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第三章 捨てる、捨てない
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初詣に連れて行ってもらった。
ケースケさんが買ってくれた服は冷たい風を通さず、服に覆われていない指先だけが体温を無くした。
神様を信じていないけど、神様にお願いをする。
たくさんの人が並ぶ中、ずっと考えていた。
こんなにたくさんの人がいるんだから、長々とお願いしてもダメだろう。なんて言おう。
ケースケさんと一緒にいたいですと神様にお願いしようかと思った。
でも神様に等しいケースケさんは隣にいて、きっと本人に言うのが一番いいんだろうとも思った。
列はゆっくりゆっくり進む。
厄除け大師の整備員が、ピーと笛を鳴らして進行を制御する。
「あとで甘酒飲む? 甘いの好きじゃないならあんまりか」
「飲んだことないから」
「じゃあ1杯だけ買って、お前がダメなら貰う」
オレが口をつけたものをケースケさんは厭わない。
神様、神様、お願いします。
渡してもらった硬貨をコロンと入れた。
人がぎゅうぎゅうの所に入るのも出るのも大変で、「すみません」と小さく謝りながら脱出を目指す。
ぐいと手を引かれた。
「こっち」
ケースケさんが示す出口に向かう。
ピーと笛の音がして、次の集団が階段を上ってきた。
神様、名も知らぬ神様、お願いします。
初めて手にしたお御籤は、すごく良くも悪くもなかった。
そんなもんだよってケースケさんは笑う。
手元にとって置いたら当たるのかわかるかもしれないけれど、皆に倣って結ぶことにした。
こんな紙のを破かないで結べるかなと手間取る。
結び終わってしまえば、他の誰かのお御籤と自分のものの区別はつかなかった。
コンコンカンカン仲見世通りに飴切りの音が響く。
幼稚園くらいの小さな男の子が、母親の体に守られるようにじっとそれを見続けていた。
「飴買う?」
ケースケさんが聞いてくれる。
オレは首を振った。
「乾燥してるし買ってもいいよ」
「甘酒飲むから」
ああ、とケースケさんは頷いた。
「けど持って帰ればいいんだよ」
オレはもう一度首を振った。
ケースケさんはオレに色んなものを買ってくれようとする。
お前のことを可哀想な奴だと思ってるからだよと、気まずそうにそう答える。
きっと隠れヒーローでなくなったあの日からそんなことを思っていないだろうケースケさんは、ただの良い人なのだと思う。
チョコレートとも生クリームとも違う甘さの甘酒を飲む。
「ダメそう?」
オレの手から紙コップが持って行かれる。
「酒の匂いが強いから苦手?」
飲めなくはないけれど、今までお酒を飲んだこともないオレには不思議な味だった。
店先には同じように客がたむろする。
「大丈夫」
「無理すんなよ。これ酒粕で出来てるから」
返されたコップにもう一度口をつけた。
まだ熱い。
増えてきた人に、飲みながら移動を始める。
多くの人に紛れてケースケさんの腕を掴んだ。
振り返ったケースケさんはコップを持ったままのオレを見て、もう少しゆっくり歩こうと言った。
立ち並ぶ出店に並ぶ人たちを避けて歩く。
駅までの道を一口一口進んでいく。
「米麹の方買えばよかったな」
空になったコップがごみ箱に捨てられる。
来年もケースケさんとここに来て、今度は米麹のものを飲みたいと言いたかった。
掴んだ手を離したくなかった。
神様、神様。
ケースケさんはオレが隣にいることを許してくれた。
初詣にはたくさんの人が来ていて、ケースケさんはオレなんかと共にいることを見られてしまう。
今はケースケさんが買ってくれた服を着ているし、クリスマス前に髪も切った。お風呂だって毎日入れている。
表面的にはちゃんとできている大丈夫だと自分に心の中で言い聞かせる。
でもオレなんかの今日の恰好も、隣にいることも、ふらつかないように支えだと言い訳するように腕を掴んだこともケースケさんは気にしていないようだった。
初詣帰りの客で混む電車内、押され流されそうになるオレと共に奥まで移動し場所を作ってくれた。
「混んでるなぁ」と独り言のように漏らす。
足先で立つような車内で、オレは先ほど見た飴切りの男の子のようにケースケさんに守られていた。
並ぶ間中考えていた願い事。
他力本願の神頼み。
神様、オレの好きなこの人が、幸せでいますように。
ケースケさんが買ってくれた服は冷たい風を通さず、服に覆われていない指先だけが体温を無くした。
神様を信じていないけど、神様にお願いをする。
たくさんの人が並ぶ中、ずっと考えていた。
こんなにたくさんの人がいるんだから、長々とお願いしてもダメだろう。なんて言おう。
ケースケさんと一緒にいたいですと神様にお願いしようかと思った。
でも神様に等しいケースケさんは隣にいて、きっと本人に言うのが一番いいんだろうとも思った。
列はゆっくりゆっくり進む。
厄除け大師の整備員が、ピーと笛を鳴らして進行を制御する。
「あとで甘酒飲む? 甘いの好きじゃないならあんまりか」
「飲んだことないから」
「じゃあ1杯だけ買って、お前がダメなら貰う」
オレが口をつけたものをケースケさんは厭わない。
神様、神様、お願いします。
渡してもらった硬貨をコロンと入れた。
人がぎゅうぎゅうの所に入るのも出るのも大変で、「すみません」と小さく謝りながら脱出を目指す。
ぐいと手を引かれた。
「こっち」
ケースケさんが示す出口に向かう。
ピーと笛の音がして、次の集団が階段を上ってきた。
神様、名も知らぬ神様、お願いします。
初めて手にしたお御籤は、すごく良くも悪くもなかった。
そんなもんだよってケースケさんは笑う。
手元にとって置いたら当たるのかわかるかもしれないけれど、皆に倣って結ぶことにした。
こんな紙のを破かないで結べるかなと手間取る。
結び終わってしまえば、他の誰かのお御籤と自分のものの区別はつかなかった。
コンコンカンカン仲見世通りに飴切りの音が響く。
幼稚園くらいの小さな男の子が、母親の体に守られるようにじっとそれを見続けていた。
「飴買う?」
ケースケさんが聞いてくれる。
オレは首を振った。
「乾燥してるし買ってもいいよ」
「甘酒飲むから」
ああ、とケースケさんは頷いた。
「けど持って帰ればいいんだよ」
オレはもう一度首を振った。
ケースケさんはオレに色んなものを買ってくれようとする。
お前のことを可哀想な奴だと思ってるからだよと、気まずそうにそう答える。
きっと隠れヒーローでなくなったあの日からそんなことを思っていないだろうケースケさんは、ただの良い人なのだと思う。
チョコレートとも生クリームとも違う甘さの甘酒を飲む。
「ダメそう?」
オレの手から紙コップが持って行かれる。
「酒の匂いが強いから苦手?」
飲めなくはないけれど、今までお酒を飲んだこともないオレには不思議な味だった。
店先には同じように客がたむろする。
「大丈夫」
「無理すんなよ。これ酒粕で出来てるから」
返されたコップにもう一度口をつけた。
まだ熱い。
増えてきた人に、飲みながら移動を始める。
多くの人に紛れてケースケさんの腕を掴んだ。
振り返ったケースケさんはコップを持ったままのオレを見て、もう少しゆっくり歩こうと言った。
立ち並ぶ出店に並ぶ人たちを避けて歩く。
駅までの道を一口一口進んでいく。
「米麹の方買えばよかったな」
空になったコップがごみ箱に捨てられる。
来年もケースケさんとここに来て、今度は米麹のものを飲みたいと言いたかった。
掴んだ手を離したくなかった。
神様、神様。
ケースケさんはオレが隣にいることを許してくれた。
初詣にはたくさんの人が来ていて、ケースケさんはオレなんかと共にいることを見られてしまう。
今はケースケさんが買ってくれた服を着ているし、クリスマス前に髪も切った。お風呂だって毎日入れている。
表面的にはちゃんとできている大丈夫だと自分に心の中で言い聞かせる。
でもオレなんかの今日の恰好も、隣にいることも、ふらつかないように支えだと言い訳するように腕を掴んだこともケースケさんは気にしていないようだった。
初詣帰りの客で混む電車内、押され流されそうになるオレと共に奥まで移動し場所を作ってくれた。
「混んでるなぁ」と独り言のように漏らす。
足先で立つような車内で、オレは先ほど見た飴切りの男の子のようにケースケさんに守られていた。
並ぶ間中考えていた願い事。
他力本願の神頼み。
神様、オレの好きなこの人が、幸せでいますように。
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