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俺だけ見てろ
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しおりを挟む慌ててコーンスープを持った手を外に伸ばして避難させた。
優斗の香りが私をふわりと包む。
私は突然の状況に目をただパチパチとさせて、呆然としていた。
「小さい頃からずっと、明子のことが好きだ」
ぎゅっと、優斗の腕に力が入る。
顔を私の首筋に埋めて、髪と腰に手を添えられて私は動く事ができなかった。
…優斗が、私のことを好き……?
この感じはたぶん、どう考えても幼馴染としてとか人間としてって感じじゃなくてラブの方……。
小さい頃からって、え、だって。
「ま、待って。だってななは?優斗、ななのことが好きなんじゃ?」
「…どこでそう思ったかは知らないけど、俺が好きな人はずっと変わってない」
胸を押して彼を見上げるとやっと表情が見えた。
私の腰を抱いたまま、優斗は頬と耳をほんのり赤らめて私を見下ろす。
「明子が誰かと付き合っても、振られる度に俺に頼ってくれるのが嬉しかった」
優斗は屈んで私の額とこつんと額を当てる。
真っ直ぐな彼の気持ちを見れなくて私は瞼を伏せた。
「その度に俺のこと、早く幼馴染以上に思ってくれないかなって思って待ってた」
外はもう薄暗くなってきていて、肌寒くなる時間帯。
なのに身体は火照っているみたいに暑くて、ただ受け止めることに精一杯で。
「でももう待てない、待ちたくない」
辺りは薄暗いけど人通りはある。
通勤通学の時間帯だし、ここの歩道は広いけど全然通り道だし。
だからこんな風に抱きしめられてて恥ずかしいのに、そんなことより優斗の気持ちを初めて知ってしまった事実にびっくりし続けていた。
「もう、誰かを好きになる明子を見たくない」
彼はまた私の髪に顔を埋めてすり、と頬を寄せる。
大事なものを抱きしめるみたいにその腕は優しくて力強くて、少しも嫌な気持ちになれなかった。
むしろ、その胸の中が心地いいと思ってしまった。
それでも頭の中に浮かぶのは類くんのたまに見せる笑顔で、私は唇を噛んでグッと優斗を押しのける。
「ちょ、ちょっと優斗、少し緩めて痛い…」
「あいつのところに行かせたくない」
逆効果だったのか、先ほどよりも強く抱きしめられて本当に身動きができなくなってしまう。
どどどどうしよう……っ。
いつも冷静で客観的に物事を見てて私を一番に優先してくれてた優斗が、初めてわがままを言ってくれていることに気づいた。
何て伝えるのがいいの?
私はどうしたいの?
突然の事態にタジタジの私。
目をぎゅっと閉じてめちゃめちゃ考えまくっていたら、突然横から声がした。
「明子」
その声が降るやいなや、私の行き場がなかった腕が唐突に引っ張られて優斗の腕が解ける。
あまりに急だったから心臓はドキンッと大きく高鳴って、引っ張られた先にボスっとぶつかった。
「ぃいったあーッ!ちょっと手首!痛い離して!」
「うっせえ!何やってんだよバカ!」
私の手首を痛いくらいに掴んで罵声を浴びせたのは、めちゃめちゃ機嫌の悪い類くんだった。
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