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いつかの楽しみ
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しおりを挟む今日は朝からずっと晴天で雲も見えないくらい真っ青で。
風もあまり吹いてないけど、やっぱり1月は寒いから早く屋上に行ってあげたいとは思う。
でも何だか足取りが重くなって、階段を一段ずつ上ってドアに手をかけた。
ドアを押すとブワッと空気が入ってきて、私は外を覗き込む。
優斗がドアの先にいて、他には誰もいないみたい。
そりゃこんな冬にわざわざ屋上なんて来ないか。
「優斗」
駆け寄ると優斗は振り向いて、いつもみたく優しく微笑んでくれる。
ああ、なんか久しぶり。
優斗の顔をちゃんと見るの。
「寒くない?」
「まあまあちょっと寒い」
「だよね、ごめん」
空は青く澄んでいて、グラウンドからは部活の声が響いていてここがなおさら静かに感じる。
たまに強く風が吹く。
なんとなくいつもより距離を空けて優斗の隣に立った。
「そういえば、おばちゃんあれから平気そう?」
「ああ。もう仕事も復帰して前みたいに働いてる。一応これからも定期的に検査はするみたいだけど」
「そっか。よかった」
優斗はあえて私に言ってなかったのかもしれないけど、ずっとおばちゃんのことは気になっていた。
きっと私に心配させないようにしてたんだろうけど。
「明子、もうすぐ誕生日じゃん」
「うん」
「誰と過ごしたいの?」
前を見たまま、優斗はつぶやく。
過ごすの?じゃなくて、過ごしたいの?って。
優斗の横顔が眩しく見える。
「…えっと……別に、特に予定があるわけでもないんだけど、ていうか忘れてたくらいだし。でも…その……」
煮え切らない言葉に自分でもイライラしてくるんだけど、スパッと言い出せずにもごもごと言ってしまう。
するとそんな私に優斗はこっちを眺めて穏やかに微笑んだ。
「…ごめん、意地悪して。もう分かってるよ」
これが優斗の意地悪なら、類くんはいつ何時も私に意地悪していることになる。
私の頭に手を伸ばしてぐりぐりと撫でて、その温かさに私は目をじわっと潤わせた。
「そんな顔すんなよ」
「…ごめんっ……」
「……好きだったよ、明子」
ぽんぽんと頭を撫でる。
ゆっくりと手が離れて、優斗は私を見つめた。
「ちゃんと、幼馴染に戻るから」
私が泣くのはずるい。
だからぐっと堪えてこくこくと頷く。
「でもあいつに明子が泣かされたら、俺あいつのことどうかしちまうかも」
「…それは怖いからやめて」
「ははは」
優斗がこうやって笑う時は、多分強がってる時。
ちゃんとわかってるんだけど、きっと私が何かしてあげることはできない。
というかしちゃいけない。
「…じゃ、私先戻るね」
「おう」
平気なフリをして、私がこれ以上苦しまないように笑ってみせて、どこまでも私に甘いんだから。
私は駆け足でドアまで戻り、ドアを引いて中に入った。
するとドアの隣でななが立っていて、私と入れ替わるようにドアに手をかける。
「さて、慰めてやろうかな」
ふ、と彼女は清々しい笑顔でそうつぶやいた。
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