君となら

紺色橙

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27 いつもと違うの*

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 もくもくもく、湯気が立つ。シャワーの温度を下げて、設定は冷たい手前の37度。しゃがみこんで掴まって、優しい指を受け入れる。

 ゲーム内に排泄はない。ダンジョンに潜りつつトイレに行っている勇者をオレは見たことがない。このゲームSSRに接続する際には食事や睡眠を定期的に行いましょうって忠告が出るけれど、トイレについては触れられていない。ゲーム内にもないしね。夢でトイレに行ったらお漏らししたんじゃないかって不安になりながら目覚めるように、この仮想現実で排泄するとリアルの体が反応するんだと思う。
 だから、アナルセックスするにしてもお尻を清潔にって準備は必要ないはずなんだけど、まるでシャワーでじゃぶじゃぶ洗うように仁はオレの穴を広げる。

 水が入ってくるのは嫌な感じ。熱くないけど、反射でつい、きゅっと締める。そしたらキスが降ってくる。鼻先に落とされたキスに顔を上げれば唇が合わさる。引けそうになる腰を戻されるから、崩れ落ちないようにその肩にしがみつく。美少女の爪は綺麗に尖っているけれど、それで仁を傷つけることはない。だからぎゅっと力を込める。

「力抜いてね」
「どうせ怪我しないだろ?」
「うん。でもちゃんとほぐしてからのほうがいいでしょ」

 そんなもんだろうか。
 キスしてると早くしたいなーってなる。体の奥を刺激してくれる指は、いつもと違うところにいるからもどかしい。
 いつもと違うことをするから、オレを怖がらせないようにゆっくり順番通りなんだろう。でもえっちすることにすっかりこの体は慣れていて、すぐに最後の気持ちよさを求めている。

 上に、下に。指はくるくると円を描くようにしている。
 仁の肩に顎を乗せ、はぁ、と深く息を吐いた。
 吸いつくようにキスされる。額に、頬に、肩に、仁を掴むその腕に。熱を分け与えられているみたい。体の中がうずうずしている。

「なー、もうよくない?」

 もうベッドに行ってもいいんじゃない?

「うーん」

 ぐにぐにと仁はしつこくオレの具合を確かめている。
 ここでは怪我しないじゃないか、痛みはないじゃないか。だからさっさと、準備万端にせず突っ込んだってかまわないのに。
 それとも、この体のことを調べているんだろうか。

 ずっと仁はオレの体を……というかお尻をまさぐっているものだから、そりゃあ力だって抜けていく。
 いつになったらするのかな。それともやっぱりこっちでする気はほんとはなかったのかな。その割にはずっといじってるけど。
 その首に抱き着いて、全力でもたれかかっている。
 シャワーは緩やかで、仁はあったかい。濡れた肩は水気を無くしていた。

「寝ないでー」
「ねてない」

 あったかいから、ちょっと意識がなくなりかけてた。
 パチッと覚めた目。引かれる手。ずっと同じ体勢でいたから体が軋む。持ち上げられて立ち上がる。
 起きてるよといったのに、お風呂を上がればそのまま手を繋がれ連れていかれた。転がったベッドはお眠りなさいと誘ってくれるようだ。

「後ろからするよ」

 うんうん、と二度頷いた。

「この体勢初めてだ」

 お尻を高く上げて、さぁどうぞって差し出すみたい。
 少しの間があってから腰を支えられ、仁が中に入ってくる。この入ってくる感覚には馴染みがある。オレを広げながら入ってくるもの。視界の端で毛先が揺れた。

「あー、いいかも」

 この体勢は結構いいかも。仁の姿は見えないけれど、ここにはあいつしかいない大丈夫。それよりなんだかこの体勢は、無理やりされてるっぽくてちょっといいかも。レイプ願望はないけれど、か弱い女の子を設定したものだから、男が優位ってのは悪くない。逆に力強い女の子を設定してたなら絶対蹴とばして乗っかってた。男に対して馬乗りになって見下ろす強さに惚れるだろ?

 体の気持ちよさよりも、そんな精神的な興奮が勝っている。――と、思っていたんだけど。

「あ、あっ、ちょいまって、それ、」

 ちんこではないけれど、女の子にだって同じようなものはある。同じように敏感で、隠されているぶん男よりも痛みを感じやすいだろう物。リアルで触らせてもらったことはないけれど、この体にはついているクリトリス。
 押されるわけじゃない。突かれるわけでもない。ほんのちょっとかするように触れられるだけで体が跳ねた。

「それだめー」
「痛い?」
「痛くはないけど、ダメだと思います」

 痛さはない。この部屋でするえっちに痛みはない。この行為自体に痛みが設定されていないんだろう。でも怖い。乱暴にすべきではないと美少女の体が訴えている。ああ、ちんこだったなら、ぎゅっと握るくらいの乱暴さは持てるのに。

「じゃあこっちは?」

 下半身を離れた手は脇の下から胸へと移り、体にお伺いを立てるようにしている。

「そっちのがいい」
「これでも?」
「平気だもん」

 うにっと潰される乳首。でも全然痛くない。でも気持ちよくも無いな? わざとやってるってわかる動きだからだろうな。

「男にも乳首はあるよね」
「ん? うん」

 手は優しく胸を撫でてくれる。さすってこすって、ちょんと指先で弾かれる。

「ぁ……」

 こういうのは好き。優しくて気持ちがいい。優しいから、もう少し乱暴にしてもいいよって自分から言いたくなる感じ。
 少しの間仁はそうして控えめな胸をいじってくれた。それから違和感の無くなった後ろが再び進む。ゆっくり入れて出してと繰り返される。
 頭の中がほわほわ何かで満ちている。夢見心地って今の状況で言うのは変だろうか。でもそんな感じ。気持ちよくて、嬉しい。

「あん、っ、ん」

 ぐっぐと奥まで入れられれば体が動く。立てた腕で支えているのがめんどうで、シーツの海に突っ伏した。
 深く深く、息を吐く――。




 いつもと違ったけれど、緩やかな気持ちよさで終われた。いじられていれば中まで欲しいなって思うのは同じで、散々焦らされたものだから入れてもらえた時にはやっぱり充足感があった。

「あ、そういや明日家帰る」
「え」

 えっちした後にベッドの上でごろごろ。現実での暑さや寒さはこの世界では関係ない。現実でもエアコンしていればあんまり関係ないけども。
 
「なんで?」
「配信してー……配信する」

 ニートがやることは特になかった。

「うちで出来るよ。マイクあるし、使ってる配信ソフトはフリーソフトのでしょ? 入れたらいい」
「えー……まぁずっとこっちいるしたまには帰るよ」

 親から来るメッセージはいつも似たようなものばかり。だから返信も同じようなものばかり。
 何度同じやり取りをしても何度も同じメッセージが来るんだから心配されているのは分かる。課金しに深夜2時のコンビニに行くしかしなかった息子が突然外に出てしばらく帰ってこなかったりするんだから、軟禁されているんじゃないかと親が不安になるのもおかしくはないだろう。現実ではめちゃめちゃ快適に遊んで気持ちいいことしているだけなんだけど――。気持ちいいことに関しては言えるわけもない。

「じゃあ、帰る時間教えて。俺も明日出てるしさ」
「わかった」

 配信をして、お母さんに会って、少し話して帰ろう。作った料理の写真でも撮っておけばよかった。味付けは任せてしまっているけど、オレが牛肉を切ったんだって、ちゃんと美味しいのを食べてるよって証明書になるもんな。
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