15 / 21
鶯を炙る(翠嵐回想)
2
しおりを挟む
翠嵐は一人取り残されたが声を上げず、じっと様子を窺っていた。自分の恥ずかしい状況を他に知られたくなかった。飯室の僧正は踵を返すと人の気配を感じるのかしばらくキョロキョロとしていた。
「あ!あぶない!」
飯室の僧正の袖が灯された蝋燭の火に炙られそうになり、思わず翠嵐が声を上げる。
「?まだ誰かいるのですか?」
不思議そうな声に、仕方なく応えた
「はい…先日稚児として迎えられました翠嵐と申します」
乱された着物を手早く治すと台から降りた。
「部屋までお連れしましょうか?お坊様」
「これはこれはありがたい」
翠嵐が手を引き離れまで案内する。
「君はここに来て何年になる?」
「まだ来たばかりです。10日ほどになるでしょうか」
「ほう、来て10日で部屋の場所を覚えてしまうとは…」
「書庫のすぐ近くですから、その周りは…」
「勉強熱心だね」
「書物が好きなのです…亡くなった父は様々な事を口伝で伝えてくれましたが、家に詳しい書物がなくて…」
翠嵐は陰陽師の家系に生まれたが彼の祖父が既に財産を食い潰していて、家には巻物の一巻もなかった。
寺に引き取られると決まって書物が読めると喜んでいたが…。先ほどの一件で自分がなぜここに引き取られたのかはっきりした。自分は性欲を持て余した僧侶達の慰み者のとして売り飛ばされてきたのだ。
あの様な事をずっとされ続けるのだろうと思うと胸が塞いだ。
「翠嵐と言ったね。私の部屋仏典があるんだ。もし読めるのなら私に読み聞かせてくれないか?」
「え!本当に??良いのですか?こんな夜更けに訪ねてはご迷惑では?」
「ああ、いいよ。もう夜も遅いから、私の部屋に泊まっていくといい」
寝所に戻ればまた竜田の僧正達に何かされるのではないかと恐れていた翠嵐にとってこれ以上の話はなかった。
その晩は夜明け近くまで飯室の僧正と話した。僧正は翠嵐の出会ったどの大人よりも博識で、話も面白かった。
「君と話していると楽しい。また明日の夜おいで」
その日以来毎晩飯室の僧正の元に通う様になった翠嵐は寺の中でも「飯室の僧正の贔屓」と噂が立ち、手を出そうとするものはいなくなった。
「寺の歴史の中でも抜きん出て容貌の良い美しい稚児を愛でるのが目の見えぬお方とは…」と竜田の僧正は陰で悔し気に罵っていた。
「あ!あぶない!」
飯室の僧正の袖が灯された蝋燭の火に炙られそうになり、思わず翠嵐が声を上げる。
「?まだ誰かいるのですか?」
不思議そうな声に、仕方なく応えた
「はい…先日稚児として迎えられました翠嵐と申します」
乱された着物を手早く治すと台から降りた。
「部屋までお連れしましょうか?お坊様」
「これはこれはありがたい」
翠嵐が手を引き離れまで案内する。
「君はここに来て何年になる?」
「まだ来たばかりです。10日ほどになるでしょうか」
「ほう、来て10日で部屋の場所を覚えてしまうとは…」
「書庫のすぐ近くですから、その周りは…」
「勉強熱心だね」
「書物が好きなのです…亡くなった父は様々な事を口伝で伝えてくれましたが、家に詳しい書物がなくて…」
翠嵐は陰陽師の家系に生まれたが彼の祖父が既に財産を食い潰していて、家には巻物の一巻もなかった。
寺に引き取られると決まって書物が読めると喜んでいたが…。先ほどの一件で自分がなぜここに引き取られたのかはっきりした。自分は性欲を持て余した僧侶達の慰み者のとして売り飛ばされてきたのだ。
あの様な事をずっとされ続けるのだろうと思うと胸が塞いだ。
「翠嵐と言ったね。私の部屋仏典があるんだ。もし読めるのなら私に読み聞かせてくれないか?」
「え!本当に??良いのですか?こんな夜更けに訪ねてはご迷惑では?」
「ああ、いいよ。もう夜も遅いから、私の部屋に泊まっていくといい」
寝所に戻ればまた竜田の僧正達に何かされるのではないかと恐れていた翠嵐にとってこれ以上の話はなかった。
その晩は夜明け近くまで飯室の僧正と話した。僧正は翠嵐の出会ったどの大人よりも博識で、話も面白かった。
「君と話していると楽しい。また明日の夜おいで」
その日以来毎晩飯室の僧正の元に通う様になった翠嵐は寺の中でも「飯室の僧正の贔屓」と噂が立ち、手を出そうとするものはいなくなった。
「寺の歴史の中でも抜きん出て容貌の良い美しい稚児を愛でるのが目の見えぬお方とは…」と竜田の僧正は陰で悔し気に罵っていた。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる