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13 大蜘蛛の爪
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高く伸びる木の枝ほどの高さの背、毛の生えた8本の足、5つの赤い目。蜘蛛の親分は初めてのボス戦だ。
「うぎゃ」
振りかぶった蜘蛛の足が地面に突き刺さる。後ろに飛びのき自分を守るように小さな盾を構えた。地面には穴が開き、これ一撃でも耐えられるのか? と自分の身とゲームバランスの心配をする。
赤い目はこちらを見ている。
「ガード」
ぎゅっと握り込んだ盾。初心者装備のままだが、こいつだって平原から続く森に住まうもの。まだまだ低レベル帯だ。
がん、と衝撃で手が痺れる気がした。毛の生えた足の先端に光る爪が盾に当たる。右手の反応が遅れ、振ったロッドは掠るだけ。行き過ぎようとする腕を留め、引き戻す。
心底盾持ちで良かったと思いながら、もう一度同じ動作をしてくるのを待つ。
蜘蛛は前右足を上げ、そのままオレ目がけて垂直に振り下ろす。きっと避けることはたやすいのだろうが、今は受ける。
左手に構えた盾に食らう衝撃、全身が震え、足が地面に深く痕をつける。
ひゅっ、と右下から振ったロッド。
ヒット。
「仁!」
ひるんだタイミングで蜘蛛の背後から仁が攻撃をする。白竜の祠にいたときに持っていた細いナイフは、双剣だったようだ。
現実ではスタントマンでも補正を掛けないと難しいんじゃないかと思うその動き。舞うように、線を描くように切りつける。
ヘイトが移った。
のっそりと後ろを向こうとする蜘蛛の尻を、今度はオレが殴る番。
「蜘蛛の爪で少しいい武器が作れるよ」
仁に教えられ、素材を取りに平原を進んだ。道中意味もなく野良土偶を叩き、裏でレベルアップしているのかクリティカル率が上がるのを体感した。
オレは相変わらず不細工なギザ耳ウサギに戸惑ったが、仁は何も感じないようだった。
「なんかさぁ、嫌じゃない? その、ぐにっとした感触」
「鶏肉と同じもんだと思うよ」
「仁って料理とかすんだっけ。生肉捌くのと同じ?」
「そんな感じ」
料理の手伝いすらしていないオレは、生肉を触ったことが無い。毛皮を剥げというわけではなく、そこらで売っているバラ肉すら触ったことが無かった。
母親の料理の手伝いでもしてみようか。そんなことが頭に浮かぶ。
「虫は平気?」
「好んじゃいないけど、平気」
それなら大丈夫と仁は言っていたけれど、現れたボスのサイズは圧倒されるものだった。
冷静に見てみれば、オレが今までやっていたゲームだってキャラクターと同じ、なんだったら10人分くらいのサイズは当たり前だった。ゲームなんてのはそんなもんだ。ただし、それが仮想現実となると狼狽える。
「避けることだけ意識して」
「あいよ」
無理に攻撃しようとはせず避けること。最悪盾で致命傷を防ぐこと。
仁に言われた通り、最初はとにかく蜘蛛の行動を見ることにした。でかい分恐怖心は半端なかったが、攻撃モーションは分かりやすいし連続攻撃もしてこない。だから避けられれば後は、いつ攻撃するか、なのだ。
体ごと避けるとどうしても攻撃するタイミングが掴めなかった。蜘蛛が前足を振り下ろし、オレが避ける。後ろに避ければ攻撃箇所が無いし、前に避ければ本体に当たる。横に避けるしかない。そうすると避けて即行動でなければロッドは届かず、結局、盾で防いで攻撃してきた足を叩くという判断を下した。
ソロで戦っているわけじゃなかったから、蜘蛛の攻撃対象がこっちの時は後ろからいくらでも攻撃できる。避けるのではなく盾で防ぎ殴りつけることは、後ろからの攻撃時間も増やせるということ。
「仁、もっかい!」
蜘蛛の尻を全力で殴りつける。黒くて分かりづらいが、へこんだことが反射でわかる。
ギェエと鳴いた蜘蛛が振り返る。
「あ」
振り向きざまに動いたのは、遠くにあった前足じゃない。
「っぐ」
蹴り上げるように動いた後足をものの見事にくらい、飛ばされる。
美少女の軽い体は空を飛び、地面に転がり白い服を砂っぽくさせた。
「トラウマになりそう」
独り言は半分本音。
「アキラ」
近くで聞こえた声。
見上げた先にある仁の心配顔と蜘蛛の足に、左手の盾を突き出した。
「守られちゃった」
「言うほど」
「アキラのこと守る予定だったんだけどなぁ。汚れちゃったね」
ひらひら繊細な白い服は薄汚れている。でもこの世界なら、容赦なく洗えるから問題は無いだろう。
「んで、この大蜘蛛の爪一個でたりんの?」
「うん。あんまり沢山必要でも困るでしょ」
「あいつがたくさんいると困る」
MMOだからほかの人だって倒せるようにいずれあいつは再び沸くんだろうけど、沢山いるのは嫌だ。町から離れれば大蜘蛛の巣はあるかもしれないけど、今じゃない。
「とりあえず戻って武器にしようか」
「そうしよ」
手の中にある大蜘蛛の爪。長さ10センチほどの黒く艶のあるそれは、本体についていた時より縮んでいる。鞄に放り込み、仁の隣を歩き出した。
「うぎゃ」
振りかぶった蜘蛛の足が地面に突き刺さる。後ろに飛びのき自分を守るように小さな盾を構えた。地面には穴が開き、これ一撃でも耐えられるのか? と自分の身とゲームバランスの心配をする。
赤い目はこちらを見ている。
「ガード」
ぎゅっと握り込んだ盾。初心者装備のままだが、こいつだって平原から続く森に住まうもの。まだまだ低レベル帯だ。
がん、と衝撃で手が痺れる気がした。毛の生えた足の先端に光る爪が盾に当たる。右手の反応が遅れ、振ったロッドは掠るだけ。行き過ぎようとする腕を留め、引き戻す。
心底盾持ちで良かったと思いながら、もう一度同じ動作をしてくるのを待つ。
蜘蛛は前右足を上げ、そのままオレ目がけて垂直に振り下ろす。きっと避けることはたやすいのだろうが、今は受ける。
左手に構えた盾に食らう衝撃、全身が震え、足が地面に深く痕をつける。
ひゅっ、と右下から振ったロッド。
ヒット。
「仁!」
ひるんだタイミングで蜘蛛の背後から仁が攻撃をする。白竜の祠にいたときに持っていた細いナイフは、双剣だったようだ。
現実ではスタントマンでも補正を掛けないと難しいんじゃないかと思うその動き。舞うように、線を描くように切りつける。
ヘイトが移った。
のっそりと後ろを向こうとする蜘蛛の尻を、今度はオレが殴る番。
「蜘蛛の爪で少しいい武器が作れるよ」
仁に教えられ、素材を取りに平原を進んだ。道中意味もなく野良土偶を叩き、裏でレベルアップしているのかクリティカル率が上がるのを体感した。
オレは相変わらず不細工なギザ耳ウサギに戸惑ったが、仁は何も感じないようだった。
「なんかさぁ、嫌じゃない? その、ぐにっとした感触」
「鶏肉と同じもんだと思うよ」
「仁って料理とかすんだっけ。生肉捌くのと同じ?」
「そんな感じ」
料理の手伝いすらしていないオレは、生肉を触ったことが無い。毛皮を剥げというわけではなく、そこらで売っているバラ肉すら触ったことが無かった。
母親の料理の手伝いでもしてみようか。そんなことが頭に浮かぶ。
「虫は平気?」
「好んじゃいないけど、平気」
それなら大丈夫と仁は言っていたけれど、現れたボスのサイズは圧倒されるものだった。
冷静に見てみれば、オレが今までやっていたゲームだってキャラクターと同じ、なんだったら10人分くらいのサイズは当たり前だった。ゲームなんてのはそんなもんだ。ただし、それが仮想現実となると狼狽える。
「避けることだけ意識して」
「あいよ」
無理に攻撃しようとはせず避けること。最悪盾で致命傷を防ぐこと。
仁に言われた通り、最初はとにかく蜘蛛の行動を見ることにした。でかい分恐怖心は半端なかったが、攻撃モーションは分かりやすいし連続攻撃もしてこない。だから避けられれば後は、いつ攻撃するか、なのだ。
体ごと避けるとどうしても攻撃するタイミングが掴めなかった。蜘蛛が前足を振り下ろし、オレが避ける。後ろに避ければ攻撃箇所が無いし、前に避ければ本体に当たる。横に避けるしかない。そうすると避けて即行動でなければロッドは届かず、結局、盾で防いで攻撃してきた足を叩くという判断を下した。
ソロで戦っているわけじゃなかったから、蜘蛛の攻撃対象がこっちの時は後ろからいくらでも攻撃できる。避けるのではなく盾で防ぎ殴りつけることは、後ろからの攻撃時間も増やせるということ。
「仁、もっかい!」
蜘蛛の尻を全力で殴りつける。黒くて分かりづらいが、へこんだことが反射でわかる。
ギェエと鳴いた蜘蛛が振り返る。
「あ」
振り向きざまに動いたのは、遠くにあった前足じゃない。
「っぐ」
蹴り上げるように動いた後足をものの見事にくらい、飛ばされる。
美少女の軽い体は空を飛び、地面に転がり白い服を砂っぽくさせた。
「トラウマになりそう」
独り言は半分本音。
「アキラ」
近くで聞こえた声。
見上げた先にある仁の心配顔と蜘蛛の足に、左手の盾を突き出した。
「守られちゃった」
「言うほど」
「アキラのこと守る予定だったんだけどなぁ。汚れちゃったね」
ひらひら繊細な白い服は薄汚れている。でもこの世界なら、容赦なく洗えるから問題は無いだろう。
「んで、この大蜘蛛の爪一個でたりんの?」
「うん。あんまり沢山必要でも困るでしょ」
「あいつがたくさんいると困る」
MMOだからほかの人だって倒せるようにいずれあいつは再び沸くんだろうけど、沢山いるのは嫌だ。町から離れれば大蜘蛛の巣はあるかもしれないけど、今じゃない。
「とりあえず戻って武器にしようか」
「そうしよ」
手の中にある大蜘蛛の爪。長さ10センチほどの黒く艶のあるそれは、本体についていた時より縮んでいる。鞄に放り込み、仁の隣を歩き出した。
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