冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた

灰銀猫

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ラーの眷属

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「さすがドラゴンじゃな! 早い早い!」
「あんまりはしゃぐと落ちるぞ!」

 俺は今、魔猫のラーと共にグランクレー山に向かっていた。ラーは方向音痴でグランクレー山の位置がわからないというので、ネイトさんたちに頼んで正確な位置を教えて貰ってから向かうことにした。その前にコルナガの街で少々値は張るが真っ当な地図も買った。情報に金をかけるのは生き残るためには必須なのだ。

「おお、見えて来たぞ!一番高いあれがグランクレー山だ!」

 子猫体型で俺の首にかけた籠に入ったラーが、前方に見えた高そうな山々を見て叫んだ。グランクレー山はこの辺り一帯にある山脈の中で最も高い山だった。この辺りは山々が連なり、異界ではグランクレー山脈とも連峰とも呼ばれているが、とにかく高い山々が連なっている山岳地帯だ。ラーはかなり嬉しいらしく声が上ずっていた。

「それで、湖ってのは……」
「う~ん、どっちだったかな。確か朝日が昇る方角だった筈じゃ」
「……東か」

 こっちからだとちょうど山の反対側になる。山頂を超えるのは面倒なので迂回することにした。少々遠回りになるが安全第一だ。

「おお、その前にルークよ。あの中腹にある赤い池に寄ってくれ!」
「はぁ? 赤い池?」

 何だよそれは、と思ったが、近づけば本当に赤い池が見えてきた。その周辺だけは木々が生えず、岩場がむき出しになっているような感じで、そこに赤く主張する池が異質に見えた。

「何だよ、あの赤い池は?」
「あれはナバ湖じゃ」
「ナバ湖?」
「うむ。あの赤いのはナバという植物の実のせいなんじゃ」
「植物の?」
「ナバは魔素が濃い池では実が赤くなるんじゃ。普通の池なら緑色なんだがな」

 なるほど。じゃこのグランクレー山は魔素が濃いのか。ラーが言うようにナバ湖の畔に降りた。降り立った場所は何もないごつごつした岩場で、これと言って目につくものは見当たらない。

「何だ? ここに何かあるのか?」
「う、うむ……」

 ラーが籠から軽々と飛び降りると、子猫サイズから本来の姿へと変化した。周囲を見渡しながら何かを探るようなラーは次の瞬間、大声を張り上げた」

「おい、戻ったぞ! ラーだ! 誰かおらぬか!!!」

 その声に周囲は一瞬だけ沈黙を保ったが、次の瞬間、周りにたくさんの気配が現れた。

「「「ラー!!!」」」

 なだれ込むように現れたのは、たくさんの魔猫だった。一斉にラーに飛びついてあっという間に猫団子になった。これ、リューンやステラだったら自分も混ざりたいと言い出すやつだけど、真ん中にいる筈のラーは無事なのかと心配になる勢いだった。まぁ、魔猫はそんなに軟じゃないと思うけど。

「ラー! 無事だったのか? 怪我は?」
「急にいなくなったから皆心配していたんだぞ!」
「今までどこにいたんじゃ!」
「もしやこのドラゴンに攫われたのか?」

 それぞれが思い思いにラーに話しかけるので、もう何を言っているのかさっぱりだ。だが、彼らがラーを案じていたことだけはその様子から伝わってきた。

「ああ、ルーク、紹介しよう。我らの眷属じゃ」

 一通り感動の再会を繰り広げた後、ラーがようやく俺の存在を思い出してくれたらしい。

「そ、そうか。ルークだ。よろしく」
「ルークは我の恩人なのじゃ。いいかお前達、粗相をするんじゃないぞ」
「「「はーい!」」」
「「「わかりました」」」
「うむ、いい返事じゃ。ルークよ、このものたちはわしの子と孫と曾孫と……その子孫じゃ」
「は?」

 聞けば彼らは全てラーの妻とその子供たちと子孫たちなのだという。そう言えば魔猫は一夫多妻制で子孫もまとめて大きな群れを作ると聞いたことがある。聞いたことはあるが……見える範囲でもざっと三、四十匹はいるんじゃないのか? これが全部ラーの? そう思うと頭が痛くなってきた。

「この山には他にも群れがあるが、皆仲良く平和に暮らしておるのじゃ」
「そうなのか? だが……」

 そうは言ってもこれだけの群れが幾つもあったら縄張り争いで大変なんじゃないだろうか。そう思う俺にラーは、他の群れはこの半分もおらず、その群れもラーの息子たちが作ったものなのだという。なるほど、それじゃこの山自体がラーの縄張りって事なのだろうか。

「この山の周辺の山にはわしよりも大きな群れを持つ魔猫もいる。それに、向こうに見える峰にはドラゴンも住んでいるぞ」
「ドラゴンが?」
「うむ、あちらはレッドドラゴンで火の属性の奴じゃ。奴は我らを餌とみているから、我らにとっては天敵とも言える」

 なるほど、俺たちが降りたっても、ラーの姿が見えても、誰も出てこなかったのはそういう理由でか。俺が捕食者に見られていたとは思いもしなかったが、確かにドラゴンでも俺たちと違いただの魔獣タイプはそうかもしれない。

「ルークや。せっかくだから今夜はうちに泊まっていけ」
「え? でも……」
「そろそろ暗くなり始めるし、今から行っても警戒されるだけじゃろうて」
「まぁ、確かに」

 既に周辺は薄暗くなり始め、太陽は山の向こうに姿を隠していた。確かにこれから人を訪ねるには不躾な時間帯だろう。ラーの勧めもあって俺は彼らのねぐらで一夜を過ごすことにした。




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