冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
66 / 88

ライリー=アールベック

しおりを挟む
 名乗った俺に反応したのは男の方だった。表情は髪や傷跡ではっきりしないが、驚いているらしいことは纏う雰囲気で感じた。感じたけど、彼が驚く理由が俺にはわからなかった。ローリーという名の人物に全く心当たりがなかったからだ。

「あの、なにか?」

 驚いているせいか、それとも怪我の影響なのかはわからないが、俺の名を叫んだ男はそれっきり動かずにこちらを注視しているように、感じた。感じたと言うのは表情がわからなくてはっきりしなかったからだ。
 ただ、女はそんな彼に何かを感じ取っているのか、不安そうな表情を浮かべていた。暫しの沈黙に埒が明かないと声をかければ、男はようやく我に返ったらしい。

「あ、ああ……すまない。し、知り合いに、似ていたもので……」
「知り合い? って、俺が?」
「ああ。弟が……ルーカスと言って、青緑の髪をしていたから……」
「え?」

 ドクン、と心臓が跳ねた気がした。弟がルーカス? 俺と同じ青緑の、髪? 青緑の髪は珍しい方だけど、そんな偶然が……いや、だが……

「あの……つかぬことを聞くけど、ライリーという男を知らないか? ライリー=アールベックだ」
「ラ、ライリーって……」

 先に反応したのは女の方だった。どうやらその名を知っているらしい。そんな……とか、まさか……と呟いているのが聞こえた。

「ライリー……アールベック……」
「ローリー! ダメ!」

 その名を呟く男を止めたのは、やっぱり女だった。どうやらこの女は兄を知っているらしい。というか……ここまで来たら、この男が兄さん、なんじゃないのか?

「なぁ、ローリーさんとやら。あんたがライリー=アールベックじゃないのか?」
「っ!」
「ローリー!!! やめて!!!」」

 まどろっこしいのはもう十分だ。そう思った俺が核心を突くと、男が息を呑み、女が止めに入った。これは、肯定するのを止めるため、だろうか。

「ライ兄さん、なんだろう? 違うのか?」
「……!」
「ローリー!」

 昔々、俺がまだ魔術師養成所に入る前に口にしていた呼び名で呼ぶと、ローリーと呼ばれる男が膝から崩れ、それを目にした女が慌てて支えようと手を伸ばした。

「ローリー! しっかりして!」

 女が男を抱きかかえるようにして顔を覗き込んだが、男は既に意識を失ったのか、その瞳の色を確かめることは出来なかった。





 それから俺は、意識を失った男を抱えてベッドへと運んだ。男は成人男性にしてはやけに軽くて、栄養状態がよくないのは明白だった。女も痩せて顔色も悪いし、肌や髪に艶がない。ここでの生活の苦しさが伝わってきた。

「彼のことを、話してくれないか? あの怪我や、ここに住んでいる経緯を」

 もはや彼が兄であることは明らかに思えた。それに最後に会ったのは俺が六歳で兄さんが十一歳の時だったから、顔を見ても当人かなんてわかる筈もない。俺の薄れた記憶に残っているのは十一歳の兄さんだったから。

「…………」
「別にここにいたいなら連れ戻す気はないよ。俺と兄さんが最期にあったのは二十二年も前だし。俺はただ、死んだと言われていた兄さんが本当に死んだのか、それを確かめたかっただけなんだ」

 そう、既に二十二年も会っていない兄さんを、今更どうにかしようとは思わなかった。そりゃあ困っているなら助けたいとは思うけど、それも兄さんが望む場合だけだ。今更不用意に踏み込む気はなかった。そう思えるくらいには俺たちが離れていた時間は長すぎたと思う。

「……彼を、連れて帰ったりは……」
「しないよ。本人が望まない限りは」
「本人が……」

 そう呟くと女性は暫く呆然としていた。それならと話をしないのは、本人がここを離れたいと言っているか、彼女は彼がここを離れたがっていると思っているか、だろうか。あの傷と見た目を思えば彼と一緒にいたいと思う女性は少ないだろうに、彼女は彼が離れていく不安を感じているようにも感じた。

「……彼は、ライリー=アールベックさん、です」

 観念したと言った風の彼女が、重そうに口を開いた。彼女の話では、彼と出会ったのは五年ほど前で、十八の時に家出した彼女はここから歩いて三十分ほどのところにある町に住んでいたと言う。そこで大怪我を負った彼を見つけて街に連れ帰ったが、誰も彼を助けようとしなかった。そこで彼女が家に連れ帰って看病したところ、一命は取り留めたと言う。
ただ、彼女自身が町では世話になっている立場なのに更に厄介事を持ち込んだとして、彼が起き上がれるようになると二人揃って街を追い出された。元々余所者を拒絶する土地柄だったのも悪かったのだろう。その後二人はここにたどり着いて、猟師が残したらしいこの小屋に住み始めたと言う。

「それじゃ、あなたは兄さんの恩人だな」
「お、恩人? わ、私が?」

 どうしたのだろうか。当然のことだろうに。彼女が見捨てていたら兄さんはとっくに死んでいただろう。だから彼女が恩人なのは間違いないのに、どうしてそんなに驚くのか不思議だった。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...