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番外編~リシャール⑤
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結婚式が一月後に迫ったその日、私の店が移転オープンし、その店の隣にカフェが新たにオープンした。ラフォン侯爵家の別邸を改装したその店は、ラフォン侯爵家というだけで開店前から大きな話題になっていたため、最初から完全予約制にした。元々アクセサリーの店は客が増えて予約制にしなければ対応しきれなくなっていたため、移転と同時に完全予約制にしたのだ。
上位貴族は本来なら屋敷に商人を招いて商品を買うのが一般的だが、俺の店はその常識に反して、客が来たくなるような店作りを心がけていた。好きな時にいつでも商品が購入できるのが売りだったが、客が増え過ぎては対応が難しい。そのため、完全予約制にしたのだ。ダニエル達からは客が減って売り上げも下がるのではとの懸念もあったが…
「凄いですよ、リシャール様。予約の申し込みが殺到しています!」
周りの懸念に反して予約の申し込みが後を絶たず、開店時には一か月待ちの状態になっていた。これが自分だけの店だったら上位貴族のごり押しで成り立たなかっただろう。だが今は、筆頭侯爵家のラフォン家がバックにいる。待ちが長いと文句を言う者もいたが、シュマン侯爵家の若夫人ですら予約待ちだと告げると、それ以上文句を言える者はいなかった。
「わぁ!これが…リシャール様のお店…!」
記念すべき一番目の顧客はレティだった。これは最初からそのつもりで、誰にも譲るつもりはなかった。オーナーとして店の実務には関わらない立場だから出来たことでもある。今はダニエルやマリア、そしてコレット率いる侯爵家の侍女達がメインで店を引っ張っていくから、私の出番はほとんどなかった。
最初に宝石店に入ったレティは、その宝石のような水色の瞳をキラキラさせながら店内を見渡した。今回の移転までに職人の教育も進み、商品を一層充実させる事にも成功した。品揃えは前の倍以上だが、全て職人の手作りの一点物だ。
「これって…」
店内を見て回っていたレティが目に留めたのは、水色の透青玉のネックレスとイヤリングのセットだった。実はこれは彼女のためにと前もって準備していたものだ。結婚式に使って貰おうと思って用意した品で、ウエディングドレスのデザインにも合わせてある。
「さすがはレティ、お目が高いですね」
「え?あ、あの…」
「そうです。これは貴女のために用意した品ですよ」
それにはレティの名が飾り文字に仕立てて巧妙に組み込まれていて、パッと見ただけではわからないが、それでもよく見れば持ち主が誰かわかるようになっている。リスナール国の更に向こうの国で使われているデザインで、数か月前にテオ兄さんから送られてきたため、それを参考にして作ってみたのだ。
「凄い…素敵…」
初めて見るデザインに、レティは食い入るようにそのアクセサリーを見つめていた。
「結婚の記念に、私からのプレゼントです」
「結婚の…」
そう呟いたレティの頬が心なしかピンク色に染まった。相変わらず些細なことで照れてしまう彼女が愛おしい。
「愛しいレティ。どうか受け取ってくれますか?」
「も…勿論です!」
サクランボの様に顔を赤らめながらそう答える彼女の、何と愛らしいことか…初めて会った時には厄介だとしか思わなかったが、こんなに心を奪われる日が来るとは思わなかった。
「嬉しい!一生の宝にしますわ!ううん、我が家の家宝にしてもいいかも!」
子犬の様に素直に喜びを表す彼女に、知らず笑みが浮かんでしまう。彼女のこんな表情が見られるのは自分だけだという優越感に、にやけてしまいそうな顔を引き締めた。
「喜んでもらえて嬉しいですよ」
「リシャール様が下さるものなら、小石だって嬉しいです!」
「……」
思わず息を飲んだ。この国の王家よりも誇り高いと言われる彼女の言葉に、彼女の愛情の深さを見せつけられた気がした。だが、言葉通り彼女はきっと私が贈ったものなら小石でも喜ぶのだろう。
(侯爵が仰った通りだな…」
義父となるラフォン侯爵に言われた。彼女の愛は重くて深いから覚悟するようにと。それは自分の方も同じなのだ。彼女の愛は重く深くいっそ大袈裟に思えるほどだが、私の執着心も負けてはいないと思う。
(ある意味私達は似た者同士なのかもしれない…)
次はカフェに行きましょう!と私の腕に身を摺り寄せてはしゃぐ彼女は、今日も誰よりも強い輝きを放っていた。
上位貴族は本来なら屋敷に商人を招いて商品を買うのが一般的だが、俺の店はその常識に反して、客が来たくなるような店作りを心がけていた。好きな時にいつでも商品が購入できるのが売りだったが、客が増え過ぎては対応が難しい。そのため、完全予約制にしたのだ。ダニエル達からは客が減って売り上げも下がるのではとの懸念もあったが…
「凄いですよ、リシャール様。予約の申し込みが殺到しています!」
周りの懸念に反して予約の申し込みが後を絶たず、開店時には一か月待ちの状態になっていた。これが自分だけの店だったら上位貴族のごり押しで成り立たなかっただろう。だが今は、筆頭侯爵家のラフォン家がバックにいる。待ちが長いと文句を言う者もいたが、シュマン侯爵家の若夫人ですら予約待ちだと告げると、それ以上文句を言える者はいなかった。
「わぁ!これが…リシャール様のお店…!」
記念すべき一番目の顧客はレティだった。これは最初からそのつもりで、誰にも譲るつもりはなかった。オーナーとして店の実務には関わらない立場だから出来たことでもある。今はダニエルやマリア、そしてコレット率いる侯爵家の侍女達がメインで店を引っ張っていくから、私の出番はほとんどなかった。
最初に宝石店に入ったレティは、その宝石のような水色の瞳をキラキラさせながら店内を見渡した。今回の移転までに職人の教育も進み、商品を一層充実させる事にも成功した。品揃えは前の倍以上だが、全て職人の手作りの一点物だ。
「これって…」
店内を見て回っていたレティが目に留めたのは、水色の透青玉のネックレスとイヤリングのセットだった。実はこれは彼女のためにと前もって準備していたものだ。結婚式に使って貰おうと思って用意した品で、ウエディングドレスのデザインにも合わせてある。
「さすがはレティ、お目が高いですね」
「え?あ、あの…」
「そうです。これは貴女のために用意した品ですよ」
それにはレティの名が飾り文字に仕立てて巧妙に組み込まれていて、パッと見ただけではわからないが、それでもよく見れば持ち主が誰かわかるようになっている。リスナール国の更に向こうの国で使われているデザインで、数か月前にテオ兄さんから送られてきたため、それを参考にして作ってみたのだ。
「凄い…素敵…」
初めて見るデザインに、レティは食い入るようにそのアクセサリーを見つめていた。
「結婚の記念に、私からのプレゼントです」
「結婚の…」
そう呟いたレティの頬が心なしかピンク色に染まった。相変わらず些細なことで照れてしまう彼女が愛おしい。
「愛しいレティ。どうか受け取ってくれますか?」
「も…勿論です!」
サクランボの様に顔を赤らめながらそう答える彼女の、何と愛らしいことか…初めて会った時には厄介だとしか思わなかったが、こんなに心を奪われる日が来るとは思わなかった。
「嬉しい!一生の宝にしますわ!ううん、我が家の家宝にしてもいいかも!」
子犬の様に素直に喜びを表す彼女に、知らず笑みが浮かんでしまう。彼女のこんな表情が見られるのは自分だけだという優越感に、にやけてしまいそうな顔を引き締めた。
「喜んでもらえて嬉しいですよ」
「リシャール様が下さるものなら、小石だって嬉しいです!」
「……」
思わず息を飲んだ。この国の王家よりも誇り高いと言われる彼女の言葉に、彼女の愛情の深さを見せつけられた気がした。だが、言葉通り彼女はきっと私が贈ったものなら小石でも喜ぶのだろう。
(侯爵が仰った通りだな…」
義父となるラフォン侯爵に言われた。彼女の愛は重くて深いから覚悟するようにと。それは自分の方も同じなのだ。彼女の愛は重く深くいっそ大袈裟に思えるほどだが、私の執着心も負けてはいないと思う。
(ある意味私達は似た者同士なのかもしれない…)
次はカフェに行きましょう!と私の腕に身を摺り寄せてはしゃぐ彼女は、今日も誰よりも強い輝きを放っていた。
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