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協力者と元婚約者の婚約

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 それから二日後、アルビーナ様とハリマン様の婚約が発表された。姉との婚約は姉が王都を去った直後に白紙になっていて、それからはありびーな様との話が内々に進んでいた。ただハリマン様が難色を示していると聞いていたからもう少しかかるかと思っていたわ。

 でもハリマン様ももう直ぐ二十一歳を迎える。既に二度の婚約解消をしているから、シリングス公爵は早々に話をまとめたかったらしい。

 それにミュンター侯爵家との関係は資産のない公爵家には魅力的だったはず。我が家も資産はそこそこあるけれどミュンター侯爵家には及ばないもの。色々とよろしくない噂はあるけれど証拠はないし、噂されていた前当主は既に領地で隠居しているから問題なしと判断されたのでしょうね。

 お祝いを送ったところアルビーナ様から礼状が届いて会いたいと書かれてあった。王都のカフェで会おうと提案したらゾルガー邸に伺うとの返事が来たわ。政敵の家に来て大丈夫なのかと思ったけど、ミュンター家は今それどころじゃないから大丈夫との返事だったので招待した。



 アルビーナ様とお会いしたのは五日後だった。ずっとお会いしたいと思っていたけれど、私もバタバタして余裕がなくて連絡出来なかったのよね。まだクラウス様やカリーナの行方も知れないし安心には程遠いけれど、アルビーナ様の婚約が成ったのはよかったわ。

「それでハリマン様との関係はいかがですの?」
「…まぁまぁですわ」
「まぁ、それはそれは……」

 勿体ぶった言い方に照れが感じられて思わず吹き出しそうになってしまった。今日のアルビーナ様の装いはレースなどが殆どないシンプルなデザインで、豊かな胸が目を惹くわ。化粧も前よりも控えめで目元のきつさが出ているけれど無理やりたれ目にしようとしていた厚化粧よりはずっと好感が持てる。前よりも大人っぽくなって彼女によく似合っている。最初からこうしておけばよかったのに。

「それにしても、よくミュンター侯爵様がお許しになりましたわね」
「父は今私どころではありませんもの」
「ああ、ロミルダ様の件ですわね」

 ロミルダ様はアルビーナ様の妹で父親から溺愛されている。お会いしたことは数えるほどだけど彼女こそ姉たちが目指した可憐で儚げな美少女そのもの。ただ性格はかなり苛烈でこのアルビーナ様ですら家では彼女の下に置かれているらしい。ちょっと気になるわ、このアルビーナ様が煮え湯を飲まされていたのだから。

 そのロミルダ様は陛下の一番下の息子で公爵位を得て臣籍降下したブレッケル公爵の婚約者だったのだけど、先日とある伯爵家の夜会でそのブレッケル様から婚約の解消を求められたという。なんでも会場で伯爵家の令嬢に言い掛かりをつけて取り巻きと共に貶めていたところを当のブレッケル様に見られてしまったのだとか。前々から彼女のそのような一面に気付いていたブレッケル様はロミルダ様の不適切行為を記録していて、証人も集めていた。これ以上の婚約継続は無理だと宣言し、翌日には陛下に婚約破棄を奏上したという。

「父は妹の本性を知らないからまだ誤解だと言っているけれど、あの一件でブレッケル様が被害にあった者は名乗り出て欲しいと仰ったそうよ。それで余罪が次々と……」
「それはまた……ブレッケル様もやり手ですわね」

 行動力が凄いわ。ブレッケル様は見目もよくてロミルダ様が執心だったと聞くわ。十五歳ではあの性格はもう治らないかもしれないわね。それでも五侯爵家の娘となれば繋がりを求めて妻にと望む人もいそうだけど。

「前々から妹が婚約破棄されるかもしれないという噂は流れていたもの。父がハリマン様との婚約を急いだのもそのせいね」
「破棄されてしまうとアルビーナ様の話まで流れてしまうかもしれませんものね」

 貴族は体裁を重視するからそうなるでしょうね。我が家のように醜聞続きの家は滅多にないもの。だからヴォルフ様に直談判したのだけど。

「それでハリマン様は?」
「まだ納得出来ないようですけれど……」
「絆されつつあると?」
「ええ。あの方、本当に胸がお好きなのね。私が隠すのをやめたら態度が軟化したわ。信じられない……」

 そう言いながらもまんざらでもない様子だった。今まで逆の噂を信じていたのは時間の無駄だったわね。あの噂を流したのは姉でしょうけれど。

「それならこれからですわね」
「そうなるといいけれど……でもハリマン様はあれでいいのですわ。反抗的なところもお可愛らしいですから」
「可愛い……」
「見た目だけなら一級品ですもの。ふふ、私はそれを一番近くで愛でられればいいのよ」
「そうですか」

 彼女の想いは男性への愛情というよりもお気に入りの人形に向けたそれみたいわだ。でもそれで彼女が幸せならいいわよね、他人がとやかく言うことではないもの。ミュンターと繋がればシリングス公爵家もハリマン様の代で潰れることはなさそうだし。

「ああ、一つ忠告よ」
「忠告?」
「あなたの家のワイン、最近流通を変えていない?」
「流通を?」

 急にワインの話が出て来て驚いたわ。そんなことよくご存じだったわね。

「最近中々手に入らなくなっているし、手に入れようとすると法外な値を吹っ掛けられるそうよ。父が嘆いていたわ」
「ええっ?!」
「やっぱり知らなかったのね」
「え、ええ……父は家業に口を挟むなと言う人ですから」
「確かにそんな感じよね。まぁ、うちもだけど」

 大抵の家はそうでしょうね。女性の社会進出が著しい隣国アーレントと違って我が国では未だに女が領地や家業について口出しするのははしたないと考えるのが一般的だもの。

「変な商会に騙されているんじゃないの? ガウス伯爵に聞いても無駄でしょうから侯爵様に相談してみるといいかもね」
「そうですね。ありがとうございます」

 まさか忠告してくれるとは思わなかったけれど、後でヴォルフ様に聞いてみなきゃね。ワインに関してはゾルガー家とも共同事業をしているもの。父や兄で対処出来るならいいけれど、そうでなければヴォルフ様の手を煩わせることになる。だったら早めに報告しておいた方がいいわね。



 アルビーナ様が帰った後でティオにアルビーナ様に言われたことを話したところ、ヴォルフ様は既にご存じだった。情報が早くて薄ら寒いわ。どれだけの情報網をお持ちなのかしら。もしかしたら王家の内情だって把握していそうね。執務室に向かうとヴォルフ様はちょうど外出から戻られたところだった。いつもの簡素な騎士服も似合うけれど改まった格好も絵になるわ。簡単にアルビーナ様との会話を報告した。

「準備はしてある。心配するな」
「……ありがとうございます」

 私の出る幕なんかなかったわ。こう言っては何だけど、私ってヴォルフ様に必要ないわよね。時々どうしてここにいるのかと思ってしまうわ。まぁ、子どもを産むのが私の役目だからそれ以外のことは期待されていないのでしょうけど。婚約者になってからは夫人教育の一環として子どもが孕みやすくなるようにと体調管理や生活の注意点なども習っているけれど、そう言えば閨教育はどうするのかしら? 普通は母親がやるものなのよね。でも母は領地だしいつ戻って来るかもわからない。これってどうすればいいのかしら? 父には相談したくないし、困ったわね……

「どうした?」
「え? あ、何でもありませんわ」

 考えていた内容が内容だったから焦ってしまったわ。嫌だ、顔が赤くなっていなければいいのだけど……




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