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26 肉
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夕ご飯は魚だった。
「オレが魚殺してきたから?」
「今日は魚と戦ってたの? あんまり見てなかった。ああ、でもあそこならそうか」
仁からはオレの居場所がわかる。ゲームの本当の神様だからそりゃそうだ。どこにだって降り立てるだろう。
「焼くだけでおかずになるからってだけだよ」
焼くだけで。ゲームでも通用しそうだ。でもそこらへんでファイヤー! ってやるわけにもいかないか。
そういえば、ゲーム内の仁の部屋は同じようにキッチンがある。あそこならば料理することができるかもしれない。数多のゲーム経験上料理する道具があればキャンプのようにどこででもできそうだけど、その道具そのものがキッチンにある可能性は高い。今度見よう。あのキバウオの肉だっていつ腐るとも知れないし。
「あと肉じゃが作りたいなと思うんだけど、やる?」
「や、る」
何をといえば、肉を切ることだ。
「滑るから切らないようにね」
優しい未来予告を受けつつ、トレイに入った牛肉に立ち向かうことにした。
肉じゃがには豚肉だとか牛肉だとかそんな戦争はどうでもいいけれど、どちらにしろ肉には脂というものがある。オレはロッドで殴る時、あのぐにっとした感触が嫌だと思っていた。でもこいつはぐにっとしているだけでなく、脂で躱そうとしてくるのだ。
右手に持ったセラミックの包丁を肉の端から入れていく。もともとばら肉になっているけれど一口サイズにということなので、それを目指す。
左手はどうにも居心地が悪い。埋まるし、滑るし、反発される。ぎゅっと抑えることもできず、でも抑えていないと包丁は途中で止まってしまう。それに肉が張り付いたまな板も一緒に動く。
時間をかけて、猫の手を意識して、ついでに隣の仁の視線も感じつつ肉を相手にした。
野菜はとうに切られ、炒められている。玉ねぎが焼けて茶色くなっていく匂いがする。
包丁を前に押したら肉が一緒についてくる。ぎこぎこ、まるでのこぎりみたい。包丁の切れ味はそう悪くはないはずだから、明らかにオレの扱いが悪い。
どうにか切り終わったころには腰が痛くなっていた。無意識に前のめりで背が丸まっていたんだと思う。
左手についた肉の脂はぬるぬるとしているしそう簡単に取れそうにもない。ゲーム内では獣モンスターの脂は意識していなかったけれど、刃物で切り付けそこをロッドで殴った際に脂がつくとしたら、ロッドごと燃やして松明ができそうだ。
使ったまな板と包丁を洗剤をつけて洗い、次に石鹸でよくよく手を洗い、石鹸臭い手をまた洗う。
まな板の表面を触りぬるぬるしたのがないか確認していれば、隣からはじゅうじゅうといい音がした。
「肉切るの遅すぎて野菜ふにゃふにゃじゃない?」
「俺が柔らかい野菜が好きだからいいの。人参とか玉ねぎなんか特にね」
「なんか、子供っぽい」
「そうかも。嫌いだったからねー、食べられるようになったこと褒めて」
「えらい。いい子」
適当な褒に仁が笑う。オレは好き嫌いそんなにないけど、生っぽい人参はあんまりかな。
焼かれた肉と野菜。調味料を足して出来上がり。
魚はそれだけでおかずになるからと仁は言ったのに、結局肉じゃがが追加された。おそらく、オレが肉をどうにかしたいと言っていたからだと思う。肉がズタボロになって原形を留めないとか、見事に落として食えなくするとかきっと想定されていた。
とにもかくにもこれから数を練習するしかない。――ゲームのためにリアルで料理を練習するってのも、なんか変かな? プロゲーマーは筋トレするっていうしこんなもんか。
海岸で目覚めれば、満天の星空に出迎えられた。現実よりも時間の進みは早く、町も遠いから人の気配もない。人の生み出す光がないから、空は澄み渡り煌めいている。昼間の爽やかな風もなく、波の音も静かである。
「あなたに会いたい」
静かな空間に小さな声で漏らせば、視界が変わった。
ぎゅっと抱きしめてもらって、安定した着地。満天の星空は消え、ファンタジー世界からしたらむしろファンタジーなリアル仁の部屋が現れる。
「さっきまで海岸にいたんだけど、砂のついた足で上がり込んでいいのかこれ」
「お風呂で汚れを綺麗にしてください」
言われるがままに風呂に向かう。
お風呂に入って洗い流せば、汚れは簡単に落ちていく。現実もこっそりステータスがあって、これをしたら一発で解消ってものがあれば簡単なのになぁ。でも世の中そうはいかない。
当然のように一緒に入っている仁にシャワーを渡す。頭から浴びるお湯、濡れた髪がかきあげられる。その体に流れる水滴を見た。物理演算はゲームによく使われているけれど、不自然さがないんだからすごいよなぁと感心する。肌の上を水が流れて終わりではないのだ。湿っているのも表現されている。うーん。すごい。
ぺたりと触れば体温がある。感触がある。突けば弾力があって、手のひらで触れれば湿っているせいで張り付くようだ。
「どうかした?」
「よく出来てるなぁって思って」
「そうだね」
仁の手がオレの肩を撫でる。細い体の細い肩は骨の形をはっきりさせている。そのまま手は体を撫でて下りていく。肩に繋がる鎖骨の下のへこみ、小さく膨らんだ胸、男よりは大きな乳首。
弱い所を突かれて、へへ、と笑い声が漏れた。
「していい?」
「いいよー」
何をなんて、今更。この部屋ですることは談話だけではない。
「いつもと違うことしてもいい?」
「いいよ。何すんの」
「こっちでするの」
抱きしめるようにくっついてきた仁の手がお尻を触る。丸く撫でてから割れ目に沿って指先が降りた。
アブノーマル、と言っていいんだろうか。こいつにはそういう趣味があったのか。
「うん。いいよ」
AVでもアナルセックスを探して見たことはないけれど、やることはたいして変わらないだろう。それに仁がすることは気持ちがいいことだから大丈夫。
もし首絞めていい? なんて聞かれてたらさすがに断っていたけれど。いや、死に戻れる世界なんだからチャレンジするのもありなのか? ……そういうチャレンジは、また今度にしておこう。
「オレが魚殺してきたから?」
「今日は魚と戦ってたの? あんまり見てなかった。ああ、でもあそこならそうか」
仁からはオレの居場所がわかる。ゲームの本当の神様だからそりゃそうだ。どこにだって降り立てるだろう。
「焼くだけでおかずになるからってだけだよ」
焼くだけで。ゲームでも通用しそうだ。でもそこらへんでファイヤー! ってやるわけにもいかないか。
そういえば、ゲーム内の仁の部屋は同じようにキッチンがある。あそこならば料理することができるかもしれない。数多のゲーム経験上料理する道具があればキャンプのようにどこででもできそうだけど、その道具そのものがキッチンにある可能性は高い。今度見よう。あのキバウオの肉だっていつ腐るとも知れないし。
「あと肉じゃが作りたいなと思うんだけど、やる?」
「や、る」
何をといえば、肉を切ることだ。
「滑るから切らないようにね」
優しい未来予告を受けつつ、トレイに入った牛肉に立ち向かうことにした。
肉じゃがには豚肉だとか牛肉だとかそんな戦争はどうでもいいけれど、どちらにしろ肉には脂というものがある。オレはロッドで殴る時、あのぐにっとした感触が嫌だと思っていた。でもこいつはぐにっとしているだけでなく、脂で躱そうとしてくるのだ。
右手に持ったセラミックの包丁を肉の端から入れていく。もともとばら肉になっているけれど一口サイズにということなので、それを目指す。
左手はどうにも居心地が悪い。埋まるし、滑るし、反発される。ぎゅっと抑えることもできず、でも抑えていないと包丁は途中で止まってしまう。それに肉が張り付いたまな板も一緒に動く。
時間をかけて、猫の手を意識して、ついでに隣の仁の視線も感じつつ肉を相手にした。
野菜はとうに切られ、炒められている。玉ねぎが焼けて茶色くなっていく匂いがする。
包丁を前に押したら肉が一緒についてくる。ぎこぎこ、まるでのこぎりみたい。包丁の切れ味はそう悪くはないはずだから、明らかにオレの扱いが悪い。
どうにか切り終わったころには腰が痛くなっていた。無意識に前のめりで背が丸まっていたんだと思う。
左手についた肉の脂はぬるぬるとしているしそう簡単に取れそうにもない。ゲーム内では獣モンスターの脂は意識していなかったけれど、刃物で切り付けそこをロッドで殴った際に脂がつくとしたら、ロッドごと燃やして松明ができそうだ。
使ったまな板と包丁を洗剤をつけて洗い、次に石鹸でよくよく手を洗い、石鹸臭い手をまた洗う。
まな板の表面を触りぬるぬるしたのがないか確認していれば、隣からはじゅうじゅうといい音がした。
「肉切るの遅すぎて野菜ふにゃふにゃじゃない?」
「俺が柔らかい野菜が好きだからいいの。人参とか玉ねぎなんか特にね」
「なんか、子供っぽい」
「そうかも。嫌いだったからねー、食べられるようになったこと褒めて」
「えらい。いい子」
適当な褒に仁が笑う。オレは好き嫌いそんなにないけど、生っぽい人参はあんまりかな。
焼かれた肉と野菜。調味料を足して出来上がり。
魚はそれだけでおかずになるからと仁は言ったのに、結局肉じゃがが追加された。おそらく、オレが肉をどうにかしたいと言っていたからだと思う。肉がズタボロになって原形を留めないとか、見事に落として食えなくするとかきっと想定されていた。
とにもかくにもこれから数を練習するしかない。――ゲームのためにリアルで料理を練習するってのも、なんか変かな? プロゲーマーは筋トレするっていうしこんなもんか。
海岸で目覚めれば、満天の星空に出迎えられた。現実よりも時間の進みは早く、町も遠いから人の気配もない。人の生み出す光がないから、空は澄み渡り煌めいている。昼間の爽やかな風もなく、波の音も静かである。
「あなたに会いたい」
静かな空間に小さな声で漏らせば、視界が変わった。
ぎゅっと抱きしめてもらって、安定した着地。満天の星空は消え、ファンタジー世界からしたらむしろファンタジーなリアル仁の部屋が現れる。
「さっきまで海岸にいたんだけど、砂のついた足で上がり込んでいいのかこれ」
「お風呂で汚れを綺麗にしてください」
言われるがままに風呂に向かう。
お風呂に入って洗い流せば、汚れは簡単に落ちていく。現実もこっそりステータスがあって、これをしたら一発で解消ってものがあれば簡単なのになぁ。でも世の中そうはいかない。
当然のように一緒に入っている仁にシャワーを渡す。頭から浴びるお湯、濡れた髪がかきあげられる。その体に流れる水滴を見た。物理演算はゲームによく使われているけれど、不自然さがないんだからすごいよなぁと感心する。肌の上を水が流れて終わりではないのだ。湿っているのも表現されている。うーん。すごい。
ぺたりと触れば体温がある。感触がある。突けば弾力があって、手のひらで触れれば湿っているせいで張り付くようだ。
「どうかした?」
「よく出来てるなぁって思って」
「そうだね」
仁の手がオレの肩を撫でる。細い体の細い肩は骨の形をはっきりさせている。そのまま手は体を撫でて下りていく。肩に繋がる鎖骨の下のへこみ、小さく膨らんだ胸、男よりは大きな乳首。
弱い所を突かれて、へへ、と笑い声が漏れた。
「していい?」
「いいよー」
何をなんて、今更。この部屋ですることは談話だけではない。
「いつもと違うことしてもいい?」
「いいよ。何すんの」
「こっちでするの」
抱きしめるようにくっついてきた仁の手がお尻を触る。丸く撫でてから割れ目に沿って指先が降りた。
アブノーマル、と言っていいんだろうか。こいつにはそういう趣味があったのか。
「うん。いいよ」
AVでもアナルセックスを探して見たことはないけれど、やることはたいして変わらないだろう。それに仁がすることは気持ちがいいことだから大丈夫。
もし首絞めていい? なんて聞かれてたらさすがに断っていたけれど。いや、死に戻れる世界なんだからチャレンジするのもありなのか? ……そういうチャレンジは、また今度にしておこう。
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