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抱きしめたかっただけだった
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しおりを挟むカシャッ、カシャッ。
頭の奥でそんな音がぼんやりと聞こえる。
瞼の裏が白く明るくなり、それが陽の光だと気づいて私は目を覚ました。
目の前には私に重なって寝ている類くんがいて、私はその腕の中から抜け出してベットに座る。
眠い目を擦って、ふとドアの方を眺めると店長やゆなちゃんたちの姿が。
「ごちそうさまッ、めいちゃん!」
「昨晩は君たち、ふたりきりで寝たりして何やってたのかなー?」
「ちょ……っ、ちょっと待って?誤解!誤解だから、って何写真撮ってんのよ!」
社員さんたちも携帯を構えて写真を撮りまくっていて、良いもんが撮れたなあとにやにやして1階に降りて行ってしまう。
乱れた格好とかしてなかったかな?!
一応昨日服は着てたけど……っ。
部屋に取り残されて昨日のことを思い出していると、類くんがやっと目覚めてしかめっ面でこちらを睨んできた。
「…うるさいな……、頭痛えんだけど…」
「あ、類くん…おはよ……」
後頭部を押さえて彼は上体を起こす。
あくびをしながら頭が痛いとずっと言ってる。
多分二日酔いだ。
「類くん大丈夫?昨日いっぱいお酒飲んでたから…、水取ってこよっか?」
「いや、俺も下行く。てか何であんたここにいんの?」
頭が痛いからか不機嫌そうに言ってじっと私を見つめる。
まさかこの人……。
「まさか類くん、昨日のこと覚えてないの……?」
「あ?…昨日は下で酒飲みまくって、トイレ行こうとして……そのあとは、覚えてない」
マジか…、という感情がすぐ表情に出た私。
それってつまり、優斗に言ったあれこれも、そのあと無理矢理私を部屋に連れ込んだのも、全く何も覚えてなかったってこと?!
……ああそうですかそうですか。
ほんとに類くんは私をよく弄んでくれちゃって。
「……もう、類くんは外でお酒飲んだら絶対だめだから」
「はあ?何であんたにそんなこと言われなきゃならな」
「ダメったらダメ!」
そう叫んでやったら頭に響いたらしく余計顔を歪ませる類くん。
私はもう知らない!と部屋を出て自分の部屋に戻り歯ブラシを探して洗面所に向かう。
ああもう、酔っ払いの言うことにほだされて馬鹿を見るところだった。
大体あれは夢だったのよ、そう、夢!
あれは私が都合良く見てしまった類くんの幻!妄想!
「……んー、自分で言ってて悲しくなってくるな…」
「あ、めいちゃーん!昼ごはん出来るよー!」
さっちゃんが呼びに来てくれて私はこくこくと頷いた。
というかもうお昼なんだ…、どうりで日差しが目にしみるわけね。
口をゆすいで皆の所に行くとカレーうどんが並んでいて、わーいと私は席に着く。
皆が揃うのを待ってると、外から優斗が帰ってきた。
「どこ行ってたの?優斗」
「散歩」
ななが聞いて、優斗はななの隣に座った。
うーん……。
昨日の今日で、顔を合わせづらいったらありゃしない。
するとドカドカと階段を降りてくる音がしてドアが開くと、類くんが眠そうな顔をしてテーブルにやってきた。
「はい、一条くん。昨日結構飲んでたけどカレーうどん食べられる?」
「あー、どうも」
店長からカレーうどんを受け取り類くんは私の前の席につく。
皆が揃っていただきますをすると、早速類くんの隣に座っていた坂本さんが携帯の画面を類くんに見せた。
「決定的写真残してあるんだけど、昨晩めいちゃんと何してたの一条くん?」
さっき撮ったばかりの写真をちらつかせる。
が、類くんはそれを見ても全く動じず、ズルズルとうどんをすする。
「正直全く覚えてないんで。何でこいつがこっちの部屋で寝てたのかも知らないし」
「え、てことはめいちゃんが迫ったってこと?!」
「坂本さん!そんなことするわけないでしょうが!」
そう私が喚いても、普段私の方が類くんに迫っている分皆はなかなか信じてくれなくて困ってしまった。
しかも類くんが俺は全く知りませんって顔をしてるのも腹が立つ。
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