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転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!第一話
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翌日の婚約の儀は、鏡の間で行われた。
婚約する二人と、それを取り囲む人々から少し離れたところに、俺たちは立っていた。
開放的なアーチ型の窓の上には、教会のステンドグラスのような色とりどりのガラスを使った丸窓が配置されている。
豪奢なシャンデリアが吊り下がる天井には、大天使が竜を倒し、踏みつけている姿が晴れ渡る青空を背景に描かれていた。
婚約の儀とは、どちらかといえば家同士の儀式だ。
二人はそれぞれの家格に応じた衣装に身を包み、それぞれの国で主に信仰されている神の前で、両家本人から異論が出なければ婚約が成就し、そのまま婚礼の準備に取り掛かることになる。
天へと伸びるような教会風のアーチ状の天井の下、婚約が行われる二人の来歴や現在の領土が読み上げられ、神官が「異議のある者はいないか」と問う。
アーベルはすでに控えていた。
白いタキシード風のジャケットに、長い白いファーのついたマントがよく似合っている。
しかし、婚約者であるマリーテレーズの姿は、まだ見えなかった。
その時、突然、家臣たちの集まる広間に王女とその付き人たちが入ってきた。
その場にいた家臣たちは、驚いた様子で慌てて立ち上がる。
王女は堂々とした態度で、王子と王族たちの前に立った。
「私たちは今回、アーベル様との婚約を破棄することを決めました」
その言葉に、広間の空気が一変した。
王族たちは呆然とした表情を浮かべ、王子は何かに勘づいたように目を伏せた。
俺は驚きのあまり、声が出せなかった。
「その理由は何か?」
王族たちが尋ねると、王女が答えた。
「その理由は……アーベル様が一番ご存知のはずです」
そう言われて、アーベルの顔はさらに赤くなった。
しかし、それを見た国王は、何かに気づいたようだった。
「なるほど……そういうことか」
そして、彼は言った。
「では、そなたらの言い分も聞こうではないか。理由があるなら言ってみよ!」
アーベルは少しうつむきながら話し始めた。
「私には……思い人がいるのです」
「それは本当なのか?」
アーベルは静かに頷いた。
すると、国王が王子に問いかける。
「ならば、なぜ今まで黙っていたのだ? もしや、我が国を混乱させることが目的だったのではあるまいな?」
アーベルは何も言わなかった。
「沈黙は肯定とみなすぞ! どうなのだ!?」
国王は王子を問い詰めるが、彼は何も言おうとはしなかった。
「アンリ、もういいだろう」
すると、そこに現れたのは、王子の叔父であるアルノルト殿下だった。
「アルノルトか……貴様は知っていたのか?」
「ああ、知っていた」
その言葉を聞いて、王子は目を見開いた。
「キーズ公、どうして……」
アルノルト殿下は優しい口調で答えた。
「お前は昔から素直すぎるところがあったからね」
アーベルはハッとした顔をしていた。
「まあ、だがどうだろうか。この婚約の話は、一度保留にしてみては?」
「保留だと!? 何を言って……」
「僭越ながら、私もそれに賛成ですわ」
激昂する王に臆することなく、凛とした声で答えたのはマリーテレーズだった。
「昨夜からアーベル様は混乱されております。一度頭を冷やした方が良いかと思いますわ」
「そうですな、私も彼女の意見に賛成です」
アルノルトも静かに言った。
すると、国王は黙り込んでしまった。
そして、しばらくして口を開いた。
「分かった。では、1ヶ月後にもう一度話し合いの場を設けることにしよう」
こうして、婚約の儀は中止となった。
鏡の間から一人で出ていくアーベルを、俺は追いかけた。
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婚約する二人と、それを取り囲む人々から少し離れたところに、俺たちは立っていた。
開放的なアーチ型の窓の上には、教会のステンドグラスのような色とりどりのガラスを使った丸窓が配置されている。
豪奢なシャンデリアが吊り下がる天井には、大天使が竜を倒し、踏みつけている姿が晴れ渡る青空を背景に描かれていた。
婚約の儀とは、どちらかといえば家同士の儀式だ。
二人はそれぞれの家格に応じた衣装に身を包み、それぞれの国で主に信仰されている神の前で、両家本人から異論が出なければ婚約が成就し、そのまま婚礼の準備に取り掛かることになる。
天へと伸びるような教会風のアーチ状の天井の下、婚約が行われる二人の来歴や現在の領土が読み上げられ、神官が「異議のある者はいないか」と問う。
アーベルはすでに控えていた。
白いタキシード風のジャケットに、長い白いファーのついたマントがよく似合っている。
しかし、婚約者であるマリーテレーズの姿は、まだ見えなかった。
その時、突然、家臣たちの集まる広間に王女とその付き人たちが入ってきた。
その場にいた家臣たちは、驚いた様子で慌てて立ち上がる。
王女は堂々とした態度で、王子と王族たちの前に立った。
「私たちは今回、アーベル様との婚約を破棄することを決めました」
その言葉に、広間の空気が一変した。
王族たちは呆然とした表情を浮かべ、王子は何かに勘づいたように目を伏せた。
俺は驚きのあまり、声が出せなかった。
「その理由は何か?」
王族たちが尋ねると、王女が答えた。
「その理由は……アーベル様が一番ご存知のはずです」
そう言われて、アーベルの顔はさらに赤くなった。
しかし、それを見た国王は、何かに気づいたようだった。
「なるほど……そういうことか」
そして、彼は言った。
「では、そなたらの言い分も聞こうではないか。理由があるなら言ってみよ!」
アーベルは少しうつむきながら話し始めた。
「私には……思い人がいるのです」
「それは本当なのか?」
アーベルは静かに頷いた。
すると、国王が王子に問いかける。
「ならば、なぜ今まで黙っていたのだ? もしや、我が国を混乱させることが目的だったのではあるまいな?」
アーベルは何も言わなかった。
「沈黙は肯定とみなすぞ! どうなのだ!?」
国王は王子を問い詰めるが、彼は何も言おうとはしなかった。
「アンリ、もういいだろう」
すると、そこに現れたのは、王子の叔父であるアルノルト殿下だった。
「アルノルトか……貴様は知っていたのか?」
「ああ、知っていた」
その言葉を聞いて、王子は目を見開いた。
「キーズ公、どうして……」
アルノルト殿下は優しい口調で答えた。
「お前は昔から素直すぎるところがあったからね」
アーベルはハッとした顔をしていた。
「まあ、だがどうだろうか。この婚約の話は、一度保留にしてみては?」
「保留だと!? 何を言って……」
「僭越ながら、私もそれに賛成ですわ」
激昂する王に臆することなく、凛とした声で答えたのはマリーテレーズだった。
「昨夜からアーベル様は混乱されております。一度頭を冷やした方が良いかと思いますわ」
「そうですな、私も彼女の意見に賛成です」
アルノルトも静かに言った。
すると、国王は黙り込んでしまった。
そして、しばらくして口を開いた。
「分かった。では、1ヶ月後にもう一度話し合いの場を設けることにしよう」
こうして、婚約の儀は中止となった。
鏡の間から一人で出ていくアーベルを、俺は追いかけた。
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