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第五章 君よ、ここに、この胸に
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三が日が過ぎてから初詣に行った。
昨年飲ませた酒粕の甘酒はやめ、飲む点滴と売り文句のある米麹のものにした。
「こっちの方がいいです」
やはり酒の匂いがダメだったのだろう。
砂糖も使っていない米麹の甘酒はそれでも甘い。
昨年買わなかったのど飴を買い一つ封を開ける。
口の中、歯にぶつかりコロコロ転がる。
「綿あめ屋は絶対出入り口にある」
子供が持ち帰るためだろう。
買うかと聞くと要らないと言われた。
そんなに甘いものを好きではない雪に、遠慮でなく砂糖の塊は要らないか。
毎年流行があるらしい露店をただ見て回り、子供の頃より随分値上がったなぁと零す。
今年はじゃがバター屋が多かった。
寒い時に売れるのだろう、店はどこも列をなしている。
「買う? 並ぶけど」
「要らないです」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないです」
あー、と口の中の飴を見せられる。
「噛み砕け」
「やですよ」
飴を噛まずに駅に向かった。
空気は冷えているのに陽は暖かい。
大師線の数駅をただ黙って電車に揺られる。
昨年と変わりのないようで、少しだけ変わった雪との関係。
見下ろしていた坊主頭はもう、あまり面影がない。
髪が伸びたせいだけではない。
背が伸びたせいだけでもない。
なんとなく、これはそうであってほしいという自己承認なのかもしれないけれど、雪は表情が明るくなったと思う。
遠慮しがちなのも減って来たし、自分の希望を言うようにもなってきた。
特に欲求をそのまま口にしてしまう様は本当に可愛い。
揺れる電車に任せてその体を引き寄せる。
「混んでるな。もうちょっとで着くけど」
わざとらしい言い訳。
結んできたお御籤。
鞄の中にあるのはのど飴だけ。
秋祭りに行かないと言った雪は、初詣には行くと言った。
願い事でもあるのかと今日出てきたけども、何を願ったんだろうか。
俺が願ったのは「金に困りませんように」なんて即物的なこと。
きっと神様は蹴飛ばすだろう。
全人類が平和でありますようになんて心にもないことでも願うべきだったろうか。
それとも隣に立つこいつが、雪が、幸せであるようにと願えばよかったかもしれない。
「降りるよ」
言わずとも終点を告げるアナウンスがなされる。
雪の手を引き、人に押されるようにホームに降りた。
昨年飲ませた酒粕の甘酒はやめ、飲む点滴と売り文句のある米麹のものにした。
「こっちの方がいいです」
やはり酒の匂いがダメだったのだろう。
砂糖も使っていない米麹の甘酒はそれでも甘い。
昨年買わなかったのど飴を買い一つ封を開ける。
口の中、歯にぶつかりコロコロ転がる。
「綿あめ屋は絶対出入り口にある」
子供が持ち帰るためだろう。
買うかと聞くと要らないと言われた。
そんなに甘いものを好きではない雪に、遠慮でなく砂糖の塊は要らないか。
毎年流行があるらしい露店をただ見て回り、子供の頃より随分値上がったなぁと零す。
今年はじゃがバター屋が多かった。
寒い時に売れるのだろう、店はどこも列をなしている。
「買う? 並ぶけど」
「要らないです」
「遠慮しなくていいのに」
「遠慮じゃないです」
あー、と口の中の飴を見せられる。
「噛み砕け」
「やですよ」
飴を噛まずに駅に向かった。
空気は冷えているのに陽は暖かい。
大師線の数駅をただ黙って電車に揺られる。
昨年と変わりのないようで、少しだけ変わった雪との関係。
見下ろしていた坊主頭はもう、あまり面影がない。
髪が伸びたせいだけではない。
背が伸びたせいだけでもない。
なんとなく、これはそうであってほしいという自己承認なのかもしれないけれど、雪は表情が明るくなったと思う。
遠慮しがちなのも減って来たし、自分の希望を言うようにもなってきた。
特に欲求をそのまま口にしてしまう様は本当に可愛い。
揺れる電車に任せてその体を引き寄せる。
「混んでるな。もうちょっとで着くけど」
わざとらしい言い訳。
結んできたお御籤。
鞄の中にあるのはのど飴だけ。
秋祭りに行かないと言った雪は、初詣には行くと言った。
願い事でもあるのかと今日出てきたけども、何を願ったんだろうか。
俺が願ったのは「金に困りませんように」なんて即物的なこと。
きっと神様は蹴飛ばすだろう。
全人類が平和でありますようになんて心にもないことでも願うべきだったろうか。
それとも隣に立つこいつが、雪が、幸せであるようにと願えばよかったかもしれない。
「降りるよ」
言わずとも終点を告げるアナウンスがなされる。
雪の手を引き、人に押されるようにホームに降りた。
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