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そして追いかけた
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しおりを挟むクリスマス当日。
今年は土曜がクリスマスイブだから、昼から仕込みでバイトに向かっていた。
街中にはそれはそれはカップルがはびこっていて、心にしみるなあなんて思いながら出勤する。
夜になるとそこそこ人は溢れかえっていて、と言ってもうちはデートで使うような店でもないからカップルは少なめ。
その分クリスマスというイベントに卑屈な人たちが集まってきたりする。
「クリスマスがカップルのイベントだなんて誰が言い出したんだまったく!」
「独り身の気持ちも考えろってんだー!」
「そうだそうだー!」
「どうせめーちゃんもこの後彼氏と合流したりするんだろー!」
「しませんよー独りですよー、はい生4つね」
言ってて悲しくなるからおじさんたちやめてくれよ。
そうこうしているうちに時計は21時を回り、類くんが上がってしまう。
今日は私はラストまで。
他のバイトの子もななと優斗もそもそも予定があってシフトに入ってなかったし、独り身の私みたいなのが最後までいなくちゃならない。
そう考えると類くんだってラストまでいたらいいのに、まさか麗華さんと会ったりするの?なんて思ってしまったり。
「めーちゃんも上がりたかったら上がっていいよ?」
「え?どうしたんですか店長」
「いや、バイトの子は結構クリスマス予定あるみたいでシフト入ってなかったんだけど、正社が皆恋人いないから予定なくて入れるからさ」
「なんかそれ悲しいですね」
思わず笑ってしまう。
でも私も予定があるわけじゃないし、今帰っても類くんの事が気になっちゃうだけだし。
「私も独り身だからとことん付き合いますよ!」
「さすがめーちゃん!」
グッと親指を上げてお互いを讃え合い仕事に戻る。
それからは割と忙しくてあっという間だった。
まあ稼げる内に稼いどいた方がいいよねえと思いつつ、片付けをして休憩室に向かう。
締め作業は正社員の人たちがしてくれるみたいだし、ぼちぼち着替えて帰りにコンビニでも寄ってケーキ食べようかなあなんて考えて休憩室を出た。
こういう時コンビニって便利だよね、と思いながら店の外に出るとふわっと冷たい空気が身体を包む。
と、ドアの横でうずくまる人が私の服の裾を掴んだ。
「わっ!類くん?!何してんのこんな所で!」
びっくりしすぎて大きな声が出てしまった。
だってそもそも人がいるなんて思わなかったし、立ち上がる類くんを見ると耳と鼻が赤くなってて思わず手を伸ばす。
「冷た!いつからここにいたの?」
「…30分前」
「な…っ、類くん2時間は前に退勤してたでしょ?今まで何してたの?」
「カフェにいたけど声かけられるのがうざいから出てきた」
「カフェって…、誰か待ってたの?しかも薄着だし……」
そう言って私は彼の上着の前をしめて自分のマフラーを首に巻いてあげた。
大きい身体が縮こまって、いつもより小さく見える。
こんな時間まで待ってたって……。
やっぱり麗華さんなのかな。
それを聞くのが怖くて聞きたくなくて、とりあえず早くどこか中に入ろうと携帯を見ると、ちょうど着信がかかってきた。
「あ……」
「…なんだよ、出ろよ」
「う…、でも……」
渋る私を不審に思い類くんは私の携帯の画面を覗きこむ。
着信は優斗からだった。
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