聖騎士墜落

煮卵

文字の大きさ
上 下
3 / 17
回想

回想1

しおりを挟む
気を失ったアンゼルの体を優しく湯で濡らしたリネンで拭きながらレナートは昔のことを思い返していた。
高級娼婦だったレナートの母親は新しい恋人を得るのに邪魔になった彼を街のはずれに置き去りにした。彼はまだ8歳だった。
盗み、かっぱらいとなんでもやったが、8歳の子供に自分を養っていくことは難しく、取り仕切っていた浮浪児の集団にリンチにあい、彼はヘンドリック橋の袂で行き倒れていた。
その日は雪が降っていた。寒さは彼の体を蝕みそのほとんどの感覚を奪っていた。冷たい雪が空から自分の体に舞い降りてくる。
何人かの人間が通ったがボロ雑巾のような小さな体を一瞥すると通り過ぎてしまう。
このまま薄暗い曇天に吸い込まれて自分は死ぬのだと思ったその時、不意に金髪の頭が彼を覗き込んだ。
「意識はあるかい?」
天使だと思った。教会で祭壇画に描かれたものを見たことがある。柔らかにうねる金髪。晴れた空のような青い瞳ーー年の頃は12歳ぐらいぐらいだろうか。形の良い鼻の先が寒さで少し赤くなっている。
天使がレナートを抱き起こし、毛布で包むと抱き上げる。
「良かった。まだ生きてる。」
どうやら自分は生きていて、彼は天からの使いではなく人間の様だった。抱き寄せられて彼のぬくみを頬に感じる。
石鹸の香りだろうかオリーブの実のような香りがして、首筋に顔を擦り付けるようにする
「今日は教会は空いていないから、僕の屋敷においで」
すぐ近くに停まっていた馬車に乗り込む。浮浪児の匂いがするのか執事らしき同乗者が顔を顰めたが、誰も彼に抗議するものはいなかった。
広大な屋敷の小さな部屋で小さなタライの中に入れられて垢や目脂を泡立てた石鹸で丁寧に洗われる。
「綺麗になったね。僕の名前はアンゼル。君は?」
外の世界で殴られ、虐げられた生活を送っていたためか、それとも数度しか呼ばれなかったので愛着がなかったのか、レナートは母親からつけられた自分の名前を忘れてしまっていた。
「名前が…無いのかい?」
不安気な顔をされ、申し訳なくなった
「ごめんなさい…」
「じゃあ、僕がつけてあげよう。」
少年アンゼルは形のいい唇を引き結んでしばらく考えた後、
「レナート。勇敢と再生という意味があるんだ」
レナートの肩を掴み、そっと微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集

あかさたな!
BL
全話独立したお話です。 溺愛前提のラブラブ感と ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。 いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を! 【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】 ------------------ 【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。 同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集] 等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。 ありがとうございました。 引き続き応援いただけると幸いです。】

男は教え子達に雌として可愛がられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...