冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
73 / 88

襲撃者たち

しおりを挟む
 結界が破られそうになった。ここは引いた方がよさそうだ。攻撃を受けた風を装って逃げ出した後湖に落ちる風を装った。水の中に入ってしまえばどうにでもなる。
 湖の底に身を沈めて息を殺した。水中でも息は出来るから困らないけど、まさか襲われるとは思わなかった。あれは誰だ? 冒険者か? 攻撃魔術を連射してきたように見えた。もしくは複数で一斉に攻撃してきたか? わからない。だがただの冒険者じゃないだろう。あれだけの魔術が使えたら魔術師になれるだろうに。少なくとも帝国ではそうだった。

 そう言えば置いてきたグリーンドラゴンはどうなっただろう。拘束魔術を掛けたままだから動けずにあそこにいるのだろう。奴らに見つかったか? 動けないからあのままかもしれない。人間に害を加えるならあのままでもいいが、そうでなければ後味が悪い。今術を解くべきだろうか。だがあの様子では暴れそうだ……

「確か……ルダーとか言ったな」

 ドラゴンに知り合いはいない。ガイルかラーなら知っているだろうか? ガイルよりも長く生きているように見えた。ラーは確か三百五十年生きていると言っていたっけ。だったらガイルとあまり変わらないか。



 暫く湖底で様子を伺っていたが、湖の中まで調べに来る様子はなかった。とは言ってもドラゴンの身体は大きいから目立つ。見つかったらまた攻撃されるだろう。俺は人間の姿に戻って湖底を泳ぎ、アシーレ川に出た。見つからないよう藪のある岸辺まで下ってそこから陸に上がった。

「っ……!!」

 立ち上がろうとしたら頭の中が揺れた気がして倒れ込んでしまった。足も痛むし、それ以外にも身体のあちこちが痛む……

(やっべぇ、しくじったか……)

 攻撃を直接受けてはいないけどダメージは受けていたらしい。結界が破られたのか? そんな筈はないと思うんだけど……だったら湖に落ちた時に失敗しただろうか。よくわからない。こんな風に攻撃されたのは初めて……だったか? ああ、以前ネイトさんのところに向かおうとしてルゼに攻撃されたっけ。
 じゃ、攻撃してきたのはドラゴンハンターか?だったらダメージを受けたのも奴らの特殊な攻撃のせいかもしれない。彼らはドラゴンを殺すのに特化しているから。
 じっとしていたけれど頭の中が揺れて立てそうもなかった。そのうちラーが来てくれるだろうか。そう思っていたら地面を踏む音が聞こえた。魔獣か? いや、それなら俺には近づかない。だったら、さっきの奴らか? 

「おいっ!! 大丈夫か?!」

 突然男の大声が聞こえた。ああ、俺に向けているのか? 動かない頭でそんなことを考えていたら声の主が姿を現した。二人……三人……か。冒険者みたいな恰好をしているし、さっきの攻撃はこいつらが……

「……ルーク、か?」

 霞む思考に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。重くなった瞼を開けて声の主を見上げた。そこには緑の髪を一つに縛った見知った男が驚きの表情で俺を見下ろしていた。

「……ルゼ?」
「やはりルークか」

 そう言えばネイトさんのところで別れたっきりだったな。フィンはどうした? 一緒じゃないのか?

「ルゼ、知り合いか?」

 尋ねたのは一回り程年上の体格のいい男だった。茶の髪は土属性か。その後ろにいる若い男は見事な赤毛だった。俺に連射してきた魔術は火属性だったからこいつだろうか。

「あ、ああ。以前……世話になった」

 相変わらず淡々と無表情で喋る奴だな。大きな声を出されるよりはいいけど。

「立てないのか? どうしてここに?」

 やっぱりそれ聞くよな。俺も聞くよ。でも本当のことは言えないし……

「魔石を探していたら……突然水が溢れて……流されたんだよ」

 そういうことにしておこう。魔石は採ったし嘘じゃない。

「魔石?」
「ああ。生活の足しにするためにな。ここら辺はあまり魔獣がいないから」

 適当に話を合わせておこう。でも実際この辺は魔獣が少ないんだよ、俺のお陰で。

「あ~ドラゴンが落ちたからな」
「あれで鉄砲水みたいになったか」
「あれだけの大きさだと危ないっすよね」

 冒険者らしい男らが口々にそう言った。ああ、これも俺のせいか。そう言えば……!

「ま、街が!! っ!!」
「おい、大丈夫か?」

 起き上がろうとしたけれど、頭の中が揺れて身体を起こせなかった。大丈夫じゃないけどそれどころじゃない。そうだよ、俺、湖に落ちている場合じゃなかったよ。あれのせいで街に水が押し寄せたら……誰から川辺に出ていたら……ラーが間にあっていればいいけど……

「街が、あるのか?」

 若い男が眉を顰めた。

「あ、ああ、この下流に、アシーレの街が……」
「街なんかあったか? 地図に載ってないけど」
「最近移住したんだ。レーレ川のほとりにあったギギラの街が水邪竜に襲われて住めなくなったから」
「ギギラの? そう言えばそんな話があったな」

 年長の男が顎に手を当てて思い出したように呟いた。ルゼは知らないらしい。まだ日が浅いから知られていないのも仕方ないかもしれない。

「無理に動かない方がいい。おい、担架を作るぞ。悪いが街に案内してくれ」
「あ、ああ……すまない」
「いや、流されたのは俺たちにも原因がある。気にしないでくれ」

 年長の男が人懐っこい笑みを浮かべた。申し訳ないが動けないから仕方がない。

(おかしいなぁ……なんで身体が動かねぇんだ? やっぱさっきの攻撃のせいなのか?)

 聞きたいけど聞くと藪蛇になりそうで聞けなかった。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...