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33 花畑
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売られている食品をよくよく見てみれば、現実と大差はなかった。時折王都の外にいるキノコのようにそれ食っていいのか? って見た目をしているものもあったけれど、現実にもやたら臭かったり可食部がどこなのかわからない物もあるから似たようなものだろう。オレは世界中を旅したことは無いし、世の中にどんな奇天烈なものがあるかを知らない。
だからどうみても安全そうなリンゴや、肉と野菜の挟まったサンドイッチをお店の人に頼んだ。食器や鍋と共に売られていた籠を買って、見るからにピクニックに参りますといった格好で町を出た。
目的地は仁がすでに定めていたようで、馬車に乗って知らない土地へと向かう。最初の町と王都の中間位にあるらしいそこへは、暖かなお日様が導いてくれた。
馬車を降り指さされたのは大きな木。降り口にある看板には、『千日花畑』と書かれていた。
「千日?」
「うん。ここには千日に一度しか咲かない花がある」
なんて観測するのが大変な花なんだ。
「それうっかり踏みつけたりしないよな」
「草花はちょっと踏まれたくらいじゃ平気だよ」
そんなもんだろうか。わざとガシガシ踏みつける気はないけども、そんなレア花を傷めると誰かに責められそうである。
千日に一度の花は置いておいても、あたり一面花だらけ。その隙間を誰が通ったのか道ができていて、はみ出さないようにして歩く。目指すは丘の上の大木。その木陰。
遠くには獣の気配がしたが、花畑はそこら一体が誰かに守られているかのように穏やかだった。
「昔さぁ、こんなとこでSS撮った気がする」
「やったね」
「あれはそれこそゲームだから、花はハート形に配置されてたし、そもそもあの場所自体空の浮島でありえなかったけど」
カップルですよのハートマークを散らしつつ、ハートの島に行ったのだ。そりゃもうピンクまみれの花が埋め尽くすところだった。可愛い格好で撮影してくださいって言わんばかりのところだった。
ここはピンクに偏っているわけではないしハートマークに切り取られてもいないけれど、二人してそこに座ればあの時を思い出させた。画面の中に見下ろしていた光景は、きっと現実ならこうなのだ。
乾いた地面の乾いた芝生。大木の周りだけは少し開けていて、まさにピクニック用に出来ている。
籠の中から買ってきたものを取り出した。
「これリンゴ?」
現実のリンゴと同じ形だけども、疑問を持ちつつ口にした。切るなんてことはしない。丸かじりである。
「どう?」
赤いリンゴはオレがいつも食べているものより少しだけ硬い。シャリ、というよりカリっとしている。
「うまい」
実がしっかりしている感じがする。水分は多くないのかぽたぽた垂れてきたりはしないけれど、味はちゃんとリンゴをしている。こういうリンゴの品種だよと言われると、そうなんだなって思うくらい。ちょっと酸味が強いかな。
「このリンゴでお菓子作りとかできるの? アップルパイ作りますとか、ジャムにしますとか」
「できるよ。まだ手を付けてない部分も多いけど、あそこに売られてた基本的なものは多少手を加えることはできるね」
外でモンスターを狩って捌き食らうことはまだ対応していないんだろう。それをする人が出るのかは分からないけども、食えそうなら何でも食ってみる人はいそうだ。オレは……あの以前戦ったモグラみたいなのを食おうとは思わないけどな。
サンドイッチの肉は牛肉のようで、味付けは何だかスパイシー。色んな香辛料が使われている気がする。これは料理に詳しい人なら再現できるんじゃないだろうか。少し甘みもあるし、お子様でも食べられそう。挟まっていたのも細切りにされたキャベツのようだし、ケバブサンドってこんなんじゃなかったっけ?
「うまいうまい」
「まぁ残念ながらお腹いっぱいにはならないんだけどね」
「そーなん」
両手いっぱいのサンドイッチ。小食な人なら満腹になりそうな量である。
「ここでお腹いっぱいになったら現実で食べなくなっちゃうでしょ」
「そんなダイエット受けそう」
「でもそれで死んだら困る」
「たしかに」
ずっとゲームをしていると、現実を知らせるアラームが鳴る。休憩を取りましょうと促されるのだ。だからここがどんなにリアルだろうと、本当の現実からは乖離しない。もし、ゲームの世界で本当に何でもできて全て同じになっていたら、ここから抜け出せなくなる。現実のベッドで横たわっているだけのオレは水も飲まず飯も食っていないのに、この世界で肉を食いお茶を飲むことで満足してしまったら、餓死してしまう。だから残念ながら警告が鳴る。
「でもうまいもの食ったら満たされるよ」
「そこはね、まぁ。でも物足りないくらいじゃないとね」
少しもったいないけれど、仕方がない。
両手いっぱいのサンドイッチを食べ終えても、確かに腹は満たされなかった。というかそもそも、お腹が空いたという感覚もなかった。でも美味しいものを口にしたのは分かる。お金さえあれば好きなだけ食べられるのならそれでよい気がする。
「あれ……これなんかバフついてる?」
「HP回復とか、MP回復程度なら」
「へー」
「おいしいもの食べたら心は満たされる、という考えでね。あとついでにそれ以上は食べられないよ」
「え、あー……」
もっと食べれそうな気はするけれど、更に食べたい気持ちはなかった。回復効果があるというのなら、ステータスが回復しきっているからそこで制限が掛かったのか。
「無限に食う計画が」
「流血しつつもしくは魔法をぶっぱなしつつ食べ続けるとかかなぁ」
「そこまでして食いたくねぇ」
ファイヤー!! なんていいながら食い続けているのは、見ている分には面白いがな。
手についたパンのかすを掃い、ハンカチで口を拭う。王都から移動してきたものだから遅めの昼食となったがいいだろう。空には雲がゆっくりと流れ、花畑が揺れる。
「ここ敵いないの?」
「いないねぇ」
「なんで?」
「どこもかしこも敵の生息地ばかりじゃなくてもいいかなと思って。現実で世界を旅するように、この世界を見て回ってくれてもいいんだよ」
「ふぅん」
旅行に行ったことがない。これからも行くことはないと思う。でもゲームはオレにとって似たようなものだった。見たことがない風景があって、見たことがない文化があって、意見の違う人々がそこにいる。そのゲームの専門用語なんか、見知らぬ外国の言葉と似ていると思う。
このゲームでこうして穏やかな日の当たる花畑でピクニックなんかしていたら、まさにもうこれは旅行といっていいだろう。いつもとはちょっと違う食べ物を食べて、記念撮影なんかをするのだ。
立ち上がり、少し離れてしゃがみこむ。仁を被写体にして、大木を映す。脳内のカメラで位置を取る。せっかく花畑にいるのだから、低い位置から花を映そう。でも丘の上の大木はここの目印だから入れるべきだと思うし、仁を入れることでその大きさも際立つんじゃなかろうか。
今までのゲームでスクリーンショットを撮っていたように、今この場所でも考える。
仁はちょこまかと動くオレをただ笑ってみていた。
「カメラ欲しいんだけど」
「雑貨屋までどうぞ」
「あんの?」
「ありそうなものは大体あるよ」
あの手鏡のように。
今はないカメラを想定して、仁を見る。穏やかな風はその短い髪を撫で、大木の葉の隙間からはきらきらと光が降っている。暖かなお日様とステータス回復のおかげで眠気でもあるんだろうか、ゆっくり閉じられた瞼が開く。
おいでおいでと手招きされて、乙女らしからぬ足の開きで立ち上がった。
「どうした?」
開かれた手がオレを誘うから、自然とその腕に収まった。押し倒してしまうのはどうかと思って、隣にくっついて座る。
――ああ、キスされる。
仁がえっちの時に何度もキスをしてくれるから、オレでも察せるようになった。
見上げた顔は嬉しそうにオレに降りてくる。外では過激なことをできないとはわかっているけれど、胸が高鳴った。軽い唇の触れ合い、頬を撫でてくる手の温もり。
キスの終わり仁の肩に頭を擦り付ければ、肩から頭を抱き込むようにしてぎゅっと力が込められた。
視界に入る胸を隠すほど長いふわふわの髪の毛は、オレのものではない。
抱きしめられる力を感じているのはオレなのに、その温もりを遮る小花柄のワンピースを着ているのはオレではない。
"私"だから"オレ"じゃない。
仁は誰を抱きしめているんだろう。その嬉しそうな顔でキスをしたのは当然"私"にだろう。オレにとって理想の女の子は、仁にとってもそうなれているんだろうか。だから仁は、ただえっちするだけじゃなくてこうして外でもキスをしてくれたんだろうか。
「オレ可愛い?」
問えば仁は、
「可愛い。とっても可愛い」
そう褒めてくれた。
だからどうみても安全そうなリンゴや、肉と野菜の挟まったサンドイッチをお店の人に頼んだ。食器や鍋と共に売られていた籠を買って、見るからにピクニックに参りますといった格好で町を出た。
目的地は仁がすでに定めていたようで、馬車に乗って知らない土地へと向かう。最初の町と王都の中間位にあるらしいそこへは、暖かなお日様が導いてくれた。
馬車を降り指さされたのは大きな木。降り口にある看板には、『千日花畑』と書かれていた。
「千日?」
「うん。ここには千日に一度しか咲かない花がある」
なんて観測するのが大変な花なんだ。
「それうっかり踏みつけたりしないよな」
「草花はちょっと踏まれたくらいじゃ平気だよ」
そんなもんだろうか。わざとガシガシ踏みつける気はないけども、そんなレア花を傷めると誰かに責められそうである。
千日に一度の花は置いておいても、あたり一面花だらけ。その隙間を誰が通ったのか道ができていて、はみ出さないようにして歩く。目指すは丘の上の大木。その木陰。
遠くには獣の気配がしたが、花畑はそこら一体が誰かに守られているかのように穏やかだった。
「昔さぁ、こんなとこでSS撮った気がする」
「やったね」
「あれはそれこそゲームだから、花はハート形に配置されてたし、そもそもあの場所自体空の浮島でありえなかったけど」
カップルですよのハートマークを散らしつつ、ハートの島に行ったのだ。そりゃもうピンクまみれの花が埋め尽くすところだった。可愛い格好で撮影してくださいって言わんばかりのところだった。
ここはピンクに偏っているわけではないしハートマークに切り取られてもいないけれど、二人してそこに座ればあの時を思い出させた。画面の中に見下ろしていた光景は、きっと現実ならこうなのだ。
乾いた地面の乾いた芝生。大木の周りだけは少し開けていて、まさにピクニック用に出来ている。
籠の中から買ってきたものを取り出した。
「これリンゴ?」
現実のリンゴと同じ形だけども、疑問を持ちつつ口にした。切るなんてことはしない。丸かじりである。
「どう?」
赤いリンゴはオレがいつも食べているものより少しだけ硬い。シャリ、というよりカリっとしている。
「うまい」
実がしっかりしている感じがする。水分は多くないのかぽたぽた垂れてきたりはしないけれど、味はちゃんとリンゴをしている。こういうリンゴの品種だよと言われると、そうなんだなって思うくらい。ちょっと酸味が強いかな。
「このリンゴでお菓子作りとかできるの? アップルパイ作りますとか、ジャムにしますとか」
「できるよ。まだ手を付けてない部分も多いけど、あそこに売られてた基本的なものは多少手を加えることはできるね」
外でモンスターを狩って捌き食らうことはまだ対応していないんだろう。それをする人が出るのかは分からないけども、食えそうなら何でも食ってみる人はいそうだ。オレは……あの以前戦ったモグラみたいなのを食おうとは思わないけどな。
サンドイッチの肉は牛肉のようで、味付けは何だかスパイシー。色んな香辛料が使われている気がする。これは料理に詳しい人なら再現できるんじゃないだろうか。少し甘みもあるし、お子様でも食べられそう。挟まっていたのも細切りにされたキャベツのようだし、ケバブサンドってこんなんじゃなかったっけ?
「うまいうまい」
「まぁ残念ながらお腹いっぱいにはならないんだけどね」
「そーなん」
両手いっぱいのサンドイッチ。小食な人なら満腹になりそうな量である。
「ここでお腹いっぱいになったら現実で食べなくなっちゃうでしょ」
「そんなダイエット受けそう」
「でもそれで死んだら困る」
「たしかに」
ずっとゲームをしていると、現実を知らせるアラームが鳴る。休憩を取りましょうと促されるのだ。だからここがどんなにリアルだろうと、本当の現実からは乖離しない。もし、ゲームの世界で本当に何でもできて全て同じになっていたら、ここから抜け出せなくなる。現実のベッドで横たわっているだけのオレは水も飲まず飯も食っていないのに、この世界で肉を食いお茶を飲むことで満足してしまったら、餓死してしまう。だから残念ながら警告が鳴る。
「でもうまいもの食ったら満たされるよ」
「そこはね、まぁ。でも物足りないくらいじゃないとね」
少しもったいないけれど、仕方がない。
両手いっぱいのサンドイッチを食べ終えても、確かに腹は満たされなかった。というかそもそも、お腹が空いたという感覚もなかった。でも美味しいものを口にしたのは分かる。お金さえあれば好きなだけ食べられるのならそれでよい気がする。
「あれ……これなんかバフついてる?」
「HP回復とか、MP回復程度なら」
「へー」
「おいしいもの食べたら心は満たされる、という考えでね。あとついでにそれ以上は食べられないよ」
「え、あー……」
もっと食べれそうな気はするけれど、更に食べたい気持ちはなかった。回復効果があるというのなら、ステータスが回復しきっているからそこで制限が掛かったのか。
「無限に食う計画が」
「流血しつつもしくは魔法をぶっぱなしつつ食べ続けるとかかなぁ」
「そこまでして食いたくねぇ」
ファイヤー!! なんていいながら食い続けているのは、見ている分には面白いがな。
手についたパンのかすを掃い、ハンカチで口を拭う。王都から移動してきたものだから遅めの昼食となったがいいだろう。空には雲がゆっくりと流れ、花畑が揺れる。
「ここ敵いないの?」
「いないねぇ」
「なんで?」
「どこもかしこも敵の生息地ばかりじゃなくてもいいかなと思って。現実で世界を旅するように、この世界を見て回ってくれてもいいんだよ」
「ふぅん」
旅行に行ったことがない。これからも行くことはないと思う。でもゲームはオレにとって似たようなものだった。見たことがない風景があって、見たことがない文化があって、意見の違う人々がそこにいる。そのゲームの専門用語なんか、見知らぬ外国の言葉と似ていると思う。
このゲームでこうして穏やかな日の当たる花畑でピクニックなんかしていたら、まさにもうこれは旅行といっていいだろう。いつもとはちょっと違う食べ物を食べて、記念撮影なんかをするのだ。
立ち上がり、少し離れてしゃがみこむ。仁を被写体にして、大木を映す。脳内のカメラで位置を取る。せっかく花畑にいるのだから、低い位置から花を映そう。でも丘の上の大木はここの目印だから入れるべきだと思うし、仁を入れることでその大きさも際立つんじゃなかろうか。
今までのゲームでスクリーンショットを撮っていたように、今この場所でも考える。
仁はちょこまかと動くオレをただ笑ってみていた。
「カメラ欲しいんだけど」
「雑貨屋までどうぞ」
「あんの?」
「ありそうなものは大体あるよ」
あの手鏡のように。
今はないカメラを想定して、仁を見る。穏やかな風はその短い髪を撫で、大木の葉の隙間からはきらきらと光が降っている。暖かなお日様とステータス回復のおかげで眠気でもあるんだろうか、ゆっくり閉じられた瞼が開く。
おいでおいでと手招きされて、乙女らしからぬ足の開きで立ち上がった。
「どうした?」
開かれた手がオレを誘うから、自然とその腕に収まった。押し倒してしまうのはどうかと思って、隣にくっついて座る。
――ああ、キスされる。
仁がえっちの時に何度もキスをしてくれるから、オレでも察せるようになった。
見上げた顔は嬉しそうにオレに降りてくる。外では過激なことをできないとはわかっているけれど、胸が高鳴った。軽い唇の触れ合い、頬を撫でてくる手の温もり。
キスの終わり仁の肩に頭を擦り付ければ、肩から頭を抱き込むようにしてぎゅっと力が込められた。
視界に入る胸を隠すほど長いふわふわの髪の毛は、オレのものではない。
抱きしめられる力を感じているのはオレなのに、その温もりを遮る小花柄のワンピースを着ているのはオレではない。
"私"だから"オレ"じゃない。
仁は誰を抱きしめているんだろう。その嬉しそうな顔でキスをしたのは当然"私"にだろう。オレにとって理想の女の子は、仁にとってもそうなれているんだろうか。だから仁は、ただえっちするだけじゃなくてこうして外でもキスをしてくれたんだろうか。
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