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二人の冒険者との出会い

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 ネイトさんが魔道具を作りに奥に籠ってしまうと、俺は一人残されてしまった。初対面の人の家で寛げるほど図太くもないし、勝手がわからないから居心地も悪い。仕方なく庭に出るといい感じの木陰を見つけた。そこに転がって空を見上げる。木々が風で揺れる度に柔らかい日差しも揺らめいた。

(平和、だな……)

 帝国にいた頃には想像もしなかった静かさだった。帝国の外は魔獣が跋扈する世界で、空も濃い魔素で日が届かず、人間が住めない世界だと言われていた。
 だが、実際に俺が見た異界は、想像とは随分と違っていた。帝国の近くは異常なほどに魔素が濃かったが、離れれば帝国と殆ど変わらない。帝国よりも穏やかにすら感じられた。さわさわと木々が鳴らす音に眠気が押し寄せてきた。そう言えば襲われてからは寝ていなかったっけ……ここはネイトさんが張った結界もあるし、俺自身も認識疎外の術を掛けてあるから襲われる心配もないだろう。俺は本能に逆らわずに目を閉じた。




「ぐっうぇえっ?!!」
「ええっ?!」 

 気持ち良い眠りは、想定外の痛みによって破られた。急に脛に痛みが走って、俺は文字通り飛び起きた。急なことに頭が回らないが、足がじんじん痛みを訴えてた。

「きゃあ! ご、ごめんなさいっ!!!」

 足に気を取られていた俺の耳に、聞き覚えのない声が下りてきた。なんだと思って見上げると、そこには赤い短い髪をした冒険者風の若者がいた。綺麗な顔をしていた。まるで女みたいだ。

「だ、大丈夫ですか? 御免なさい! こんなところに人がいるとは思わなくて!」
「あ、ああ……なっ?」

 言葉使いで相手が女だとわかった。こっちでは女も冒険者なんかやるのかと感心したが、次の瞬間、俺は息を呑んだ。

(こいつ……この前襲われた後に現れた……)

 娘の後ろにいた男は、先日空を飛んでいた時に背中に衝撃を受けた後、森の中で会った奴だった。薄緑の髪と服装があの時と同じだから間違いない。こっちも男にしては随分と綺麗な顔立ちをしていた。まるで役者みたいだ。その表情は無だったが、目には警戒の色が濃く宿っていた。

「あ、あの……大丈夫、ですか?」

 男の方に気を取られて何も答えなかったら、また赤い髪の娘がそう尋ねてきた。そう言えばなんか謝っていたな、と思い出しながら見上げて、また驚いた。瞳が珍しい銀色だったからだ。銀色の瞳は癒しの力を司る聖属性の証だ。俺の光属性やデルの闇属性も珍しいが、聖属性も同じくらい珍しい。帝国では教会なんかで病人を癒す仕事に従事していたが、こっちではそうでもないらしい。

「あ、ああ。大丈夫、だ」
「そうですか? でも、痛いなら言って下さい。私、一応聖属性持ちなんです」
「いや、大丈夫だから。それに、こんなところで寝ていた俺も悪かったし」

 さすがに治癒魔術をかけて貰うほどのことはなかったし、そもそもこんな場所で寝ていた俺にも責任があるだろう。さすがに座り込んだままというわけにもいかないので立ち上がった。
 背が高く見えた娘は、思ったよりも小さくて、背は俺の目の辺りまでしかなかった。まぁ、俺は元々平均よりも少し低いくらいだったので、変装でもそれくらいに留めているけど。その方が目立たないし。
 一方で男の方は、娘よりも頭一つ分は優に高かった。ちょっと羨ましく思ったのは内緒だ。やっぱり男は背が高い方がいいよなぁ、うん。

「あ、私、フィンと申します。冒険者をやっています。彼は相方のルゼです」
「……ルゼだ」

 急に自己紹介されて面食らってしまった。冒険者の割には随分と人がいい。言葉使いや所作が綺麗だし、もしかしたらどこかのお嬢さんだった、とかか? そして男の方は全く愛想というものがなかった。表情筋も死んでいるのか、能面みたいに表情が変わらない。

「俺はルーク。人探しをしている旅行者だ」
「人探し?」
「ああ。兄を……探しているんだ」

 さすがにドラゴンですとは言えないし、職に就いているわけでもない。これからとは言え兄さんを探しているのは間違いないし、嘘じゃないだろう。それに、フィンはともかくこのルゼという男は危険な気がする。あまり関わらない方がいいような気がした。

「お兄様、を……」

 俺の返事をフィンが繰り返した。その声にはさっきまでの張りはなく、表情が陰った気がした。




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