黙の月ー神の絆に愛されし桜

ちい

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第35話 完全なる制限解除

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 京都は東西南北を霊獣に守られた四神相応の地という理由から都が置かれた特別な場所だ。多くの寺社仏閣、特殊な結界で護りぬかれている都。
 この中で、北を守るのは亀と蛇が合体したような姿をしている玄武という神であり、京都市北区の船岡山がそれに該当する。
 船岡山の全域が国指定史跡となっており、山頂から東側方面にかけては建勲神社の境内が広がり、山を取り囲むように参道が整備されている。
 あちこちに露出した岩肌は、自然の荒々しさを垣間見せて厳かな雰囲気があり、野鳥や四季折々の花も多く見られ、町中とは思えない豊かな自然に巡り会える。
 春先の馬酔木や桜にはじまり、ツツジや藤などが次々と花を咲かせる。秋には紅葉がすばらしい。
 散策路のいたるところで見られるチャート層の露頭。
 チャートは海洋生物の死骸が堆積してできた地層で、この地が元は海底であり、隆起して山になったことを示している。
 船岡山の頂上付近には展望台が設けられ、京都の町並みが見渡せる。
 北側の公園付近にある東屋は、送り火の「大」や「妙法」、「舟形」を一望できる人気のスポットでもある。
 日中であれば観光名所であり、地域の人々の憩いの場でもある。
 だが、ここは古から土地が血の味を知っている。
 住民であれば知っている。夜は出歩いては行けないという暗黙のルール。
 唯人であっても、夜には感じ取れる何かがあってしまう場所。
 街燈がほぼない状況では月明りのみが僕の姿を露にする。
 対峙している死神の活動限界時間は『夜明けまで』という縛りがある。
 彼らは冥界の人間である性質上、朝陽のもとではその形態を保つことができない。
 悪鬼もまた同じである。
 死神と悪鬼は朝陽のもとではぐにゃりとしたスライムのような形態となり、現世にも籍のある僕らの肉体には指一本触れられなくなる。
 黄泉使いも基本は死神や悪鬼と活動時間は同じ。その性質はほぼ同意で、能力を顕現させることができなくなるのが一般的だ。ただイレギュラーも存在する。それが紅の王を筆頭とする僕ら宗像の主筋の血を引いている人間と白の王の血を引く美蘭。 
 タッグを組んでいる僕らと美蘭は24時間全くの縛りもなく黄泉使いとして存在することができてしまうというわけだ。
 陽の光を無視して顕現できる化け物としての評価をありがたくも頂戴している僕らのこの性質を欲しているのは今、この目の前にいるコルリ達だ。
 彼らは強い。だが、どうあっても夜が明けてしまえば活動することができない。
 彼らにとって黄泉で闘う以外にイーブンな環境とはならない。
 悠貴が全員に出した指令はこれだ。

『現世でしか勝負するな』

 黄泉へ引きずり込もうとするのが手のはずだから、絶対に現世に拘れと悠貴は言った。そうすればリカバリータイムが必ず与えられるからと。
 戦場とする場所についても悠貴から指示されていた。
 神の結界と血の味を知っている曰くつきの土地が隣り合わせになっている場所にすること。
 血の味を知っている土地には必ず心霊現象、そういう類の噂話がついてまわるため、多くの場合、丑三つ時に唯人は近寄らない。
 万が一、その場にそんな時間に立ち寄るただの人間がいたというならば、そいつは神の怒りを買うから気にせずに戦えと悠貴は言った。
 自分であれ、他人であれ、人間の命を奪うことは黄泉使いとしての理に反する。
 意図せずして巻き込んでしまっても罰はこちらが食う。
 だが、神の結界を穢さずに、神の意志を組み、現世を護るためだという立場を護り、幽世の生き物である死神と悪鬼を退ける役割だけを果たすのだと誓ったのならば、神はこちらの敵ではない。つまり、巻き込まれるような距離にいた唯人に直接神が干渉し、排除してくれる。
 怖いもの見たさで安易に行動してはいけない理由はこれだ。
 心霊スポットの恐怖体験、肝試しをするのは勝手であるが、その際に恐れるべきは化け物ではなく、神の方なのだ。
 15時以降は行ってはならないよという昔の人の言葉はこれがしっかりと刻まれている。化け物が怖いからではない。真に恐れるべきは神の方。

「掛けまくも畏き伊邪那岐大神、筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に禊ぎ祓へ給ひし時に生り坐せる祓戸の大神等、諸々の禍事、罪、穢有らむをば、祓へ給ひ清め給へと白すことを聞こし召せと恐み恐みも白す」

 地に片手をつき、すばやく言葉を捧げる。

「今の現に不思慮なくも大神の御門辺べを欲過ぎなんと為して慎み敬ひ拝お奉る此状を平けく安けく聞食しめせと恐み恐みも白す」

 古から続く言霊には意味がある。
 どうか神よ、お守りくださいという願いがある。

「船岡の山の神様方、どうかお聞きください。 僕はこの地を穢す者でも、脅かす者でもありません。 幽世からの化粧の類を退けるのがこの身に刻まれた役目。 それを果たす間、何卒、神様方のお体の上をにぎやかしますこと、お許しください」

 悠貴に渡されていた神酒を地にふるまった。

「ここに眠っておられる多くの魂が苦しみを忘れ、次の生へと旅立っていけることを同時に願います」 

 神への畏敬の念を忘れず、土地への赦しをこう。
 そして、はじめて地に足をつけ、その場で成すべきことを成す資格が与えられる。
 コルリ達との距離感は30-40メートル。
 すぐには攻め込んでこないところを見ると、桜の舞十六夜の威力を適切に判断しているということだ。
 僕に祝詞を奏上させてくれる時間すら与える。
 コルリのぶっ壊れ具合は道反で経験済みであるが今回はどうも違うみたいだ。
 連携してくる、そう直感した。
 中央にコルリ、その左右にはみたことのない面子。おそらくは春の月と花。
 この他にも気配があるが2名は表に出ない。まだ動けないのだろう。
「ノジコ、ノビタキは出さないのか?」
 ふっと間合いに飛び込んできたコルリの切っ先を槍で受け流した。
「まだ出られないんだよね、誰かさんの黒魔術で翼を半分奪われたから」
 レイピアがしなる。さすがに速い。
 身をよじり、接近戦をお好みならばより距離ゼロをめざしてやる。コルリの肩をつかみにかかるが、コルリは警戒してすぐに距離をとった。
「メジロ!」
 コルリの声に、左後方にいた線の細い女性が唇を動かした。
 その髪はまっすぐな暗黄緑色。その場を動かないで攻撃してくるつもりだ。
 声で来ると直感した。
「望!」
 僕が声を張り上げると同時に、メジロと呼ばれた女性の口から高音で複雑な響きの音が紡がれはじめる。
 わずか数秒だけ耳に届いた音は僕の身体を縛る。
 音が毒であるかのように広がり、手足にしびれをきたす。 
「なるほど、これをまともに食らっていたのなら危なかった。 さすがに強烈だ」
 春の組の二匹。あの絶対強者の脇を固めていた内の一人。
 だけれど、にやけてしまう口元。
 僕はしびれが残ったままの手のひらを打ち合わせた。
 パンっという音が自分の耳に届く。
 2度目の柏手が耳に届くがそれは鈴の音でしかない。
 3度目の柏手は水の音、4度目は風の音。
「便利なことだね」 
 しびれは完全に消失した。
 望を体内に取り込んでおくメリットはこれだ。
 即座に音毒に対応し、望がそれを体内で分解してくれている。
 コルリはこちらの状況を正確に分析しているように目を細めた。
 僕と闘うための正確な分析というところか。
 これまでのコルリとは違っている。
 まるで雅と向き合っているような感覚がする。
 雅が実戦において僕ら五人の中で一番優れている理由はその瞬時の分析力。
 静音の父である時生が舌を巻いたほどだ。
 何をしても読まれてしまう。その視線に僕は完敗してきた。
 今のコルリはその雅に近い。時間を与えれば、僕が不利になる。
「プッツンしてくれている方が好都合だったのになぁ」
 思考させない。
 僕は指先を鳴らし、彼らの足元から火柱をあげる。
 土地を行使することを僕は許された。
 だから、今もこの足元、地の下を通して術を発動させる。
 コルリはなるほどとつぶやくと、今度は超高速で間合いを詰めてくる。
 これがコイツの本気の速度。
 受け流すだけでめいいっぱいだ。
 歯を食いしばって、押し返す。
 そして、彼のレイピアの切っ先にごくわずかに血液を付着させた。
 いぶかしがったコルリはとっさに獲物を手放すと同時に、はじけろと僕が言霊を発動させると、血液は高性能TNT火薬にもひけをとらない爆発を生み、レイピアは跡形もなく焼失する。  
「さすがに賢いな」
 安易な策にコルリははまってはくれない。
 では、どうするか。僕はゆっくりと息を整える。
 コルリは爆風にその白磁の頬を傷つけた様子で、眉をひそめてこちらをみている。
 レベルが違うとでも言いたげだ。
 彼とマッチアップして、完敗に近い状況で逃げ帰ったあの日から、僕にはおそろしいまでの変化の波が訪れた。
 何よりもこの目だ。
 春の雪が冥府への最大の嫌がらせだと僕に与えたこの目。
 最大の武器は間違いなく、この目だ。
 彼らの動きが完全に予測できる。
 まるでゲームの世界。それもゲームマスターは僕で、同じ土台に立ってしまった彼らに選択権は一切与えられないワンサイド。次にどこへコマをすすめてくるかマーキングされているように見える。だから、そこへ僕が事前に地雷をうめることもできるし、自らが動き、攻撃を繰り出す前にたたくこともできる。
 動きが読めていても、怖いのはコルリの速さのみ。
 雪月花のランクは均等ではない。雪が頭一つどころではないくらいに抜き出ている。月と花のランクは横並びで、僕の体力が持つ限りは脅威にはなりえない。
 指を鳴らす。
 標的はコルリじゃない。狙いは別、的を外してもかまわない。
 コルリの動きが見たい。ただそれだけで、火力は控えめだ。
「へぇ、そういうこともできるんだね」
 コルリがメジロを爆発からかばっている姿に僕は息を飲んでいた。
 護る者があるからコルリはぷっつんできない。
 こいつらにも仲間意識があるというわけだ。
 ならばと、僕は逆サイドにいる少年へと向けて炎を放った。
「ヒバリ!」
 真っ白な髪をした小学生程度の少年はとっさに地から樹の根を生やし、防壁を作った。なるほど、これが彼の戦闘形式。
「五行の組み合わせ、考えてる?」
 五行は循環しているという考え方のことだ。
 木に火を付けると、灰になる。灰は土になり、やがて土から金が生まれる。その金が水に溶け、水が木を育てるという形で五行は常に循環する。
 五行において木と火は隣り合わせであり相生の関係性。これは循環が正しい場合だ。これが逆転すれば、循環不全となり防ぐことは適わない。
 チャンスだと集中する。炎をヒバリの足元へ集結させる。
「運が悪い。 木ではどうにもならないね」
 指を鳴らせば、ヒバリは吹っ飛ぶだろう。
 だが、コルリが僕の真後ろへ動いた。
「させるか!」
 コルリは胸元から暗器を取り出した。小さな鎌には鎖がつながっており、それを器用に僕の右腕へ巻き付けた。こうあっては指は鳴らせない。
 だけれど、そんなことには初めから意味がない。指を鳴らすのはアクションだ。本当の攻撃は言霊。
 僕の腕の動きを封じるためにコルリは僕のそばへ来ることを選択した。
「選択を誤ったね」
 唯一、僕の炎を防げる可能性があったのはコルリだけだ。
 だから、コルリをこちらへ寄せるのが僕のやりたかったこと。
 コルリの目をゆっくりと見て、僕はつぶやいた。
「燃やせ」
 コルリの目が僕の後方へスライドする。
 瞬時に爆風と轟音。
 ヒバリの絶叫が闇に響き渡る。
 背後を確認するまでもなく、焦げたような臭いが風に乗って届く。
 僕は腕にまきついたままの鎖を逆手で握り締めた。
「コルリ、本気出しなよ」
 あの時と立場は逆転だ。
 護る者があれば自由はない。
 コルリの目が怒りに満ちる。
 以前の僕と同じだ。同胞を盾に取られ、怒りに支配された奴の目。
「僕は徹底的にやる。 理知的な幼馴染はここにいない。 純粋に闘える。 この状況、理解できた?」
 自分でもぞっとするほどに、この局面を楽しんでいる自分がいる。
 目の前にいるコルリの方がまともな気さえしてくる。
「今の君が数段厄介だってことは理解したよ。 だけれど、イーブンにはさせてもらうよ」
 コルリがニヤリと笑い、飛び退った。
 まだ冷静なのか、距離を確実にとっている。
「なるほどね」
 巻き付いた鎖に仕掛けがないわけがない。
 数秒前、腕に何か刺さった感覚はあった。
 だけど、今の僕はそれすら悦に入る気分だ。
 一方的なゲームじゃつまらないと思ってしまう。
 それに、一方的な圧勝では、この後に何を奪われるかわからない。
 世の中というのはかならず帳尻を合わせてくる。
 プラスに傾きすぎたり、マイナスに傾きすぎたりすることはない。
 常に50/50になるように物事が動いていく。
 だから、マイナスを自ら作ることで、プラスを招く必要がある。
 釘が右腕に打ち込まれているのをさっと抜き去った。
 釘の腹には呪言が刻まれている。
「言霊を奪え!」
「声をさしあげよう」
 ほぼ同時に声が重なる。
 コルリが何だとというように瞠目した。
 咳ばらいをして確認してみると、僕はしっかりと声をとりあげられていた。
 瞬時に、差し出しておいてよかったよ。
 コルリはこの数分で、僕の言霊を封じることが自分たちの最大の防御となると分析した。
 確かに、僕の最大の武器は言霊を起点とした呪術なのだから、賢い選択だといえる。
 だけどと僕はにやりと笑んだ。
 本当に面白いよな、世の中の均衡ってのはと僕はくくくと笑う。
 世の中の理はコルリの『言霊を奪え』という条件より、僕の『声を差し出す』をイコール以上と解釈してくれた。

『僕の言霊は奪わせないよ、コルリ』

 コルリの顔にはじめてはっきりと恐怖が浮かんだ。
 絶望するが良い。
 君は僕に対して一番やってはならないことをしてしまったんだよ。

『この世界の理は奪われれば与えられる。 また、与えられたのなら、奪われる。 常にプラスマイナスがゼロになるように働く。 言霊は声をもってこそのもの。 僕は君の条件よりさらに上のものを差し出した。 こうやって自ら奪われるものを演出することもできるって知っていたかな?』
 
 黄泉使いは現世と黄泉とをまたいで生きる者。
 その王家血筋は声を使い分けろと教育されている。というよりももう一つの声を封じられて生きている。王家血筋は声だけでも爆発的な威力をもっているから、普段は現世に影響を与えすぎないように唯人の声を使用して戦闘する。
 もう一つの声の発動条件は喉がつぶされ、唯人の声が行使できない場合のみ。
 最強の後出しじゃんけん状態。

『君の狙い通り、言霊を奪われてしまっていたのなら、僕は困っていたと思うよ。 だけど、それは回避できたみたい。 それに、前から一度で良いからこの声を使ってみたかったんだよね』

 僕の声はもはや音だ。
 もう人の声ではない。鈴の響き、風のきる音、そういった類と同化する。
 僕の声は相手の脳裏に直接響くようになる。
 どれだけ塞ごうとしても、この声を遮ることは適わない。
 自らマイナスを作ったかいがあった。
 この声は僕が望んで使いたくともそうはいかなかったもの。
 解禁したのは僕じゃない、コルリだ。
 面白すぎて、涙が出てきそうだ。
 コルリが僕のパンドラボックスをご丁寧に開放してくれた。
 黄泉使いとしてのリミッターだけでなく、王家の血縁者が多くの場合生涯解禁することのない真の声を手に入れた。

『これが完全なる制限解除だ。 感謝するよ、コルリ』

 奪われた黄泉使い達の悲しみ、苦しみ、そのすべては僕の両肩にのっている。
 僕はどんな手を使っても勝つ。

『本気をだせ、コルリ。 戦闘可能な中で、君が一番強いのはもうわかってるんだ』

 コルリの顔色が一気にかわる。
 どうしてという顔で、唇をかみしめ、ぎろりとこちらをみた。

『リミッターをはずした僕より上はおそらくもういない。 殺しあうなら僕らですれば済む話だ』

 来いよと僕は挑発的に手をこまねいた。
 パンと高音が響き渡り、ゆっくりと白煙がたちのぼり、100メートル四方を囲まれたような感覚がした。
 コルリが結界を張ったのだ。

「宗像貴一、君の言う通りだね。 確かに僕と君が殺しあえば済む話だ」
 
 コルリはふうと息を吐いて、ゆっくりとこちらを見た。
 瞳の色がゆっくりと紅へとかわっていく。
 禁忌の瞳の色。
 金色の髪が黒く変わっていく。
 身長もゆっくりと伸びていき、あっという間に僕の父程度の身長になった。

『なるほど、君は黄泉使いだったわけか』

 コルリのこれまでの容姿は擬態か。
 こちらが本物。
 黒髪の黄泉使いは少ない。こいつが宗像に拘っている理由はかつての同胞だから。

『黒髪は宗像のものだ。 ということは、君はそういうことだよな?』

 春の雪、彼はこれを確実に知っている。
 そして、コイツはおそらく春の雪を裏切る気はない。
 意外にまともかよ、とうそぶく。
 これで、コルリの闘い方が大幅にかわってくるだろう。
 コルリにはコルリの正義があって、ここに立っている。

『ピジョンブラッドの瞳は不吉とされる色だよ。 何をしてそうなるの?』

 千鳥十字槍を構えなおした。
 コルリも空間を歪めて、その狭間から槍を引きずり出した。
 彼が槍を構える姿、その覇気が先刻とは桁違いに違っている。
 僕はそれを見て、わずかに身震いをした。
 祖父クラスかもしれないと直感した。
 だけど、怖さはゼロだ。
 ひたすらに欲しいのは時間だ。
 扉をこじ開けるための時間。
 その最大の邪魔者は春夏秋冬の実質トップであるコルリだ。。
 この結界が張られている時間、僕はコイツの足を確実に止めていられることになる。
 悠貴が動ける時間が格段に伸びたということだ。
 気を抜いたら、笑みまでこぼれ落ちてしまいそうだ。
 そう、すべてが好都合。
 悠貴がすべてを整えるまで、無駄に闘いを長引かせればそれで良い。
 何なら、残りの奴らもここへ来れば良い。
 僕の血肉はそれだけの価値があるんだろう?

『僕を食らいたくば来いよ』

 女王さえ戻ればすべては瞬時に解決することだろう。
 絶対強者の帰還のためならば、僕は何でもしてやるよ。
 さぁ、僕を目標にして集まってこい。
 そのために、この場所を選んだんだから。

 ここは風葬の地。
 多くの魂が眠る黄泉の境界。
 戦端が開けば、ここはおそらく誰の目にも映らない別次元へと移行する。
 コルリとの戦闘が終わらない限り、時間制限もない。
 この結界はおそらくそういう類のものだ。
 昼も夜もなく、ひたすらに時間だけを消費すれば良い。
 こいつを足止めすればそれで良い。 


    
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