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第二章 露呈
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甘いものそんなに好きじゃなかったんだなと、先ほどの言葉を思い出し返す。
雪は食べられますと申し訳なさそうに答えた。
「じゃあこれもっと貰っていい?」
「もちろん」
「ありがと」
半分に切ったケーキは減っていなかった。
少しずつ削られていたそれは大事にされていたわけではなく、単に苦手の表れだった。
ケーキをしまうためのラップを買いにスーパーに向かう。
俺一人で行こうかと思ったが、ついてくるというのでその手を引いて外に出た。
24時間やっているスーパーに急いで走る必要はなく、道すがらバイトのことを聞いた。
髪を切りたいと言ったのもバイトに行くためだったという雪に、妙に納得する。
クリスマスだけの短期バイトは都合がよかった。
俺がいないことも分かっていたし、こっそりやってプレゼントを用意できると思ったらしい。
「いいとこでバイトしたなぁ。あそこ入ったことなかったから、うまいケーキあるって知らなかった」
嬉しそうにはにかむ姿に小さな愛おしさを覚えた。
小さな冷蔵庫を占領したケーキ。
食べたかったら食べろよと声をかけておく。
「あの、プレゼントありがとうございます」
テーブルに並べられた色鉛筆と水筆。
「あーそれ、片付けが少なく済むかなと思って」
きちんと何度も話さないといけない。
「お前の飯はうまいよ。でも前みたいに絵を描いてて時間が無くなったら、作らないで買ってくるとかでもいい。そんなんで怒らないし、追い出しもしねーよ」
時間がかかるだろうとは思う。
「何にしても、そんなに遠慮しなくていい。それに」
先ほど口にしてしまった恥ずかしい自分の考えに殺されそうになる。
「俺はまともな大人じゃないからだらしないし、お前に言えるようなこともない」
「ケースケさんは」
「あーだからな雪、お前ももっと好き勝手していいから。俺もお前も、な?」
可哀想なお前のことを"尊重してやる"はずだった。
そういう恥ずかしい考えを持っていた。
事実対等に扱うのではなく、尊重してやっていると俺は心の奥底で思っていた。
「好き勝手」
「そう」
ぶつかるようなキスをされた。
一瞬何かわからなかった。
大事そうに色鉛筆に手を置いていた雪が、俺に倒れかかる様にキスをしてきた。
ただ転んで接触したかのようなそれに「大丈夫か」と声をかけそうになって、真っ赤な顔に気付く。
「ケースケさんが好き」
雪は、俺に父親の代わりを求めている。
「俺は子供に手を出す気はないよ」
そう考えているのに、まるで先延ばしにするような言葉が出た。
「オレもう18歳です」
「未成年じゃん」
「じゃあ20歳になったら、オレはケースケさんの恋人になれる?」
2月に誕生日が来ますと雪は言った。
「それは」
今は年末。
ほぼ丸一年で成人を迎える。
「この家を出て自立したら、大人として見てもらえる?」
「出ていく必要はないけど」
出ていく必要なんて少しもない。
離れていく必要なんて少しも。
「オレ働きます」
雪は俺に張り付くようにして眠りについた。
俺は背を向けたまま頭の中の考えを止めることができずにいる。
雪がバイトをすることは、考えていた通り色んな人間に会えるいい機会だ。
色んな人間に会って、知って、他にちゃんと好きな人が出来れば――。
雪が家事をしてくれると俺にとってはすごく楽で有難い。
この家が過ごしやすくなることは雪にとっても良いことだ。
だから雪はこの家にいたらいい。
バイトを始め新しい事柄でストレスがかかる。
住む場所まで変わったらもっと大変だ。
だからこの家にいたらいい。
就職で一人暮らしを始める人間なんていくらでもいるだろうに、俺は雪を心配した。
まだそんなことは難しいだろうと、子ども扱いをしていた。
雪は食べられますと申し訳なさそうに答えた。
「じゃあこれもっと貰っていい?」
「もちろん」
「ありがと」
半分に切ったケーキは減っていなかった。
少しずつ削られていたそれは大事にされていたわけではなく、単に苦手の表れだった。
ケーキをしまうためのラップを買いにスーパーに向かう。
俺一人で行こうかと思ったが、ついてくるというのでその手を引いて外に出た。
24時間やっているスーパーに急いで走る必要はなく、道すがらバイトのことを聞いた。
髪を切りたいと言ったのもバイトに行くためだったという雪に、妙に納得する。
クリスマスだけの短期バイトは都合がよかった。
俺がいないことも分かっていたし、こっそりやってプレゼントを用意できると思ったらしい。
「いいとこでバイトしたなぁ。あそこ入ったことなかったから、うまいケーキあるって知らなかった」
嬉しそうにはにかむ姿に小さな愛おしさを覚えた。
小さな冷蔵庫を占領したケーキ。
食べたかったら食べろよと声をかけておく。
「あの、プレゼントありがとうございます」
テーブルに並べられた色鉛筆と水筆。
「あーそれ、片付けが少なく済むかなと思って」
きちんと何度も話さないといけない。
「お前の飯はうまいよ。でも前みたいに絵を描いてて時間が無くなったら、作らないで買ってくるとかでもいい。そんなんで怒らないし、追い出しもしねーよ」
時間がかかるだろうとは思う。
「何にしても、そんなに遠慮しなくていい。それに」
先ほど口にしてしまった恥ずかしい自分の考えに殺されそうになる。
「俺はまともな大人じゃないからだらしないし、お前に言えるようなこともない」
「ケースケさんは」
「あーだからな雪、お前ももっと好き勝手していいから。俺もお前も、な?」
可哀想なお前のことを"尊重してやる"はずだった。
そういう恥ずかしい考えを持っていた。
事実対等に扱うのではなく、尊重してやっていると俺は心の奥底で思っていた。
「好き勝手」
「そう」
ぶつかるようなキスをされた。
一瞬何かわからなかった。
大事そうに色鉛筆に手を置いていた雪が、俺に倒れかかる様にキスをしてきた。
ただ転んで接触したかのようなそれに「大丈夫か」と声をかけそうになって、真っ赤な顔に気付く。
「ケースケさんが好き」
雪は、俺に父親の代わりを求めている。
「俺は子供に手を出す気はないよ」
そう考えているのに、まるで先延ばしにするような言葉が出た。
「オレもう18歳です」
「未成年じゃん」
「じゃあ20歳になったら、オレはケースケさんの恋人になれる?」
2月に誕生日が来ますと雪は言った。
「それは」
今は年末。
ほぼ丸一年で成人を迎える。
「この家を出て自立したら、大人として見てもらえる?」
「出ていく必要はないけど」
出ていく必要なんて少しもない。
離れていく必要なんて少しも。
「オレ働きます」
雪は俺に張り付くようにして眠りについた。
俺は背を向けたまま頭の中の考えを止めることができずにいる。
雪がバイトをすることは、考えていた通り色んな人間に会えるいい機会だ。
色んな人間に会って、知って、他にちゃんと好きな人が出来れば――。
雪が家事をしてくれると俺にとってはすごく楽で有難い。
この家が過ごしやすくなることは雪にとっても良いことだ。
だから雪はこの家にいたらいい。
バイトを始め新しい事柄でストレスがかかる。
住む場所まで変わったらもっと大変だ。
だからこの家にいたらいい。
就職で一人暮らしを始める人間なんていくらでもいるだろうに、俺は雪を心配した。
まだそんなことは難しいだろうと、子ども扱いをしていた。
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