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気が付けばスローライフ
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あれから三月が過ぎた。俺は今、ギギラの街から歩いて1時間ほどの場所にいた。
「おい、ルーク! これはどうすればいいんだ?」
「ルークさん、井戸にバケツを落としてしまったんですが……」
「ああ、ちょっと待って。今行く!」
俺はガルアとリューンを連れて、ギギラの街の近くの開けた土地で新しい生活を始めていた。正確には木々を伐採して家を建て、井戸を掘り、畑を作り、自給自足の生活を始めたのだ。今はアンザさんやマイラさんの協力の下、生活力のない二人に基本的な生活を教えて自立させるための準備期間とも言える。
元の小屋に戻ると言っていた二人だったが、あの近くの集落は訳ありの者が多く、その殆どがあまり口に出来ない経歴の持ち主だった。その近くでリューンのような若い娘が暮らすのは危険だと、アンザさんたちに言われたのだ。だからあの集落とは正反対の方角に生活の拠点を移したのだ。
街に住むのも考えたけれど、リューンが強い聖属性持ちで人の目に付くと聖女候補として連れていかれる可能性がある。それにガルアがまだ人の常識を理解できておらず、余計な諍いに繋がる可能性があった。そこに静かに暮らしたいという二人の意向もあってこうなったのだ。それはいいのだけど……
(この二人、自立出来るのか?)
人間になって日が浅いガルアに、世間知らずのお嬢さんのリューン。二人は俺がいないと何も出来なかった。自分たちで何とかしようという気はある。あるのだが、何とかしようとして更に悪い状況になることが多かった。負のスパイラルってやつだ。
「あ~疲れた……」
小さな家の裏に作った畑に野菜の種を植えた後、ガルアが力任せに壊したハガリ鶏の飼育小屋のドアを直して、井戸に落ちたバケツを魔術で拾った。その後も何だかんだで後始末をしながらの畑仕事を終えたら、外は夕闇だった。
新しく建てた家に入る前に、魔術で身体と服に就いた泥や埃を払った。新しい家はギギラの街の職人に建てて貰ったもので、二階建てで部屋が三つあるこじんまりしたものだ。家具なんかも最低限の物は買った。
それらの費用は俺持ちで、それらはレーレ川の底で拾った魔石が元だ。小さな魔石でも金貨五枚とかになるんだから有り難い。大粒だと立派過ぎて買い取れる者がギギラにはいなかったから、小粒の魔石を換金する事が増えた。
「ルーク、腹が減ったぞ!」
「ルークさん、今日もお願いします!」
食事作りは俺の担当だ。魔獣を生で食べようとするガルアに任せられる筈がないし、リューンも料理をしたことがないという。俺だって従軍時に野営で料理をするくらいだったけれど、それでも俺が一番真っ当だった。それだけでこれまでの彼らの食生活がいかに酷かったか、わかって貰えるだろうか。
「ルークさん、こんな感じでいいですか?」
「ああ。いい感じだ。この調子で。それが終わったら……」
リューンは今、料理の修行中だった。俺の野営料理は大雑把だけど、初心者のリューンには分かりやすかったらしい。最初は野菜の皮むきすらもおぼつかなかったけれど、最近はようやく出来るようになった。それでも、二品を同時に作るのはまだ無理らしく、今は二人で一品ずつ作っている状態だ。正直言うと一人でやった方が早い。早いけど、これはリューンに覚えさせるためのもの。ぐっと我慢だ。
食材は近くの森で採ってきた果物や木の実、野菜、レーレ川で獲った魚だ。肉は時々街に行って買って来る。こればっかりは解体出来るものがいないからどうしようもなかった。
家の裏には畑を作り、現在野菜作りにチャレンジ中だ。その横には卵をよく生むハガリ鶏を放し飼いにしている。鶏が逃げないよう柵を設け、その向こう側には果物や実がなる木を植えた。今すぐどうにかなるわけじゃないが、数年先には食料になるだろう。
(何か、スローライフだなぁ)
いつかは兄さんと、と思っていたスローライフがここにあった。望んだ形とは程遠いけれど、健康的で穏やかな毎日だ。俺(ガルア)の身体もすっかり回復して、傷跡がなければ大怪我をしたなんてわからないだろう。ガルアは最初は厄介な相手だと思ったが、付き合ってみれば警戒心が強いだけ。素は脳筋だから裏表がなく扱いやすかった。リューンも素直だし、一緒にいて気楽なのは間違いなかった。お陰で、すっかり絆されてしまった自分がいた。
「おい、ルーク! これはどうすればいいんだ?」
「ルークさん、井戸にバケツを落としてしまったんですが……」
「ああ、ちょっと待って。今行く!」
俺はガルアとリューンを連れて、ギギラの街の近くの開けた土地で新しい生活を始めていた。正確には木々を伐採して家を建て、井戸を掘り、畑を作り、自給自足の生活を始めたのだ。今はアンザさんやマイラさんの協力の下、生活力のない二人に基本的な生活を教えて自立させるための準備期間とも言える。
元の小屋に戻ると言っていた二人だったが、あの近くの集落は訳ありの者が多く、その殆どがあまり口に出来ない経歴の持ち主だった。その近くでリューンのような若い娘が暮らすのは危険だと、アンザさんたちに言われたのだ。だからあの集落とは正反対の方角に生活の拠点を移したのだ。
街に住むのも考えたけれど、リューンが強い聖属性持ちで人の目に付くと聖女候補として連れていかれる可能性がある。それにガルアがまだ人の常識を理解できておらず、余計な諍いに繋がる可能性があった。そこに静かに暮らしたいという二人の意向もあってこうなったのだ。それはいいのだけど……
(この二人、自立出来るのか?)
人間になって日が浅いガルアに、世間知らずのお嬢さんのリューン。二人は俺がいないと何も出来なかった。自分たちで何とかしようという気はある。あるのだが、何とかしようとして更に悪い状況になることが多かった。負のスパイラルってやつだ。
「あ~疲れた……」
小さな家の裏に作った畑に野菜の種を植えた後、ガルアが力任せに壊したハガリ鶏の飼育小屋のドアを直して、井戸に落ちたバケツを魔術で拾った。その後も何だかんだで後始末をしながらの畑仕事を終えたら、外は夕闇だった。
新しく建てた家に入る前に、魔術で身体と服に就いた泥や埃を払った。新しい家はギギラの街の職人に建てて貰ったもので、二階建てで部屋が三つあるこじんまりしたものだ。家具なんかも最低限の物は買った。
それらの費用は俺持ちで、それらはレーレ川の底で拾った魔石が元だ。小さな魔石でも金貨五枚とかになるんだから有り難い。大粒だと立派過ぎて買い取れる者がギギラにはいなかったから、小粒の魔石を換金する事が増えた。
「ルーク、腹が減ったぞ!」
「ルークさん、今日もお願いします!」
食事作りは俺の担当だ。魔獣を生で食べようとするガルアに任せられる筈がないし、リューンも料理をしたことがないという。俺だって従軍時に野営で料理をするくらいだったけれど、それでも俺が一番真っ当だった。それだけでこれまでの彼らの食生活がいかに酷かったか、わかって貰えるだろうか。
「ルークさん、こんな感じでいいですか?」
「ああ。いい感じだ。この調子で。それが終わったら……」
リューンは今、料理の修行中だった。俺の野営料理は大雑把だけど、初心者のリューンには分かりやすかったらしい。最初は野菜の皮むきすらもおぼつかなかったけれど、最近はようやく出来るようになった。それでも、二品を同時に作るのはまだ無理らしく、今は二人で一品ずつ作っている状態だ。正直言うと一人でやった方が早い。早いけど、これはリューンに覚えさせるためのもの。ぐっと我慢だ。
食材は近くの森で採ってきた果物や木の実、野菜、レーレ川で獲った魚だ。肉は時々街に行って買って来る。こればっかりは解体出来るものがいないからどうしようもなかった。
家の裏には畑を作り、現在野菜作りにチャレンジ中だ。その横には卵をよく生むハガリ鶏を放し飼いにしている。鶏が逃げないよう柵を設け、その向こう側には果物や実がなる木を植えた。今すぐどうにかなるわけじゃないが、数年先には食料になるだろう。
(何か、スローライフだなぁ)
いつかは兄さんと、と思っていたスローライフがここにあった。望んだ形とは程遠いけれど、健康的で穏やかな毎日だ。俺(ガルア)の身体もすっかり回復して、傷跡がなければ大怪我をしたなんてわからないだろう。ガルアは最初は厄介な相手だと思ったが、付き合ってみれば警戒心が強いだけ。素は脳筋だから裏表がなく扱いやすかった。リューンも素直だし、一緒にいて気楽なのは間違いなかった。お陰で、すっかり絆されてしまった自分がいた。
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