君となら

紺色橙

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 仁がいなくても一人ゲームを続け、そのうちログアウトの存在すら忘れそうになった。

「ご飯何にする? もう寝る?」

 現実に戻れば仁は簡単にそんなことを言う。だからオレもだんだんとこの家にいることが当たり前になって、テストプレイをしに来るたびに家に帰らなくなっていった。

 他にも変わったことがある。
 オレは美少女アキラでいることに慣れてしまった。もう少し詳しく言うならば、女の子として仁とえっちすることに慣れてしまった。あまりにも慣れてしまったものだから、現実に帰っても戻ってきたことを理解できず美少女アキラのようにして仁に接してしまうときがある。
 隣で寝ていると現実とゲームの区別がつかず、同じようにすり寄ってしまう。仁の腕を抱きしめ、そこで自分に胸がないことに気付く。押し付けられるはずのふくらみは無く、今はゲームじゃないんだと慌ててその腕を離した。
 仁はいつもそれを「そのまましてくれてもいいのに」と冗談めかして言った。

 日を追うごとに現実とゲームの差がなくなっていく。仁の部屋も仁の対応も変わらないから、仕方ない。



 今日は昼に起きてみれば、珍しく仁が出かけるという。
「ゲームしてていいよ。いつ帰るかはわからないから、ほどほどにね」と忠告されつつ仁を送り出し、当たり前のようにログインした。オレ以外誰もいないゲームの世界で、旅を続ける。

 武器も防具も少しずつ更新していった。世間話のように街人に話しかけられクエストをこなし、行動範囲が広がっていく。地図はだんだん明るくなり、王都から離れたところへ向かうため馬車に乗ることも増えた。

 ガタガタ道を走りつつ外を眺める。
 どこまでも続いていそうな世界は現実と変わらない鮮やかさを持っている。森の木々から動物が顔を出し、時にはモンスターも顔を出す。
 そろそろ次の町にいく頃かもしれない。馬車での移動が長くなり、そんなことを考える。これからいくダンジョン近くの山を越えれば、うわさに聞いた町があるだろう。体力が残っていて行けそうならそのまま行ってしまおうか。

 小さなキャンプ地のようなところで降りた。ほかにも商人のような男や冒険者のような男が降りていた。話はしなかったがNPCだろう。馬車はそのまま次へと進んでいく。
 他の人についていくわけでもなく、キャンプ地を離れダンジョンらしきものを探した。
 大体こういうものはわかりやすくあるものだ。特にこれはゲームなのだし、コチラって立て看板があってもおかしくない。

 ふらふら森の中を歩く。木の形をしたモンスターの枝を避け、どうしようもなさそうなら戦った。
 今のところ使い道は無いが特徴のある草木はよく見て頭に入れ、後ほどクエストで取って来いと言われたときに困らないようにしておく。もしかしたら生産職が実装されたときにも役立つかもしれない。
 今はテストプレイだと、データは消されるのだとわかってはいるが一応やってしまうのはゲーマーゆえだろうか。

 はっきりとした道はないが、木々がなんとなく開けている方へ進んでいけば柵が見えた。朽ちた木の柵がぽつぽつと連なり、その通りに行けばダンジョンの入り口が現れた。
 岩山に開いた穴。打ち付けられた杭にぶら下がった看板の文字はかすれているが、『注意』と書かれているのは読めた。何とかの洞窟と名称もあるがよく読めない。

 敵を寄せやすいランタンではなく松明を手に中に入った。
 少しじっとりしているような洞窟内。何が出るかわからず慎重に歩く。仁と二人歩いた白竜への道のように、松明などなくても少しは見えるんだろう。ただここには壁が発光しているだとかは無い。
 足元の土は湿り、明確に自分の足跡を残している。これなら迷って出られなくなることはないだろう。

 右手に松明、左手に盾。聞くところによるとぶら下げられるランタンも売っているらしいが、少し値が張るというのでまだ買えてはいない。両手に武器を持つオレとしては、それを買えた方がいいだろう。でもランタンはどのみち敵を寄せやすいというからどうだろうか。

 ギザ耳ウサギ以降、昆虫やらきのこやらおばけの木やら、叩きやすいものばかり叩いてきた。獣型に遭遇することは当然あったが、メインで攻撃するのは仁だった。あいつの言う理由としてはロッドより刃物のほうが攻撃が通りやすいとのことだが、あれは多分オレを気遣ってのことだと思う。だってそんな、初期選択武器で知らされていない大きな特性なんか付けないだろう。最初から獣には剣って言われていたならまだしも。

 二人で狩りをする分には構わなかった。でもオレはメイン盾をしているわけでもないから、そんなに防御性能もない。足を引っ張ることになるのは目に見えていた。二人でゲームをするのは何より楽しいけれど、こうして今回仁がいない時間ができたというのもある種都合がよかった。

 自分の身くらい自分で守れなければ。
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