【完結】入れ替われと言ったのはあなたです!

灰銀猫

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面会の後

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 三人とも話が出来る状態ではなくなったため、面会はそこで終わった。謁見の間で彼らへの処分と今後の処遇を聞いた時よりも酷い気分だ。王家の闇という言葉を聞いたことがあるが、正に今聞いた話がそれだったのだろう。
 部屋に戻るとそのままソファに倒れ込んだ。ティアは察してくれたようで何も言わず、香りのいいお茶を出してくれた。

「ソフィ様、こちらもどうぞ」

 ティアが出してくれたのは素朴なクッキーだった。珍しい。ここで出るお菓子はどれも手間暇かけて作られた物ばかりだったから。

「これって……」
「殿下からですわ」
「殿下……」

 王子まだいたんだと思いながら、目の前の御仁を見た。彼がこれを持ってくるなんて随分と意外だ。今までもお菓子を貰ったけれど、多くは珍しい物が殆どだったからだ。いや、ある意味ここでは素朴なクッキーの方が珍しいけど。

「こういうの好きだろう?」
「え? ええ、ありがとうございます」

 そんな話をしただろうか? 確かにここで出される手の込んだ物よりも、子どもの頃に食べていた素朴な焼き菓子の方が好きだけど。せっかくなので一枚とって齧ると、懐かしい味が口に広がった。うん、懐かしい。母が生きていた頃によく侍女たちがこっそり分けてくれたっけ。

「もしかして母たちのこと、殿下はご存じだった、なんてことありませんよね?」
「帝国を甘く見ないで貰いたいな」

 部屋に向かいながら、皇子に問いかけてみると予想通りの答えが返ってきた。帝国の調査能力は想像以上だった。そうか、知っていたのか……薄ら寒く感じる。でも……

「ありがとうございます」
「いや、好きなだけ食べてくれ。足りなければティアに言うといい」

 そういうことじゃないのだけど。どれだけ食べさせる気なんだ? これ全部食べたら夕食は無理だし、胃もたれして明日の朝食も怪しいんだけど。そうじゃなくて……

「あの、王妃と異母姉のことです。言わずにいて下さったのでしょう?」

 帝国から話がなかったのは王妃や異母姉への恩情だったのかもしれないとも思った。あの謁見で公表することも出来たのだから。

「今更処分が変わるわけでもないからな。言う必要はないと思っていた」
「そうでしょうね。私も、聞かない方がよかったかもしれません」

 母が犠牲者だったとわかったところで、何かが変わるわけでもない。母の私への態度には理由があったとしても、母に蔑ろにされた事実は変わらない。それは王妃や異母姉も同じだ。今の気持ちを一言で表すなら……虚しい、だろうか。母の姿を知ることが出来たのは収穫だったかもしれないけれど、死んだ後では意味がないように思えた。

「どうする? 罰を増やすか?」
「罰って……何に対しての?」
「いくらでもあるだろう? 母親への名誉棄損に虐待。特に姉は王女じゃなかったんだ。となれば姉妹の諍いではなく王族への不敬罪だ」

 確かに異母姉が父の子でなければ、立場は私の方が上だ。公爵家、いや、王族でも私は父と王妃、弟に次ぐ立場になるから、異母姉の態度は不敬罪としては十分だろう。

「毒杯が決まっているのに、これ以上何の罰を」
「そうだな、鞭打ち辺りが妥当だろうな」
「そんなことしても意味ないですよ」
「それでも、少しは気が晴れるだろう?」
「晴れません」
「そう言うだろうと思った」

 何なんだ、一体。何が言いたいのかさっぱりわからない。それでも、悪い気はしなかった。そういえばこんな風に気持ちを考慮されたことは殆どなかったなと思う。母ですらそうだった。そんなことをしてくれたのは、小さい頃に母に仕えていた年配の侍女と、あの茶色の髪の騎士くらいだろうか。元気にしているだろうか。

「そういえば、異母姉は一体誰の子だったんです?」
「同じ時期に公爵家の末端の家で同じ色の女児が生まれ、死産だったという」
「それじゃ……」
「その家は半年後に火事で全焼している」
「なんて、酷いことを……」

 その子は殺され、両親と使用人も口止めされたのか。無関係の人間をたったそれだけの理由で殺せるなんて、同じ人間とも思えない。

「王妃の実家は……」
「今頃は叔父上が漏れなく罪状を暴いているだろうね。私たちがアシェルに行くまでには一掃されているだろう。だが、聞きたいことがあるなら止めておくぞ」
「いえ、いいです」

 そんな汚物見たくない。父のように狂っているかもしれないし。皇弟殿下にお任せした方が精神衛生上もいいように思えた。

「……エリクはどうしていますか?」

 面会にエリクに同行しないか誘ったけれど、来なくて正解だったと思う。王妃に虐待されて死ぬ寸前まで言っていたのだ。それなら会いたくないと言うのも納得だ。私でも二度と関わりたくないと思うだろう。

「あれからも変わりなく元気に過ごしていると聞いている」
「そう、ですか」

 それならよかった。むしろ帝国でアシェルから引き離されて暮らしている方が心穏やかでいられるのかもしれない。彼だけは侍女がアシェルから付いてきていると言ってたけれど、もしかしたらそういう事情も踏まえていたのかもしれない。

「会いたいか?」
「それは……」

 会いたいとは言えなかった。会えば嫌な記憶を思い出すかもしれない。手紙のやり取りはしていたけれど、その中身は他人行儀な時候に挨拶と近況報告の域を外れていない。彼は生まれて直ぐ王妃の元に連れていかれたから、姉弟という実感もないし……

「……会っても、いいのでしょうか」

 アシェルに行けばもう会うことは難しいだろう。特に弟は帝国の外に出ることは一生ないだろうし。今が最後の機会だけど……

「いいだろう。姉弟なんだ。今のうちに会っておけ」

 あっさりそうと言われて気が軽くなった。難しく考えすぎていたのかもしれない。会って気まずかったらそれを最後にしてもいいのかもしれないし。何もしないで諦める必要はないはず。

「そう、ですね。でも、彼が会いたくないと言ったら諦めます」
「わかった。父上に話をしておこう」

 見た目に反して皇子は気さくで話の分かる相手だった。これなら何とか夫婦としてやっていけるかもしれない。そうあって欲しかった。



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