転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵

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転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!第一話

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外から、木の階段を上がるゆっくりとした足音にハッとなる。階段を登る静かな音は扉の外で止まり、コン、コン、と部屋の木の扉が叩かれる。俺は窓辺から降りて、魔道具や分度器を踏み越え、扉を開けた。

「こんばんは」

黒い外套を身に纏った背の高い青年を見上げ、俺は目を見開いた。
アーベル=ミシェル・ド・ロベール=ロレーヌ。皇太子で、明日の婚約の儀の主役である。

「どうした? なにかあったのか?」

「炎の精霊のショーにみんなが夢中だから、目を盗んで抜け出してきたんだ」

フードを外すと、端正な顔立ちがあらわになる。
少し青みがかったさらさらとした金髪と、よく晴れた青空のような瞳には優しい光が宿っている。

王家のロレーヌ家は長身の家系ではないが、彼の父親である勇敢王アンリに似て、逞しく大きな体をしていた。

「いいのか? 主役はお前だろう?」

皇太子相手にフランクな口調をするのは慣れなかったが、アーベルに泣いて懇願されて、この口調になった。

「お相手は長旅で疲れたのか、一言も発することなく、すぐに下がってしまって…」

婚約相手の隣国の王女マリーテレーズとアーベルは面識すらない。
絵に描いたような政略結婚をさせるのは胸が痛むが、仕方ない。すべては死亡フラグ回避のためだ。

「君と一緒に見たかったんだ」

はしゃぐ青い瞳に、俺はため息をついた。

「いい林檎酒が手に入ったから、入れてやる。待ってろ」

「ありがとう」

陶器の厚手の無骨なカップに林檎酒を注いで手渡す。

窓辺に二人で立ち、寄り添って狭い窓を覗き込むようにして、外の華やかな光を眺めていた。
どうやら13本のバラの花束を作ろうとしているらしく、すでに5本目のバラの花が夜空に輝いている。

「すげーな。あんな数の炎の精霊を操れる奴がいるのか?」

「マリーテレーズ王女のお付きの精霊使いだって」

「帝国出身なのか。神聖魔法だけじゃないんだな」

魔法には三種類ある。
一つは神官などが使う神聖魔法、もう一つは精霊を操る精霊魔法、そして俺が使う、悪魔と呼ばれる異世界生命体と契約を結んで使う黒魔術だ。

夜空に永遠の愛を表す13本のバラが、光の精霊によって描かれていた。
城から見ることを想定して作られているのだろう。光のバラはやや太って歪んで見えた。

城から見てりゃ、こんなふうに歪んでは見えないだろうに…

アーベルの方を見ると、目が合った。
予想外に真剣な眼差しとぶつかり、少し驚いた。

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