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ねぐらに帰る
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毎日俺に治癒魔法をかけに来てくれたフィンは、翌日も、その翌日もやってこなかった。あれからルゼと話が出来たのかも俺にはわからない。そもそもここで初めて会って、成り行きで治癒魔法をかけて貰っただけの関係なので、彼らの事情に口を挟む権利もなかった。気にはなるけれどそれだけだし、そもそも彼らがどこの宿に泊っているのか、そんなことすら俺は知らなかった。
「お前が気にすることはねぇよ」
ネイトさんもそう言ってくれたし、俺も人に構っていられる立場でもなかった。俺は俺で自分の元の身体や兄さんを探す目的があって、ようやくその一歩を踏み出せるところなのだ。やっと人間の姿を維持出来るようになって、これからがスタートなのだ。
そうは言ってもマダ酒の影響は簡単には消えず、あれからもネイトさんのところで休ませてもらった。想像以上にマダの威力は凄かった。滞在している間にネイトさんからマダの木や実を教えて貰ったし、それ以外でもドラゴンが苦手とする食べ物は教えて貰った。知らないものを食べるのは気を付けた方がよさそうだ。
それからもフィンたちが姿を現すことはなく、俺は一旦デルの元に戻ることにした。身体のことが心配なのもあるし、ネイトさんからの託けもあったからだ。
フィンたちと顔を合わせなくなってから十日目のよく晴れた朝、俺はねぐらにしている湖に向かって出発することにした。昨日でもよかったんだけど、風が強かったので延期したのだ。空を飛んでの移動は風の影響を大きく受ける。こっちは病み上がりだから安全第一を優先した。デルへの土産の酒と肉も手に入れた。デルが肉を望んでいる解いたら、ネイトさんが一角ベアを狩りに行ったのには驚きを通り越して呆れたけど。それを捌いて極上の部分だけを手土産にしてくれた。デルは大喜びだろう。
「ああ、ルーク。これも持って行け」
そう言って渡されたのは、魔石が付いている指輪だった。
「これは?」
「毒なんかを無効化するアイテムだよ。帝国にはなかったか?」
「そう言えば……騎士がそんなものを使っていたかも」
そういえば騎士が魔獣の毒から身を護るためにそんな魔道具を使っていた。そんな魔道具があれば間違って口にしても死なずに済みそうだ。
「これがあれば、多少変な物を食っても死ぬことはないだろう」
「そっか。恩に着るよ」
「いいって事よ。元々俺がアレを飲ませなきゃあんな事にはならなかったんだし」
「それは仕方ないよ。俺だって忘れていたんだから」
そう。別にネイトさんが悪いわけじゃない。ドラゴンだってことを忘れていたのは俺もだ。それに十分よくしてもらった。魔道具を二つも作って貰ったし、報酬はあの湖の底に転がっていた魔石でいいっていうし。今度来る時には色々持ってこようと思った。
「あ~もしフィンが来たら、礼を言っておいてくれ」
「ああ。来たらな」
「それと、お礼代わりこいつを渡しておいてくれ」
「これは?」
「透碧晶だ。売ればそれなりの金になるだろう?」
「金にって……これ一つで金貨100は下らないぞ」
「そっか。でもまぁ、命の恩人だし、それくらいしてもいいだろう。一月経っても来なかったらネイトさんが使ってよ」
「いいのか?」
「ああ。また湖の底で拾ってくるから」
「それもそうか」
俺にとっては造作もないことだし、一個くらいなら問題ないだろう。来なくても構わないし、その時はネイトさんが魔道具を作るのに使ってくれればいいと思う。既にネイトさんには透碧晶を八個と俺の鱗を二個渡してある。謝礼としては十分だろう。
「色々とありがとう」
「いや、俺も楽しかったから気にすんな。デルミーラ様によろしくな」
「ああ」
「またいつでも遊びに来いよ」
「ありがとう」
固く握手を交わして、俺は黒杉の森を出た。最後までフィンやルゼの姿を見ることはなかったけれど、それも仕方ない。コルナガの街を観光してから帰ってもよかったが、まだ身体が本調子じゃなかったから次回の楽しみに取っておくことにした。どうせ帝国に戻れない身だ。これからいくらでも行く機会はあるだろう。
「お前が気にすることはねぇよ」
ネイトさんもそう言ってくれたし、俺も人に構っていられる立場でもなかった。俺は俺で自分の元の身体や兄さんを探す目的があって、ようやくその一歩を踏み出せるところなのだ。やっと人間の姿を維持出来るようになって、これからがスタートなのだ。
そうは言ってもマダ酒の影響は簡単には消えず、あれからもネイトさんのところで休ませてもらった。想像以上にマダの威力は凄かった。滞在している間にネイトさんからマダの木や実を教えて貰ったし、それ以外でもドラゴンが苦手とする食べ物は教えて貰った。知らないものを食べるのは気を付けた方がよさそうだ。
それからもフィンたちが姿を現すことはなく、俺は一旦デルの元に戻ることにした。身体のことが心配なのもあるし、ネイトさんからの託けもあったからだ。
フィンたちと顔を合わせなくなってから十日目のよく晴れた朝、俺はねぐらにしている湖に向かって出発することにした。昨日でもよかったんだけど、風が強かったので延期したのだ。空を飛んでの移動は風の影響を大きく受ける。こっちは病み上がりだから安全第一を優先した。デルへの土産の酒と肉も手に入れた。デルが肉を望んでいる解いたら、ネイトさんが一角ベアを狩りに行ったのには驚きを通り越して呆れたけど。それを捌いて極上の部分だけを手土産にしてくれた。デルは大喜びだろう。
「ああ、ルーク。これも持って行け」
そう言って渡されたのは、魔石が付いている指輪だった。
「これは?」
「毒なんかを無効化するアイテムだよ。帝国にはなかったか?」
「そう言えば……騎士がそんなものを使っていたかも」
そういえば騎士が魔獣の毒から身を護るためにそんな魔道具を使っていた。そんな魔道具があれば間違って口にしても死なずに済みそうだ。
「これがあれば、多少変な物を食っても死ぬことはないだろう」
「そっか。恩に着るよ」
「いいって事よ。元々俺がアレを飲ませなきゃあんな事にはならなかったんだし」
「それは仕方ないよ。俺だって忘れていたんだから」
そう。別にネイトさんが悪いわけじゃない。ドラゴンだってことを忘れていたのは俺もだ。それに十分よくしてもらった。魔道具を二つも作って貰ったし、報酬はあの湖の底に転がっていた魔石でいいっていうし。今度来る時には色々持ってこようと思った。
「あ~もしフィンが来たら、礼を言っておいてくれ」
「ああ。来たらな」
「それと、お礼代わりこいつを渡しておいてくれ」
「これは?」
「透碧晶だ。売ればそれなりの金になるだろう?」
「金にって……これ一つで金貨100は下らないぞ」
「そっか。でもまぁ、命の恩人だし、それくらいしてもいいだろう。一月経っても来なかったらネイトさんが使ってよ」
「いいのか?」
「ああ。また湖の底で拾ってくるから」
「それもそうか」
俺にとっては造作もないことだし、一個くらいなら問題ないだろう。来なくても構わないし、その時はネイトさんが魔道具を作るのに使ってくれればいいと思う。既にネイトさんには透碧晶を八個と俺の鱗を二個渡してある。謝礼としては十分だろう。
「色々とありがとう」
「いや、俺も楽しかったから気にすんな。デルミーラ様によろしくな」
「ああ」
「またいつでも遊びに来いよ」
「ありがとう」
固く握手を交わして、俺は黒杉の森を出た。最後までフィンやルゼの姿を見ることはなかったけれど、それも仕方ない。コルナガの街を観光してから帰ってもよかったが、まだ身体が本調子じゃなかったから次回の楽しみに取っておくことにした。どうせ帝国に戻れない身だ。これからいくらでも行く機会はあるだろう。
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