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そして追いかけた
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しおりを挟む「でも私まだ好きって言われてない!」
類くんを見上げ、ぎゅっと腕を掴む。
周りは類くんのことを知ってる大学生の人とかが私たちを見ていて少し取り囲まれているような感じ。
それでも私が気にせずじっと見つめると、類くんはむっとした表情をして睨んだ。
「またそれかよ。離せ」
「やだ」
「しつけーな」
ブンッと類くんは私の手を振り下ろして払った。
と、夏祭りで類くんに貰った花の指輪を今日は付けてきていたのだが、それが手を振り払われた拍子に身体に当たって壊れてしまう。
リングの金属の部分から花だけがころんと落ちてしまって、私は口をあんぐりとしてしまった。
「…こ、壊した…、類くんがくれた指輪……っ」
「…そんなの安物なんだからどうでもいいだろ」
「そういう問題じゃないもん!類くんが初めて私にくれた物だから、大事にしまってたのに!」
「じゃあ今日付けてきたあんたが悪い」
「何なのそれ!指輪なんだから付けなきゃ意味ないでしょ!」
ぷんすか怒る私を類くんはめんどくせぇ、とつぶやいて私から視線を外す。
その態度もむかついて私は類くんの胸をドンと叩いた。
「好きって言ってくんなきゃ付き合ってない!」
わがままなのは分かってるけど、私も抑えらんなくてそう喚いた。
音楽が鳴り響いている賑やかな場所で、私たちの一悶着を面白おかしく眺める通行人の目は痛い。
そしてそんな場所で類くんが言えるはずもなく。
「……勝手に言ってろ」
冷たい目をして類くんはふいっと顔を逸らして行ってしまう。
そんな彼を田辺さんは追っかけ、私とななは呆然と立ち尽くしていた。
「えーっと、明子。とりあえず座れる場所探そっか。あっち休憩スペースみたいだし」
ななが気を遣って私の背中に手を優しく当てながら連れていってくれる。
建物の中にあった教室を飾った休憩室は暖房が効いていて暖かく、やっと私たちは腰を下ろす事ができた。
「なんか、一気に疲れちゃったよ」
「来たばっかなのにね」
ふう、とため息をつく。
手元を見ると花の部分が壊れて落ちて無くなってしまった、金属だけのリングが指にはまっていた。
そりゃ私が勝手に類くんから貰えたって浮かれてただけだけど、あんな言い方しなくたっていいじゃない。
優斗だったら絶対あんなふうに言ったりしない。
優斗だったらきっと、たとえ壊れてしまっても優しい言い方をしてくれるはず。
比べたって仕方のないことを私は思い描いてまた肩を落とした。
「優斗だったら、一条さんみたいにあんなキツイ言い方しないんじゃない?」
唐突に、ななが私の横顔を眺めながらつぶやいた。
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