないので黙っていることにした。言えばティアに心配をかけてしまう。
改めて周囲を見渡すと、暗がりの中で帝国の騎士が騎士を拘束しているのが見えた。一番近くに見えるのはあの茶髪の騎士で、二人がかりで抑え込まれていた。エドとグレンの姿も見えてほっとした。皇子に話しかけている姿からは怪我をしているようには見えなかった。
「なんで、皇子がここにいるのよ……」
今は王党派の残党を成敗しに行ったのではなかったのか。
「何でって、王党派の残党狩りのため?」
「三日かかるんじゃなかったの?」
「向こうが準備にそれくらいは必要かと思ってそう言っていた。予想通りだったな」
「へ?」
それじゃ、もしかしてこうなったのも皇子の計算の内? 最初から王宮の残党をあぶり出すために?
「まさか、王党派の残党って……」
「そこにいる奴らだな」
「三日かかるって……」
「あいつらが動き出すにはそれくらい言っておいた方が動きやすいだろう?」
「それじゃ……」
最初から王宮内にいる残党をあぶり出すためだったと? 皇子自ら出る必要があるのかと思っていたけれど、まさかカモフラージュだったなんて……
「どういうことです!? 私まで騙すなんて!!」
「そうしなきゃ相手にバレるだろうが。お前、すぐ顔に出るし。今だってそうだろう?」
「な!」
そう言われてしまうと反論出来なかった。確かにその通りだけど……でも、だからって……
「しっ、心配したのに!! 私の心配を返してよ!!」
「何だ、心配してくれたのか?」
「ぅ……」
ふざけるな! と言い返そうとしたけれど出来なかった。皇子がそれはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべたからだ。こんな時なのに何でそんな顔をするのか。そんなの反則だ……頬が熱いのはきっと火のせいだ。
「殿下、関係者は捕縛しました。残りは騎士が追っています」
「ああ」
皇子が鷹揚に頷くと、捕らえられた者たちが集められた場所へと歩を進めた。私もティアに支えられながらその後を追う。何だか釈然としないけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「くそっ!! 何でお前がここに!!」
一際皇子を罵っているのは、あの茶髪の騎士だった。思い出の彼とは似ても似つかない激しく憎悪に満ちた表情が今でも信じられない気分だ。
「マテウス=リドマンか」
皇子が彼の側に立ち、そう呟いた。そう言えば彼の名前すら知らなかった。リドマン侯爵家の人だったのか。リドマン侯爵は中立派の一つだった。信条があって中立だったわけじゃない。どっちにも決めかねての消極的なものだった。それもあってお咎めはなかったけれど、気の弱い侯爵は王宮での職を辞して領地に籠っていると聞いていた。
「残念だったな。お前らの動きはお見通しだったよ。まぁ、さすがにあの偽王女の信望者だとは思わなかったが」
「無礼な!! 偽王女だと!? アンジェリカ様こそ正当な後継者でいらっしゃる! そこの下賤の血が入った女とは違う!!」
皇子の言葉に彼は激しく反発した。それもそうだろう。アンジェリカの出自はまだ公表されていないから。知っているのは帝国の上層部と、多分アシェルの一部の者たちだろうけれど、アシェルの方は知っている者は殆ど生き残っていない。
「アンジェリカは死産した王女の身代わりに連れて来られた末端貴族の娘だ。王の血は一滴も流れていない。王妃の実家の傍流だから王妃の血には近いかもしれんがな」
「う、嘘だ!!」
「嘘ではない。信じないか? 俺は事実を言っている。信じる信じないはお前らの勝手だ。好きにしろ」
「当り前だ! 非道な帝国人の言うことなど信じられるか!! くそっ! その女を王妃にするんだったらどうしてアンジェリカ様を連れて行った!? せっかく入れ替えたのに!!」
「え?」
入れ替えたって、どういう意味? もしかして……
「ソフィ様!!」
ティアの叫ぶ声に答えようとして目を開けたけれど、目に痛みが走って涙がそれを洗い流そうと溢れてきた。
「何で……」
こうなっているのか。見上げた先にあったのは炎の赤だった。炎のせいで皇子の髪は一層赤みを増していた。覆い被さっていたのはここにいる筈のない皇子だった。
「な、何でここに……!」
自ずと目が大きく見開かれて一層痛みと涙が増したけれど、それどころじゃない。何で皇子がここにいるのか。しかも私に覆いかぶさるようにしているなんて。もしかしてこれは気を失った私が見ている夢なのだろうか……
「おい、無事か!?」
夢の中でも皇子は相変わらずだった。口が悪くて全然皇子らしくない。黙っていれば皇子らしいのに、残念だ。
「おい? 何を考えている? 目を開けたまま寝ているのか?」
「……随分失礼な物言いですね」
「何だ、一応起きてはいるのか」
一応とは何だ、一応とは。相変わらず一言多い。優しくないし、目が痛いんだから夢じゃなかったらしい。
「呆けている暇はないぞ。何でこうなっているのか、後できっちり聞かせて貰うからな」
そう言うと皇子は私を立たせた。そこにティアが駆けつけてきて私を支えてくれたけれど……
(っ!)
触れられた腕が痛かった。さっき痛めたのかもしれない。目の痛みは気付いても腕はわからなかったのは状況のせいだろうか……それでも酷くはないので黙っていることにした。言えばティアに心配をかけてしまう。
改めて周囲を見渡すと、暗がりの中で帝国の騎士が騎士を拘束しているのが見えた。一番近くに見えるのはあの茶髪の騎士で、二人がかりで抑え込まれていた。エドとグレンの姿も見えてほっとした。皇子に話しかけている姿からは怪我をしているようには見えなかった。
「なんで、皇子がここにいるのよ……」
今は王党派の残党を成敗しに行ったのではなかったのか。
「何でって、王党派の残党狩りのため?」
「三日かかるんじゃなかったの?」
「向こうが準備にそれくらいは必要かと思ってそう言っていた。予想通りだったな」
「へ?」
それじゃ、もしかしてこうなったのも皇子の計算の内? 最初から王宮の残党をあぶり出すために?
「まさか、王党派の残党って……」
「そこにいる奴らだな」
「三日かかるって……」
「あいつらが動き出すにはそれくらい言っておいた方が動きやすいだろう?」
「それじゃ……」
最初から王宮内にいる残党をあぶり出すためだったと? 皇子自ら出る必要があるのかと思っていたけれど、まさかカモフラージュだったなんて……
「どういうことです!? 私まで騙すなんて!!」
「そうしなきゃ相手にバレるだろうが。お前、すぐ顔に出るし。今だってそうだろう?」
「な!」
そう言われてしまうと反論出来なかった。確かにその通りだけど……でも、だからって……
「しっ、心配したのに!! 私の心配を返してよ!!」
「何だ、心配してくれたのか?」
「ぅ……」
ふざけるな! と言い返そうとしたけれど出来なかった。皇子がそれはそれは嬉しそうな笑顔を浮かべたからだ。こんな時なのに何でそんな顔をするのか。そんなの反則だ……頬が熱いのはきっと火のせいだ。
「殿下、関係者は捕縛しました。残りは騎士が追っています」
「ああ」
皇子が鷹揚に頷くと、捕らえられた者たちが集められた場所へと歩を進めた。私もティアに支えられながらその後を追う。何だか釈然としないけれど、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「くそっ!! 何でお前がここに!!」
一際皇子を罵っているのは、あの茶髪の騎士だった。思い出の彼とは似ても似つかない激しく憎悪に満ちた表情が今でも信じられない気分だ。
「マテウス=リドマンか」
皇子が彼の側に立ち、そう呟いた。そう言えば彼の名前すら知らなかった。リドマン侯爵家の人だったのか。リドマン侯爵は中立派の一つだった。信条があって中立だったわけじゃない。どっちにも決めかねての消極的なものだった。それもあってお咎めはなかったけれど、気の弱い侯爵は王宮での職を辞して領地に籠っていると聞いていた。
「残念だったな。お前らの動きはお見通しだったよ。まぁ、さすがにあの偽王女の信望者だとは思わなかったが」
「無礼な!! 偽王女だと!? アンジェリカ様こそ正当な後継者でいらっしゃる! そこの下賤の血が入った女とは違う!!」
皇子の言葉に彼は激しく反発した。それもそうだろう。アンジェリカの出自はまだ公表されていないから。知っているのは帝国の上層部と、多分アシェルの一部の者たちだろうけれど、アシェルの方は知っている者は殆ど生き残っていない。
「アンジェリカは死産した王女の身代わりに連れて来られた末端貴族の娘だ。王の血は一滴も流れていない。王妃の実家の傍流だから王妃の血には近いかもしれんがな」
「う、嘘だ!!」
「嘘ではない。信じないか? 俺は事実を言っている。信じる信じないはお前らの勝手だ。好きにしろ」
「当り前だ! 非道な帝国人の言うことなど信じられるか!! くそっ! その女を王妃にするんだったらどうしてアンジェリカ様を連れて行った!? せっかく入れ替えたのに!!」
「え?」
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