備忘録

ヰ野瀬

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 ハンバーガーが食べたくなった。気づいたらコンビニで買っていた。中身が薄っぺらいもので出来上がったバーガーは専門店で買うよりも平べったい。口に入れるとバーガーだ。美味しいし、味はよく知っている。
 たまにどうしてこんなことをしているのだろうと思うときがある。家出をしてから一切家に帰らなくなって仕事も始めたが、毎日出られるわけではない。そのせいかほとんどホームレスと同じだ。働き始めの頃は髪の毛は公園の水で洗い流して、髭はマスクで隠し。匂いは香水で誤魔化して仕事をする。注意をされても無視をして、金を貰ったら貯金していく。
 そんなギリギリな生活をし続けて気づけば半年が経っていた。もうそろそろ賃貸を探してもいいかと思っているが、すっかりこの生活に慣れて楽しんでいる部分もある。最近は髪の毛を洗うようになったし、服も洗濯しているし、金も貯まっていっている。ご飯は必要最低限にして寝ているのは公園のコージードーム内だ。穴は空いているが、外からの光が入ってきて穴からは空が綺麗に見える。狭いけれど、落ち着く。
 頭がおかしいやつだと周囲に家を持つ奴らは思うだろうが、こうなりたくてこうなったわけでもない。公園を通るヤツらの視線は明らかに俺らに向けられている。
 良くしてくれるいつも厚着をしているおっちゃんに今日はお礼の鍋をプレゼントした。前はキツかった臭いもすっかり慣れて今では当たり前になっている。
「あ、おっちゃん」
「ああ。来たのかい。もう来るなと言っているのに」
「心配だからさ、俺仕事してるし」
「……ありがとうね」
 家という名のダンボールに入り、コンロの上に鍋を置いてご飯を作る。慣れたものだ。冷蔵庫がないため、ご飯を我慢する日々を送っていた。そのおかげでお金が溜まってご飯が食べられたときの喜びを味わえる。それが今日だった。三日くらい我慢をして味わうご飯は美味しかった。
「もうここから出ていくんだろ」
 すっかり食べ終わったご飯を片付けている最中。お腹をさすっているおっちゃんが物悲しそうに笑った。
「まあ……」
「そうか、元気でな」
「見つかったら招待してやるよ」
「やめとけ」
 そういうのも納得できる。おっちゃんの周りにはたくさんのホームレスがいて、おっちゃんだけを招待することで皺寄せが行ってしまう可能性がある。そういう心配をしているのだろう。
「わかったよ、そしたらまあ……」
「頑張ってやれよ。もうここには来んな。美味しかった」
 炊き出しもあるし、大丈夫だろうと思う。もうきっとここに戻ることもないのだろう。
 きっと部屋はすぐに見つかる。今日限りのコージードームで空を見上げて眠った。
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