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襲撃者たち
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結界が破られそうになった。ここは引いた方がよさそうだ。攻撃を受けた風を装って逃げ出した後湖に落ちる風を装った。水の中に入ってしまえばどうにでもなる。
湖の底に身を沈めて息を殺した。水中でも息は出来るから困らないけど、まさか襲われるとは思わなかった。あれは誰だ? 冒険者か? 攻撃魔術を連射してきたように見えた。もしくは複数で一斉に攻撃してきたか? わからない。だがただの冒険者じゃないだろう。あれだけの魔術が使えたら魔術師になれるだろうに。少なくとも帝国ではそうだった。
そう言えば置いてきたグリーンドラゴンはどうなっただろう。拘束魔術を掛けたままだから動けずにあそこにいるのだろう。奴らに見つかったか? 動けないからあのままかもしれない。人間に害を加えるならあのままでもいいが、そうでなければ後味が悪い。今術を解くべきだろうか。だがあの様子では暴れそうだ……
「確か……ルダーとか言ったな」
ドラゴンに知り合いはいない。ガイルかラーなら知っているだろうか? ガイルよりも長く生きているように見えた。ラーは確か三百五十年生きていると言っていたっけ。だったらガイルとあまり変わらないか。
暫く湖底で様子を伺っていたが、湖の中まで調べに来る様子はなかった。とは言ってもドラゴンの身体は大きいから目立つ。見つかったらまた攻撃されるだろう。俺は人間の姿に戻って湖底を泳ぎ、アシーレ川に出た。見つからないよう藪のある岸辺まで下ってそこから陸に上がった。
「っ……!!」
立ち上がろうとしたら頭の中が揺れた気がして倒れ込んでしまった。足も痛むし、それ以外にも身体のあちこちが痛む……
(やっべぇ、しくじったか……)
攻撃を直接受けてはいないけどダメージは受けていたらしい。結界が破られたのか? そんな筈はないと思うんだけど……だったら湖に落ちた時に失敗しただろうか。よくわからない。こんな風に攻撃されたのは初めて……だったか? ああ、以前ネイトさんのところに向かおうとしてルゼに攻撃されたっけ。
じゃ、攻撃してきたのはドラゴンハンターか?だったらダメージを受けたのも奴らの特殊な攻撃のせいかもしれない。彼らはドラゴンを殺すのに特化しているから。
じっとしていたけれど頭の中が揺れて立てそうもなかった。そのうちラーが来てくれるだろうか。そう思っていたら地面を踏む音が聞こえた。魔獣か? いや、それなら俺には近づかない。だったら、さっきの奴らか?
「おいっ!! 大丈夫か?!」
突然男の大声が聞こえた。ああ、俺に向けているのか? 動かない頭でそんなことを考えていたら声の主が姿を現した。二人……三人……か。冒険者みたいな恰好をしているし、さっきの攻撃はこいつらが……
「……ルーク、か?」
霞む思考に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。重くなった瞼を開けて声の主を見上げた。そこには緑の髪を一つに縛った見知った男が驚きの表情で俺を見下ろしていた。
「……ルゼ?」
「やはりルークか」
そう言えばネイトさんのところで別れたっきりだったな。フィンはどうした? 一緒じゃないのか?
「ルゼ、知り合いか?」
尋ねたのは一回り程年上の体格のいい男だった。茶の髪は土属性か。その後ろにいる若い男は見事な赤毛だった。俺に連射してきた魔術は火属性だったからこいつだろうか。
「あ、ああ。以前……世話になった」
相変わらず淡々と無表情で喋る奴だな。大きな声を出されるよりはいいけど。
「立てないのか? どうしてここに?」
やっぱりそれ聞くよな。俺も聞くよ。でも本当のことは言えないし……
「魔石を探していたら……突然水が溢れて……流されたんだよ」
そういうことにしておこう。魔石は採ったし嘘じゃない。
「魔石?」
「ああ。生活の足しにするためにな。ここら辺はあまり魔獣がいないから」
適当に話を合わせておこう。でも実際この辺は魔獣が少ないんだよ、俺のお陰で。
「あ~ドラゴンが落ちたからな」
「あれで鉄砲水みたいになったか」
「あれだけの大きさだと危ないっすよね」
冒険者らしい男らが口々にそう言った。ああ、これも俺のせいか。そう言えば……!
「ま、街が!! っ!!」
「おい、大丈夫か?」
起き上がろうとしたけれど、頭の中が揺れて身体を起こせなかった。大丈夫じゃないけどそれどころじゃない。そうだよ、俺、湖に落ちている場合じゃなかったよ。あれのせいで街に水が押し寄せたら……誰から川辺に出ていたら……ラーが間にあっていればいいけど……
「街が、あるのか?」
若い男が眉を顰めた。
「あ、ああ、この下流に、アシーレの街が……」
「街なんかあったか? 地図に載ってないけど」
「最近移住したんだ。レーレ川のほとりにあったギギラの街が水邪竜に襲われて住めなくなったから」
「ギギラの? そう言えばそんな話があったな」
年長の男が顎に手を当てて思い出したように呟いた。ルゼは知らないらしい。まだ日が浅いから知られていないのも仕方ないかもしれない。
「無理に動かない方がいい。おい、担架を作るぞ。悪いが街に案内してくれ」
「あ、ああ……すまない」
「いや、流されたのは俺たちにも原因がある。気にしないでくれ」
年長の男が人懐っこい笑みを浮かべた。申し訳ないが動けないから仕方がない。
(おかしいなぁ……なんで身体が動かねぇんだ? やっぱさっきの攻撃のせいなのか?)
聞きたいけど聞くと藪蛇になりそうで聞けなかった。
湖の底に身を沈めて息を殺した。水中でも息は出来るから困らないけど、まさか襲われるとは思わなかった。あれは誰だ? 冒険者か? 攻撃魔術を連射してきたように見えた。もしくは複数で一斉に攻撃してきたか? わからない。だがただの冒険者じゃないだろう。あれだけの魔術が使えたら魔術師になれるだろうに。少なくとも帝国ではそうだった。
そう言えば置いてきたグリーンドラゴンはどうなっただろう。拘束魔術を掛けたままだから動けずにあそこにいるのだろう。奴らに見つかったか? 動けないからあのままかもしれない。人間に害を加えるならあのままでもいいが、そうでなければ後味が悪い。今術を解くべきだろうか。だがあの様子では暴れそうだ……
「確か……ルダーとか言ったな」
ドラゴンに知り合いはいない。ガイルかラーなら知っているだろうか? ガイルよりも長く生きているように見えた。ラーは確か三百五十年生きていると言っていたっけ。だったらガイルとあまり変わらないか。
暫く湖底で様子を伺っていたが、湖の中まで調べに来る様子はなかった。とは言ってもドラゴンの身体は大きいから目立つ。見つかったらまた攻撃されるだろう。俺は人間の姿に戻って湖底を泳ぎ、アシーレ川に出た。見つからないよう藪のある岸辺まで下ってそこから陸に上がった。
「っ……!!」
立ち上がろうとしたら頭の中が揺れた気がして倒れ込んでしまった。足も痛むし、それ以外にも身体のあちこちが痛む……
(やっべぇ、しくじったか……)
攻撃を直接受けてはいないけどダメージは受けていたらしい。結界が破られたのか? そんな筈はないと思うんだけど……だったら湖に落ちた時に失敗しただろうか。よくわからない。こんな風に攻撃されたのは初めて……だったか? ああ、以前ネイトさんのところに向かおうとしてルゼに攻撃されたっけ。
じゃ、攻撃してきたのはドラゴンハンターか?だったらダメージを受けたのも奴らの特殊な攻撃のせいかもしれない。彼らはドラゴンを殺すのに特化しているから。
じっとしていたけれど頭の中が揺れて立てそうもなかった。そのうちラーが来てくれるだろうか。そう思っていたら地面を踏む音が聞こえた。魔獣か? いや、それなら俺には近づかない。だったら、さっきの奴らか?
「おいっ!! 大丈夫か?!」
突然男の大声が聞こえた。ああ、俺に向けているのか? 動かない頭でそんなことを考えていたら声の主が姿を現した。二人……三人……か。冒険者みたいな恰好をしているし、さっきの攻撃はこいつらが……
「……ルーク、か?」
霞む思考に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。重くなった瞼を開けて声の主を見上げた。そこには緑の髪を一つに縛った見知った男が驚きの表情で俺を見下ろしていた。
「……ルゼ?」
「やはりルークか」
そう言えばネイトさんのところで別れたっきりだったな。フィンはどうした? 一緒じゃないのか?
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尋ねたのは一回り程年上の体格のいい男だった。茶の髪は土属性か。その後ろにいる若い男は見事な赤毛だった。俺に連射してきた魔術は火属性だったからこいつだろうか。
「あ、ああ。以前……世話になった」
相変わらず淡々と無表情で喋る奴だな。大きな声を出されるよりはいいけど。
「立てないのか? どうしてここに?」
やっぱりそれ聞くよな。俺も聞くよ。でも本当のことは言えないし……
「魔石を探していたら……突然水が溢れて……流されたんだよ」
そういうことにしておこう。魔石は採ったし嘘じゃない。
「魔石?」
「ああ。生活の足しにするためにな。ここら辺はあまり魔獣がいないから」
適当に話を合わせておこう。でも実際この辺は魔獣が少ないんだよ、俺のお陰で。
「あ~ドラゴンが落ちたからな」
「あれで鉄砲水みたいになったか」
「あれだけの大きさだと危ないっすよね」
冒険者らしい男らが口々にそう言った。ああ、これも俺のせいか。そう言えば……!
「ま、街が!! っ!!」
「おい、大丈夫か?」
起き上がろうとしたけれど、頭の中が揺れて身体を起こせなかった。大丈夫じゃないけどそれどころじゃない。そうだよ、俺、湖に落ちている場合じゃなかったよ。あれのせいで街に水が押し寄せたら……誰から川辺に出ていたら……ラーが間にあっていればいいけど……
「街が、あるのか?」
若い男が眉を顰めた。
「あ、ああ、この下流に、アシーレの街が……」
「街なんかあったか? 地図に載ってないけど」
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「ギギラの? そう言えばそんな話があったな」
年長の男が顎に手を当てて思い出したように呟いた。ルゼは知らないらしい。まだ日が浅いから知られていないのも仕方ないかもしれない。
「無理に動かない方がいい。おい、担架を作るぞ。悪いが街に案内してくれ」
「あ、ああ……すまない」
「いや、流されたのは俺たちにも原因がある。気にしないでくれ」
年長の男が人懐っこい笑みを浮かべた。申し訳ないが動けないから仕方がない。
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