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第25話 冥府特殊部隊 冬の組
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「本当にくっそ暗いよなぁ」
後部座席から運転席側へと顔を突き出して、デジタルで表示された数字をみてため息をつく。
熊野一帯が守備範囲っていうのは本当に骨が折れる。
30分程度だが完全に睡魔にやられていたようだ。
「今、どこらへん?」
運転手は姉の津島薫だ。
姉はもう少しだよと俺の顔を手で押し返し、後部座席へ座るように促した。
姉には黄泉使いの才がなかった。だけれど、姉は姉だ。
それに恐ろしいほどに頭が良い。
5つ上のこの姉はスポーツ万能なだけでなく、現役で医学部合格を果たした才女。
父は俺に見習えと口が酸っぱくなるくらい言うほどの自慢の娘だ。
目鼻筋の通った涼しい美人だと評されている。耳の下あたりで整えた綺麗なボブスタイル。うっかりスカウトまできてしまうほどのモデル体型。
津島一族の若い男は一度は告白してみようと思うらしいが、俺は誰一人うまくいかないことを知っている。姉には想い人がいる。その趣味はいささか問題があるのだけれど。
「やばいと思うから、俺を降ろしたら迅速に離脱ね。 俺の器量じゃ護りながらはかなりこたえるんだ」
津島は親父が倒れたのを機に壊滅的なダメージを被った。
間違いなく、四大家で最大の被害者をだしたのはうちだ。
親父とまともに向き合ったことはなかったけれど、親父1人がいかに熊野をおさえていたかを物語っている現実を目にして、俺は自分の未熟さと迂闊さを恥じた。
京都の宗像本邸でぬくぬくと俺一人が護られて、これからどうするんだ、なんてぼやいている場合じゃなかった。
どうにもできなくても、どうにかしなくてはならなかった。
瞼をおろすと、近頃は悪夢しか見ない。
「何もできなくてごめんね」
「姉さんが生きていてくれたら、それだけで俺は十分だから」
準備さんがこのフル稼働でばたばたと倒れ、不慣れな姉までが駆り出された。
姉の緊張はいやというほど伝わってきている。
「手前で降ろして良いからね」
本当は車でなど移動する必要はない。
だが、トップである悠貴から黄泉を介する移動は絶対にしてはならないとくぎを刺された。
海岸線に沿って走る国道42号線を北上していく。熊野市に入ってから間もなく国道の左手に巨岩が見えるはずだ。
それが泣く子も黙る花の窟。
花の窟神社の御神体で、高さ70mに及ぶ岩壁。
そして、道反と対をなす禁域。
黄泉がえりの地、熊野きっての聖地。
花の窟を目視し、数百メートル手前で俺は車を降りることにした。
「雅、無茶はダメだからね」
「わかってるよ」
小さく頷いて、姉に来た道を戻れと指示を出すはずだったのに、振り返ると背後の道が断たれていた。
「なるほど」
一気に額に汗が噴き出した。
時刻は「AM2:44」。
悪鬼の活動時間のど真ん中。
俺が一人ならばきっと何とか乗り切れる。だが、ここには姉がいる。
運転席の扉を力任せにあけて、姉の身体を引きずり出すと同時に、載ってきた乗用車は火の車になった。
「容赦しないってことね」
これはもう悪鬼の仕業ではない。
静音からきいていた通りだ。
出逢ったら一も二もなく退けと静音が話していた。
強さが尋常じゃないと。
万事休す、退こうにも、生身の非戦闘員を抱えていてはどうにもならない。
国道をのみこんでしまった深淵に立っている人影がある。
かろうじて残された街燈の光で足元がわずかに見えた。
目に飛び込んできた色は白。
爆音がして、国道沿いの街燈が一気に破壊された。
爆風で飛び散った破片から姉をかばうのがめいいっぱいだった。
距離にして100m。
これだけ離れていて、俺の服の袖を切り裂くほどの威力。
唇をかむしかない。
「姉さん、俺から離れるんじゃないよ」
姉を後ろ手にかばいながら、少しずつ足を引く。
距離をとりたい。
背後には花の窟が見えている。
手前で車を降りたのが仇となった。
花の窟までいけば、姉を保護することができた。
「しくじったよねぇ、これは……」
走れと姉を行かせたとしても、たどり着くまでに確実に奴らに殺られる。
これだけ気を遣って動いていたのに、まんまと罠にはまるなんて、やっぱり何かがおかしい。
用意周到に計画された登場のはずだ。
そうだとしたら、絶対に逃げ場はない。
今、津島で何とかできる人間は俺しかいない。
「せめて、ここに貴一がいればねぇ」
貴一がいれば姉を託して、俺が全力でいけば済んだ。
「随分とお悩みね、坊や」
わずかな月明りのもとに進み出てきたのはほっそりとした体躯の女性。
姉同様のボブの髪は黒褐色、吊り上がり気味の目尻には白銀のきらきらした何かが塗られており、瞳の色はぞっとするような赤銅色。艶のある唇を指でなでてみせるしぐさは魔女だ。あてにはならないが見た目は30代といったところか。
本気でやばい、集中しろ。
こいつらは絶対にスリーマンセルだ。
真っ向勝負をしかけても、分が悪いのは百も承知だ。
「どの季節がいらっしゃったわけで?」
「まぁ、ご存じだったとはね。 こんばんは、津島雅君」
「俺の名前をご存じなわけですか……」
やはり、ピンポイントで来ているわけか。
これはもう逃がしてもらえそうにない。
「私は冬の組、モズと申します」
静音は奴らの名前は野鳥にちなんだものだと言っていた。
夏の組の特徴をきいて、えぐいほどに強いことも把握している。
「早贄のお得意なお姉さまというわけですか。 なるほど、最悪だ」
野鳥にうとい俺ですら知っている名前。
モズ、いや、百舌鳥。
捕らえた獲物を木の枝等に突き刺したり、木の枝股に挟む習性をもつ野鳥だ。
初めての獲物を生け贄として奉げたという言い伝えから「モズの早贄」といわれる。稀に串刺しにされたばかりで生きて動いているものも見つかるほどおっかない鳥としても有名。
春夏秋冬の一番下の組だが、雪月花でいくとこいつはおそらく一番上。
「冬の雪ってか……」
状況を正確に把握すると、この目の前にいる女性は特殊部隊のNo.4ということになる。
姉をかばいながら、俺は今から数的不利を克服する必要がある。
さてと思案するまでもなく、結局、俺のこの状況に策などあるわけがない。
きらりと海方向からの閃光。
とっさに姉の頭をアスファルトに押し付ける。
見事なまでに目の下を鋭い何かにえぐられた。頬を生温かい貴重な血液が流れ落ちていく。
「宗像の血液、貴重なんだぞ?」
俺は指先でそれをぬぐうとそっと舐めた。
ドーピングの方法も静音からきいていた。
「つくづく静音のおかげさま」
暗闇の中でもしっかりと現状把握できる目は確保できた。
ドーピングの効果は抜群だ。
「うちのツグミのご挨拶はいかが?」
海の中にある岩の上に小さな人影がある。
視線を右にむけると、腰までまっすぐに伸びた赤褐色の髪が風に巻き上がる。
品の悪い笑みだと思った。その顔には無数の傷がある。
見た目年齢は10歳くらいの少年か。でも、それはあくまでも見た目年齢だ。
「後ろからも来んのかよ!」
錫杖がなるような金属音が背後からして、とっさに結界をはったが、突き出された杖の先見事に破壊され、氷の刃が間髪入れずに飛んでくる。
指先を傷つけようと口にするが、それを邪魔するように右からは光の刃が来る。
「くそう!」
姉は戦闘できる術がない。
どうやって護れば良いんだ。
俺は左手に呼び出した大槍を振りかぶる。
薙ぎ払ってしまえるということは相手がまだ殺す気がないからだ。
そして、神経を逆なでされるほどに、なめられている。
「あんたのお名前は?」
背後にいるクソ真面目そうな青年の髪色は緑灰色。襟足の少し長いショートカットで、瞳の色は組で統一なのか赤銅色だ。
「アオジ」
感情のない声はあまりに無機質。なるほど、こういう輩もいるわけか。
俺はリーダーである魔女の方をしっかりと見据えた。
「降参したとして、生かしてくれる選択肢はあるの?」
わざと声を出さずに、魔女はゆっくりと唇を動かした。
唇の動きは『な』『い』だ。
「なるほど! 交渉不成立みたいだから、殺しあうしかないみたいね」
自嘲気味に笑う。
だけど、春夏秋冬の一番下で良かったと俺は思っているんだ。
夏の組よりはマシだ。
「武甕槌大神!」
やるしかないなら、今、使うぞ。
俺の奥の手を。
後部座席から運転席側へと顔を突き出して、デジタルで表示された数字をみてため息をつく。
熊野一帯が守備範囲っていうのは本当に骨が折れる。
30分程度だが完全に睡魔にやられていたようだ。
「今、どこらへん?」
運転手は姉の津島薫だ。
姉はもう少しだよと俺の顔を手で押し返し、後部座席へ座るように促した。
姉には黄泉使いの才がなかった。だけれど、姉は姉だ。
それに恐ろしいほどに頭が良い。
5つ上のこの姉はスポーツ万能なだけでなく、現役で医学部合格を果たした才女。
父は俺に見習えと口が酸っぱくなるくらい言うほどの自慢の娘だ。
目鼻筋の通った涼しい美人だと評されている。耳の下あたりで整えた綺麗なボブスタイル。うっかりスカウトまできてしまうほどのモデル体型。
津島一族の若い男は一度は告白してみようと思うらしいが、俺は誰一人うまくいかないことを知っている。姉には想い人がいる。その趣味はいささか問題があるのだけれど。
「やばいと思うから、俺を降ろしたら迅速に離脱ね。 俺の器量じゃ護りながらはかなりこたえるんだ」
津島は親父が倒れたのを機に壊滅的なダメージを被った。
間違いなく、四大家で最大の被害者をだしたのはうちだ。
親父とまともに向き合ったことはなかったけれど、親父1人がいかに熊野をおさえていたかを物語っている現実を目にして、俺は自分の未熟さと迂闊さを恥じた。
京都の宗像本邸でぬくぬくと俺一人が護られて、これからどうするんだ、なんてぼやいている場合じゃなかった。
どうにもできなくても、どうにかしなくてはならなかった。
瞼をおろすと、近頃は悪夢しか見ない。
「何もできなくてごめんね」
「姉さんが生きていてくれたら、それだけで俺は十分だから」
準備さんがこのフル稼働でばたばたと倒れ、不慣れな姉までが駆り出された。
姉の緊張はいやというほど伝わってきている。
「手前で降ろして良いからね」
本当は車でなど移動する必要はない。
だが、トップである悠貴から黄泉を介する移動は絶対にしてはならないとくぎを刺された。
海岸線に沿って走る国道42号線を北上していく。熊野市に入ってから間もなく国道の左手に巨岩が見えるはずだ。
それが泣く子も黙る花の窟。
花の窟神社の御神体で、高さ70mに及ぶ岩壁。
そして、道反と対をなす禁域。
黄泉がえりの地、熊野きっての聖地。
花の窟を目視し、数百メートル手前で俺は車を降りることにした。
「雅、無茶はダメだからね」
「わかってるよ」
小さく頷いて、姉に来た道を戻れと指示を出すはずだったのに、振り返ると背後の道が断たれていた。
「なるほど」
一気に額に汗が噴き出した。
時刻は「AM2:44」。
悪鬼の活動時間のど真ん中。
俺が一人ならばきっと何とか乗り切れる。だが、ここには姉がいる。
運転席の扉を力任せにあけて、姉の身体を引きずり出すと同時に、載ってきた乗用車は火の車になった。
「容赦しないってことね」
これはもう悪鬼の仕業ではない。
静音からきいていた通りだ。
出逢ったら一も二もなく退けと静音が話していた。
強さが尋常じゃないと。
万事休す、退こうにも、生身の非戦闘員を抱えていてはどうにもならない。
国道をのみこんでしまった深淵に立っている人影がある。
かろうじて残された街燈の光で足元がわずかに見えた。
目に飛び込んできた色は白。
爆音がして、国道沿いの街燈が一気に破壊された。
爆風で飛び散った破片から姉をかばうのがめいいっぱいだった。
距離にして100m。
これだけ離れていて、俺の服の袖を切り裂くほどの威力。
唇をかむしかない。
「姉さん、俺から離れるんじゃないよ」
姉を後ろ手にかばいながら、少しずつ足を引く。
距離をとりたい。
背後には花の窟が見えている。
手前で車を降りたのが仇となった。
花の窟までいけば、姉を保護することができた。
「しくじったよねぇ、これは……」
走れと姉を行かせたとしても、たどり着くまでに確実に奴らに殺られる。
これだけ気を遣って動いていたのに、まんまと罠にはまるなんて、やっぱり何かがおかしい。
用意周到に計画された登場のはずだ。
そうだとしたら、絶対に逃げ場はない。
今、津島で何とかできる人間は俺しかいない。
「せめて、ここに貴一がいればねぇ」
貴一がいれば姉を託して、俺が全力でいけば済んだ。
「随分とお悩みね、坊や」
わずかな月明りのもとに進み出てきたのはほっそりとした体躯の女性。
姉同様のボブの髪は黒褐色、吊り上がり気味の目尻には白銀のきらきらした何かが塗られており、瞳の色はぞっとするような赤銅色。艶のある唇を指でなでてみせるしぐさは魔女だ。あてにはならないが見た目は30代といったところか。
本気でやばい、集中しろ。
こいつらは絶対にスリーマンセルだ。
真っ向勝負をしかけても、分が悪いのは百も承知だ。
「どの季節がいらっしゃったわけで?」
「まぁ、ご存じだったとはね。 こんばんは、津島雅君」
「俺の名前をご存じなわけですか……」
やはり、ピンポイントで来ているわけか。
これはもう逃がしてもらえそうにない。
「私は冬の組、モズと申します」
静音は奴らの名前は野鳥にちなんだものだと言っていた。
夏の組の特徴をきいて、えぐいほどに強いことも把握している。
「早贄のお得意なお姉さまというわけですか。 なるほど、最悪だ」
野鳥にうとい俺ですら知っている名前。
モズ、いや、百舌鳥。
捕らえた獲物を木の枝等に突き刺したり、木の枝股に挟む習性をもつ野鳥だ。
初めての獲物を生け贄として奉げたという言い伝えから「モズの早贄」といわれる。稀に串刺しにされたばかりで生きて動いているものも見つかるほどおっかない鳥としても有名。
春夏秋冬の一番下の組だが、雪月花でいくとこいつはおそらく一番上。
「冬の雪ってか……」
状況を正確に把握すると、この目の前にいる女性は特殊部隊のNo.4ということになる。
姉をかばいながら、俺は今から数的不利を克服する必要がある。
さてと思案するまでもなく、結局、俺のこの状況に策などあるわけがない。
きらりと海方向からの閃光。
とっさに姉の頭をアスファルトに押し付ける。
見事なまでに目の下を鋭い何かにえぐられた。頬を生温かい貴重な血液が流れ落ちていく。
「宗像の血液、貴重なんだぞ?」
俺は指先でそれをぬぐうとそっと舐めた。
ドーピングの方法も静音からきいていた。
「つくづく静音のおかげさま」
暗闇の中でもしっかりと現状把握できる目は確保できた。
ドーピングの効果は抜群だ。
「うちのツグミのご挨拶はいかが?」
海の中にある岩の上に小さな人影がある。
視線を右にむけると、腰までまっすぐに伸びた赤褐色の髪が風に巻き上がる。
品の悪い笑みだと思った。その顔には無数の傷がある。
見た目年齢は10歳くらいの少年か。でも、それはあくまでも見た目年齢だ。
「後ろからも来んのかよ!」
錫杖がなるような金属音が背後からして、とっさに結界をはったが、突き出された杖の先見事に破壊され、氷の刃が間髪入れずに飛んでくる。
指先を傷つけようと口にするが、それを邪魔するように右からは光の刃が来る。
「くそう!」
姉は戦闘できる術がない。
どうやって護れば良いんだ。
俺は左手に呼び出した大槍を振りかぶる。
薙ぎ払ってしまえるということは相手がまだ殺す気がないからだ。
そして、神経を逆なでされるほどに、なめられている。
「あんたのお名前は?」
背後にいるクソ真面目そうな青年の髪色は緑灰色。襟足の少し長いショートカットで、瞳の色は組で統一なのか赤銅色だ。
「アオジ」
感情のない声はあまりに無機質。なるほど、こういう輩もいるわけか。
俺はリーダーである魔女の方をしっかりと見据えた。
「降参したとして、生かしてくれる選択肢はあるの?」
わざと声を出さずに、魔女はゆっくりと唇を動かした。
唇の動きは『な』『い』だ。
「なるほど! 交渉不成立みたいだから、殺しあうしかないみたいね」
自嘲気味に笑う。
だけど、春夏秋冬の一番下で良かったと俺は思っているんだ。
夏の組よりはマシだ。
「武甕槌大神!」
やるしかないなら、今、使うぞ。
俺の奥の手を。
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