冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた

灰銀猫

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業焔の魔術師

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 デルが自ら『業焔の魔術師』と名乗ったけれど、俺は全く知らなかったので反応のしようがなかった。でも、周りを見ると騎士だけでなく街の人も何人かが驚きの表情を浮かべていた。ということは、かなり有名人何だろうか……

「アンザさん、何だよ、その『業焔の魔術師』ってのは?」

 小声でそう尋ねると、アンザさんが目を見開いた。何だ? そんなに驚くことか?

「はぁ? ルーク。お前さん、知り合いなのに知らなかったのかよ?」
「あ、ああ。あんまりプライベートなことは聞かないようにしていたし」

 この言葉に間違いはない。俺もあんまり詮索されたくないから、人のことを聞き出そうとは思わなかった。そうしなくてもデルはよく喋る奴だったし、最初は老婆だと思っていたから尚更だ。それに兄さんを探しに行くつもりだったから、ずっと一緒にいるわけじゃないと深入りしないようにしていた。

「『業焔の魔術師』ってのは、伝説級の魔術師だよ」
「伝説級?」
「ああ。魔獣のスタンピードをたった一人で殲滅したんだよ。たった十歳の時に」
「十歳?!」
「そうだよ。しかも一回だけじゃねぇ、何回もだ」
「何回も……」

 そりゃあ伝説級と言われても仕方ないだろう。帝国にいた時だって、スタンピードが起きれば騎士が百人単位、魔術師だって十人単位で対処していたのだ。それをたった一人でって……しかも十歳の時って……俺、まだ養成所で訓練に明け暮れていた頃だ。正に化物、だな。うん。

「……まさかそんな有名人だったとは……」
「……本当に知らなかったのか」
「ああ。野良の魔術師だって言ってたし、ずっと老婆姿だったから、てっきり引退した魔術師だと……」

 これは勘違いしても仕方ないだろう。口調だって年寄り臭かったし。いや、今でもそうなんだけど。

「さぁ、どうするのじゃ? 切って捨ててみるか? 直ぐに拘束を解いてやるぞ? その代わり、わしも全力で答えるがな」
「「「「……!」」」」

 にっこりとそれはそれは楽しそうな笑みを浮かべたデルに、騎士たちが顔を青くした。ブンブンと大きく首を横に振る者や震えているのか歯をカチカチ言わせている者もいる。そんなにおっかないのか。いや、絶対に敵にはしたくないと俺も思うけど。

「なんじゃ、さっきまでは威勢がよかったから少しは楽しめると思うたのに」

 つまらん奴らじゃなぁと呟くけど、デルを相手にしようなんて命知らずがいなくてよかっただろう。デルの性格だと、周辺に葉の一枚も残さず……なんて可能性もありそうだし。
 その後デルが拘束を解くと、騎士たちは一目散に騎士用の建物に逃げ帰った。

「マドックにこの件は伝えておくからな」
「「「「「ひぃいいいい!!!」」」」

 後ろ姿にデルがそう投げかけると、騎士たちは涙目になっていた。そのマドックとかいう人はよっぽど恐ろしい人らしい。

「ふん、これだけ言っておけばもう悪さはせんじゃろう」

 いい笑顔でそういうデルに、街の人たちが尊敬や憧憬の視線を向けていた。そんなに有名だったのか……いや、あの騎士にうんざりしていたのもあるだろうな。気が付けばその場には歓声と拍手が上がっていた。



「それで、『業焔の魔術師』様が何のご用なんだ?」

 場を移していつもの食堂でデルに向き合った。どうやら俺に会いに来たのは間違いなさそうだし、他に知り合いがいるとも思えなかったからだ。

「なんじゃ、その言い方は」
「いや、だって、そう呼ばれているだろう?」
「まぁ、わしが名付けたわけじゃないがな。勝手にそう呼ばれているが、そう名乗った方が何かと話が早いと言うだけじゃ」

 なるほど、確かにそうかもしれないけど。でも、なんだろう。そんな有名人なら一言話して欲しかった、と思ってしまったのだ。俺だけが知らないなんて、何だか間抜けだし……

「細かい事を気にする男は嫌われるぞ」
「……そんなんじゃない」

 何だかこれじゃ、俺が拗ねているみたいじゃないか。

「それで、今日は何の用なんだよ?」

 この話はもう終わらせたくて再度そう尋ねたんだけど、返ってきた答えはあまりにも意外なものだった。




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