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回想
回想5
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レナートに想い人がいるらしいと言うのは、聖騎士団が招かれたある地方の領主の夜会で漏れきいたものだった。レナートも抜きで話がしたいと領主が言うので仕方なく広間に置いていったら、帰る頃には幾重にも貴族の子女に取り囲まれていた。
壁際に追い詰められ、珍しく困った顔をしていたのが面白くて、つい隠れて様子を見ていた。
ダンスをしないか、文を交わさないか、聖騎士団に入っているのか(入っていると妻帯ができない)あれこれ聞かれた挙句、想い人はいるのかと言う話題になったようだった。
「ええ、ずっとお慕いしている方がいます」
初耳だった。思わず身を乗り出した瞬間、令嬢の一人がレナートの腕を取った。
「まあ!どなたかしら?私を差し置いて……妬けますね。一体どんな方ですの?」
「……とても美しい人です。真っ直ぐな心と優しい眼差しを持つ……」
明らかに誰かを思い浮かべているようだった。
「そんなに想われて羨ましいことですわ……その方はご存じなのかしら」
レナートは小さく微笑むと首を振った。
「いいえ、知らないと思いますよ。生涯、言うつもりもありません」
「でも、いつかは……伝えてもいいと思う日が来るかもしれませんでしょう?」
「どうでしょうか……私の気持ちは変わりませんから……それにもし伝えたとしても受け入れてもらえるとは思いません。」
レナートは寂しげに笑っていた。
「辛い恋をされているのね」
「……そうですね。きっと私は一生……死ぬまでその人をお慕いし続けることになるのでしょう」
レナートの言葉を聞いた瞬間、胸の奥がズキンとした。
聖騎士団の入団は24歳までに決めなければならず、その後よほどの事情がなければ退団することもできない。レナートは自分に従って入団することを当然と考えているから恋の相手にそんな悲観的になるのだろう。
彼の手を放してやらなければと考えたその後のアンゼルの行動は早かった。レナートのために金で爵位を用意し、屋敷と幾人かの侍女まで用意したと言うのに……
(何が気に入らなかったのだろう…)
今こうして監禁され、秘蹟魔法まで奪われた意味をアンゼルは理解できなかった。
喉が渇いたが、枕元のコップには水が入っていなかった。
(秘蹟魔法が使えれば、水を満たすことは簡単なのに)
秘蹟魔法のごく初歩の魔法に清らかな水を出す魔法がある。無駄だとは思ったが、コップを手に取り、呪文を唱えると…コップが水で満たされた。
「!」
(秘蹟魔法がまだ使える)
もし元のまま魔法が使えるのだとしたら、ここから抜け出すことはそう難しくもなかった。だが…静かに眠るレナートの顔をもう一度じっと見る。
(俺は……)
レナートの寝顔を見ながら、アンゼルはそっとその傍に潜り込んで再び目を閉じた
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