君となら

紺色橙

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 山田が言っていた通り、生産職をもうすぐ入れるのだという。

「全部手作りなんかしないよ。家のものだって元データを取り込んで手を加えているだけだし、料理なんかは組み合わせを自動で作らせてるんだ」
「自動で?」
「うん。人参と豚肉に火を通す、と考えて、それが炒め物になるかスープになるか自動生成される。よほどありえないだろうってものは人間が弾く」
「無限の組み合わせをAIにやらせてるんだ?」
「そう。地形もだし、スキルもだよ。例えば火の魔法をどのように使うのか」
「火の魔法を……」

 ファイアボールは玉みたいなやつを飛ばしている。あとは話していた通りメテオなんかは降ってくる。どこぞのゲームでは壁みたいにしてるのもあるし、玉ではなく弓矢として飛ばしているのもあるな。
 今想像できるのだから、火の鳥なんかも作れるのかもしれない。

「設定内のことだけど、プレイヤーは"生み出す"みたいなことができるのか」

 山田はスキルを得たと言っていた。あれもきっとぶんぶん振り回しているうちにだろう。走り続ければ速く疲れなくなるように、武器を振り回し続けていればその扱いに慣れていく。もっとこうやって使えばと考えてその形を作っているうちに、開発者が想定していたものとかちりとはまる。

「オレ想像力ないからなぁ。カッコイイ魔法出せるかな」
「自分に使い勝手のいいスタイルっていうのはできるんじゃないかな。どんなゲームでもやれるけどやらないことってあるし」

 それは、ある。そう考えれば理解ができる。魔法にしたって火力のある火より命中率の高い氷が好きだとか、そんな単純な話を始めとするならわかりやすい。
 モグラの爆弾に着火させるという戦い方では火は必須だが、洞窟内でばんばんでかい火炎魔法を打ちたくはない。となるとオレの目下の目標は、違う魔法探しだ。

「できることは多いと思うけど、枝葉が広がった先にあるものにたどり着くには、順序通りでないといけない」
「ふーん?」
「小麦粉焼いただけではシュークリームにならないし、剣を安定して持てもしないのに風圧でかまいたちみたいなことは出来ないってこと」

 風圧でってやつは漫画やゲームで見るけど、基本を通らなければならないということだ。オレは山田のハンマーを持ったこともないし仁の双剣でウサギを突いたこともない。双剣で五月雨のように攻撃するならまず『突く』から始めないと。

 ああ、いいな。無限に近い有限の中であれこれ考えて試していくのは楽しい。協力してほしいと言われれば、24時間付き合うことも厭わない。


***


 自動生成が多数を占めるとはいっても、それを管理しているのは人間だ。最終的には絶対に開発者の目を通ってくる。一人ではなく何人もの目。仁は当然ながらそのうちの一人であり、新しく『生産』に関わることを作りこむ今は忙しそうだった。

 一人でSSRの世界に入り、学んだばかりの魔法を振り回す。遠距離からぶつけて、近寄ってきたやつを盾で防いでロッドで殴る。魔法のクールタイムCTがあるとは思えないが、オレの意識の中では勝手にCTが発生している。戦い慣れしたら連発できるかもしれないが、敵がこちらへヘイトを向けることを意識して次の行動に移ることが今は優先だった。
 やられたくないのだ。痛いのは嫌だし、怖いのも勘弁。

 ゲームで銃を撃つことも、現実でボールを投げることも何度もしてきた。だから玉が飛んでいく様は想像ができるし、その通りに火球が敵めがけてオレから発射されようと何ら不自然さはなかった。だけどもこれが、
――火縄で敵を拘束できないかな――
だとか
――地雷のように設置型に出来ないもんか――
となると全く発動できなかった。
 仁の話で行けば、何らかの引っ掛かりがあればスキルを取得できると思う。でもオレの想像しているものは一足飛びになっているから階段が足りていない。火縄で拘束というのなら火なんて不定形のものを縄状に編まないといけないし、地雷だって凄惨さを訴える動画は見たことあれど仕組みを知らない。魔法陣を描いて踏ませれば……とファンタジーなことを考えても、魔法陣を描いたことは無いしその後の火の沸きあがり方もいまいち掴めなかった。

 細かな動作を行うにはまず、火を操り見慣れるところから始めないといけない。
 でも火は熱いものだ。と思っているから、なかなかこねくり回す気にもなれなかった。

「うーん」

 火にためらいがあるものだから、どうにか違うものを得られないかと池に来た。岩場に腰掛け足をぴちゃびちゃと浸す。

「女神様、スキル石くれませんかー」

 この池には美しい女が出るという。町の人が言っていた。
 そう、女神だとは一言も言われなかったのだ。となると多分出るのは幽霊か何かなんだろうけど、そう考えると光の反射する水面も深い緑の木々もその木漏れ日も足元に咲く小さな花も、美しいものというより獲物をおびき寄せる罠のように思えてくるから女神とした。女神なら住処が綺麗でもおかしくない。
 ぴちゅぴちゅ鳴く鳥の声は木霊のように響き、ぽっかり空いた池は波打つこともなく静かだ。

 水に触っていれば水のスキルが得られないか? そんな単純思考で水に足を浸し、掬い、蹴とばし、葉を水面に浮かべる。
 水道をひねれば水は一直線に、棒のように落ちる。勢いを弱めればぽちゃぽちゃと粒になる。それを眺め観察するのは安全なもので、火よりだいぶマシだろう。

 覗き込めば魚が見える。ここでは釣りができるのかもしれない。釣りをする場合、餌は何になるのだろう。幼虫とかは、うーん、苦手だ。
 そもそも、おそらく幽霊が出ると思われるところで釣りする気になるだろうか。だってその場合魚たちの栄養分って……。いや、きっとそんな設定は無いだろう。無いに違いない。ゲームだから絶対ない。

 ていっ、と蹴った水が大きく跳ねる。広がって、弧を描いて、光を受けて、落ちていく。
 この世界はどこもかしこも綺麗にできている。まだまだ世界は広いのだろうが、町を少し出ただけで――いや、町中でも通りを一本入っただけでまるで絵画のような風景が見られた。明るい屋根や外壁のせいだろうか。刺繍の施された女性たちの服のせいだろうか。

 この美しい世界で美しい女といわれているんだから、やっぱり女神でよいのではないだろうか。幽霊だとしても見てみたいな。この美少女アキラより美しいのならば、今後の参考にしたいものだ。誰もが認める絶世の美女を作り、リリース時に使いたい。
 そんな微妙な疚しさを持ちつつ冷えてきた足を上げ、細い足にこれまた小さな靴を履く。白いひらひらした衣装に合った白い靴。まるで簡易的なウェディングドレスのようだと思う。

 暫定女神の反応が一向にないものだから、そろそろ違うことをするかと座っていた岩場に立ちあがった時だった。
 現実では手に取ったこともないヒールだからといってゲーム内では別物で、このせいで転ぶことは無いと思っていたのに見事にこけた。いや、スニーカーだったとしてもこけるときは同じだったかもしれない。

 あ、と思った時には世界は宙返り。どぷんと包まれるように水に沈んでいく。

 とっさに閉じた目。塞いだ口。とにかく水から上がらなければと上下を確かめるためにゆっくりと目を開ければ、まるで竜宮城のように極彩色が広がっていた。
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