善界の狗

煮卵

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鶯を炙る(翠嵐回想)

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その年の紅葉狩りでもっとも僧たちの目を引いたのが女物の着物を着た翠嵐の美しさだった。
紅葉を敷き詰めた地柄に菊の花があしらってある豪華な意匠だった。翠嵐のほっそりとした白い首筋が赤い色に映える。
大きく開いた襟ぐりから、柔らかそうな産毛の生えた背中がチラリと見えるのが
また悩ましかった。飯室の僧正の手を引いて紅葉した山並みが見える場所に佇む
「紅葉は美しいかい?」
目の見えない飯室の僧正が辺りの様子を翠嵐に聞く。彼にとっては肌寒い中での散歩に過ぎないだろうに
何故かとても嬉しそうだった。
「ええ、とても」
「そうか、落ち葉の匂いがするから、もう大分落ちているのかと思ったけれど」
「今が見頃ですよ」
「それはよかった。もし他の場所が見たければここにいるから、歩いて回ってくるといい」
翠嵐は首を振った。僧正の手を固く握る。
「ここで十分です。池の周りの紅葉が赤く色づいているのが水面に写ってとても綺麗です」
僧正が遠くを見る。翠嵐の言葉に今の景色を思い浮かべているのだろうか

紅葉を鑑賞している二人に、竜田の僧正が話しかけてきた。
「おや、飯室の僧正殿ではありませんか。こんな所で何をなさっているのですか?」
飯室の僧正が答える。
「紅葉を見に来たのです。」
「紅葉をねえ。確かに美しい紅葉でございますねえ。庭も翠嵐の姿もあなたには見えぬでしょうが」
含みのある言い方に翠嵐が眉を顰めた
「もっと綺麗に見える場所がある。私がご案内致しますよ」
「お気遣いありがとうございます。ですが。」
僧正はそう言うと、翠嵐の肩を抱き寄せた。
「彼が手を引いてくれたところに行きたいのです」
竜田の僧正は驚いた顔をした後、苦虫を噛み潰したような表情で
去っていった。
紅葉が散り、僧正の長い髪に散りかかる。翠嵐は相乗の髪に手を伸ばした
「御髪に紅葉が・・・」
「ああ、ありがとう」
黒々とした僧正の髪から赤い紅葉を摘む。
捨ててしまうのが惜しくて、翠嵐は袂に紅葉を仕舞った
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