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第三章 捨てる、捨てない
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一口コンロと電子レンジで1時間以内に料理を作れるようになった。
レシピを見て味の予想ができるようになった。
洗濯乾燥機の許容量を把握し一度でしっかり乾かせるようになった。
自分なりの服の畳み方を覚えしまえるようになった。
外に洗濯物を干す際に、どのくらいの時間で乾くかわかるようになった。
働きますと言ってすぐに、クリスマスのケーキ屋さんに飛び込んだ。
クリスマスはもう終わってしまったけど働かせてくださいと店長に頼めば、目を丸くした店長は年が明けたらまたおいでと言ってくれた。
年末年始の休業が終わるのを日々待つ。
ケースケさんはオレのことを子供だと思っている。
もうすぐ19歳なのに、あの人から見たらまだ子供なんだろう。
働いて自立してこの家を出ていけば好きでいてもいいのかなと考えた。
ケースケさんを好きだと言い続けるには、子供ではないと証明しないといけないと思った。
この家を出ていくのは嫌だった。
だけど自立というのが家を出て一人暮らしていくことだというのならまずそうしないといけない。
オレがいなくなってもケースケさんにとっては何も変わらない。
前と同じに戻るだけ。
ここにいたいって毎日毎晩泣き叫びたかった。
でもそんなことしたら困らせてしまうだろう。
ケースケさんの匂いが移るベッドで眠った。
暗闇に入り込む帰宅したケースケさん本人にくっついても退けられることはなく、少しだけその体温を貰った。
好きですと言ってしまった。
ケースケさんはやっぱり困っていた。
キスをした。
ケースケさんは驚いていた。
でも怒られなかった。
以前触ろうとしたとき、とても強く止められた。
やはりオレなんかがケースケさんに近寄るのはダメなことなんだと、浮かれていた自分を恥じた。
どうしたら喜んでくれるんだろう。
レシピ通りに作った料理だから大丈夫と思うけれど、いつも味に不安があった。
大丈夫だ美味しい問題ないよと都度言ってくれるけれど、正解がわからなかった。
馴染みのない美味しいだろうものがレシピとして手の中にある。
色んな事を教えてくれた。
色んなことを提案してくれた。
オレのためだってわかってる。
でも怖い。
お前はもう一人でも大丈夫だなってケースケさんが言う度に、出て行けと言われている気がした。
この家を出て自立したらケースケさんを好きでいてもいい。
この家を出て自立したらケースケさんはオレを子供ではなく見てくれる。
でもこの家を出たら、きっともう会えない。
夏のあの日、ケースケさんはオレを迎え入れてくれた。
おなじように貴方に会いに来ましたと言えば家に入れてくれるかもしれない。
けどケースケさんは、オレのことを可哀想な奴だと思っていて、ヒーローを演じてくれていたのだという。
今はもう、違うだろう。
「すきです」
横たわる背中に向かって掠れた音を吐き出せば、後ろ手にポンと頭を撫でてくれた。
レシピを見て味の予想ができるようになった。
洗濯乾燥機の許容量を把握し一度でしっかり乾かせるようになった。
自分なりの服の畳み方を覚えしまえるようになった。
外に洗濯物を干す際に、どのくらいの時間で乾くかわかるようになった。
働きますと言ってすぐに、クリスマスのケーキ屋さんに飛び込んだ。
クリスマスはもう終わってしまったけど働かせてくださいと店長に頼めば、目を丸くした店長は年が明けたらまたおいでと言ってくれた。
年末年始の休業が終わるのを日々待つ。
ケースケさんはオレのことを子供だと思っている。
もうすぐ19歳なのに、あの人から見たらまだ子供なんだろう。
働いて自立してこの家を出ていけば好きでいてもいいのかなと考えた。
ケースケさんを好きだと言い続けるには、子供ではないと証明しないといけないと思った。
この家を出ていくのは嫌だった。
だけど自立というのが家を出て一人暮らしていくことだというのならまずそうしないといけない。
オレがいなくなってもケースケさんにとっては何も変わらない。
前と同じに戻るだけ。
ここにいたいって毎日毎晩泣き叫びたかった。
でもそんなことしたら困らせてしまうだろう。
ケースケさんの匂いが移るベッドで眠った。
暗闇に入り込む帰宅したケースケさん本人にくっついても退けられることはなく、少しだけその体温を貰った。
好きですと言ってしまった。
ケースケさんはやっぱり困っていた。
キスをした。
ケースケさんは驚いていた。
でも怒られなかった。
以前触ろうとしたとき、とても強く止められた。
やはりオレなんかがケースケさんに近寄るのはダメなことなんだと、浮かれていた自分を恥じた。
どうしたら喜んでくれるんだろう。
レシピ通りに作った料理だから大丈夫と思うけれど、いつも味に不安があった。
大丈夫だ美味しい問題ないよと都度言ってくれるけれど、正解がわからなかった。
馴染みのない美味しいだろうものがレシピとして手の中にある。
色んな事を教えてくれた。
色んなことを提案してくれた。
オレのためだってわかってる。
でも怖い。
お前はもう一人でも大丈夫だなってケースケさんが言う度に、出て行けと言われている気がした。
この家を出て自立したらケースケさんを好きでいてもいい。
この家を出て自立したらケースケさんはオレを子供ではなく見てくれる。
でもこの家を出たら、きっともう会えない。
夏のあの日、ケースケさんはオレを迎え入れてくれた。
おなじように貴方に会いに来ましたと言えば家に入れてくれるかもしれない。
けどケースケさんは、オレのことを可哀想な奴だと思っていて、ヒーローを演じてくれていたのだという。
今はもう、違うだろう。
「すきです」
横たわる背中に向かって掠れた音を吐き出せば、後ろ手にポンと頭を撫でてくれた。
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