君となら

紺色橙

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34 約束決行

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 パソコンはシャットダウンされたわけではなく、ただ眩しさのためにモニターの電源を落とされた。下の方で本体のランプが赤く光っているが、体を起こさなければ気にならない。
 ゴロンと転がったベッド。小さく漏れたあくびを一つ。続いて誘発された大きなあくびをもう一つ。
 外は熱帯夜だというのに室内はいつも27度に保たれている。薄い夏掛けを足元からお化けが入ってこないように爪先まで詰めた。汗をかいてしまわないように首元は開け腕を出し、いそいそと隣に入ってきた仁を薄目に見る。
 本当はもっと仕事をしていたいんだろうに、仁はオレが眩しいだろうからとベッドに入るのだ。オレがちゃんと家に帰ればそんなことをさせずに済むのに、甘えている。

 腕が触れないように壁際に張り付く。なのに仁はもっと真ん中においでと言う。オレは美少女アキラよりも体が大きいから、ゲームの中よりもベッドは狭い。触れようとせずとも届く指先が触れてしまうのが、申し訳なくて、ほっとする。

「おやすみ」

 目を閉じたまま呟いた。



***


 山田に連絡を取り、連れてきたのはあの池。美女が出ると噂だがあいにく遭遇できていないあの池である。
 当然山田にも美女が出るらしいよと噂話はしておいた。実際に美女か化け物かは分からないが、何か大物に遭遇する可能性はあるということだ。

「この下に通路がある。ひたすらまっすぐ進めば海岸に出るから、横道は行ってないんだ。それに通路の下にも水槽があって、何が隠されててもおかしくない」
「とりあえず行ってみるしかねーな」

 今度は足を踏み外すのではなく、足元から勢いよく飛び込んだ。続いて後ろに山田が落ちてくる。振り返り一瞬確認して、指先で深い場所を示した。
 山田はすい、とオレを越して行く。大きな体は水の中で自由に動いた。どこに括り付けているのかでかいハンマーを背負っているのに沈んでいかないのだからファンタジーだ。
 水の中は以前見た時と変わらず美しく、魚はオレたちを避けてくれる。濁ってもいないし、見たことのないモンスターも発生していない。状況が変わっていないことは安心材料の一つだ。突然水草が意思をもって絡んできたら困る。刃物は無いし勝てる気がしない。

 一度沈んでいるものだから呼吸の恐怖もなく、前回よりも落ち着き余裕をもって入口にたどり着いた。相変わらずの光のカーテンをくぐれば、酸素がある。

「おおー、ほんとだ」
「オレはここで何も見つけられてない」
「探索しがいがあるな」

 ツインテールではなくなった髪が重たい気がする。結んでいる時よりも水を含んでいるからだろうか。経験上すぐ乾くとはわかっていたが、手で絞る。

「水のスキル石がないかなーってここに来たんだよね。でもボスにも会えてないから」
「スキル石ってものがボス限定だと狩場で喧嘩になるし、多分他にも入手手段があると思うんだよな」
「採掘みたいな」
「そうだな。だとするなら、いっぱいある何かからドロップする可能性がある」
「キバウオって魚のモンスターは殺したけど出なかったな。でも数倒してはいないし……」
「ま、適当に戦うか」



 真っすぐは行かない。横道があればそこへ行き、行き止まりになれば戻る。敵が出れば逃げずに戦い、そのドロップを見守った。
 キバウオとの戦いは経験済みだし、火力が居るものだから随分と楽になっていた。山田がハンマーで殴り、ぐえっとなっているところを燃やす。かなり一方的な戦いじゃなかろうか。それでも耐久力があるから一度に何匹もは相手していられなかったけれど、優しいキバウオたちは集団では襲い掛かってこなかった。

「出ねーな」
「やっぱり水の中かなぁ」

 水槽を覗き込む。水の中では火は効かないだろう。噴火ほどの火力ならまだしも。
 前回見た感じ、水中に鉱石はなかった。火のスキル石と同じように採掘で取れるなら、ここではないどこかになる。それとも何か違うものだろうか。はたまた、ここには存在していないのだろうか。

「スキル石自体は初期に貰えていいと思うんだよね……。でもここじゃないのかな」
「まだあの魚しか叩いてねーし探すしかないだろ」

 でかい魔法を出すのに鍛錬や慣れが必要とされるとしても、その基本となる小さな魔法を生み出すスキル石そのものは最初期に貰えてもいいはず。事実火のスキル石はそうだった。鉱石を地道に叩けば出るというのも、ボスを倒せないソリストに優しい。ということは町の近場で得られておかしくない――と数多のゲームの経験上思う。あの池は王都から近いし、町の人が美女の噂話を知っている。何もないところよりも発見しやすい。だからここで見つかる可能性はかなり高いと思うんだけれど。
 山田の言う通り探してみるしかない。
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