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第二章 露呈
2-3 冴木の話
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あの子を拾ったのは、まだあの子が小学生の時だった。
家の近くで時折見かけるあの子はいつも一人寂しく存在していた。
私はずっと無性に惹かれていた。
男でもなく女でもない存在。
年若いあの少年は男と呼ぶには幼く、私の求めるものに近かった。
ある日公園で一人ぐったりと倒れるように座っているあの子を見つけた。
見るからに具合の悪そうな子を私は保護するように連れて帰った。
警察に連絡しなかったのだから、私はいい大人ではない。
それでもあの子は私にひたすら感謝をした。
少しの果物と水を与え、私はあの子に提案をした。
「私は彫刻家だ。君をモデルにしたい」
あの子をそのまま写す気はなかった。
しかしその膨らみの無い薄い体を見ると沸き立つものがあった。
見かける度に一人でいるみすぼらしいこの子は被虐待児であろうと予想していた。
少なくともまともな家庭環境ではないだろうと。
怪我はないかと心配するふりをして服を脱がせ、その体を隅々まで見た。
肋骨が浮かび胸の膨らみの無い、陰茎の発達していない体に触りたかった。
触れたい衝動は抑えたが、このままこの子の時間を止めてしまえればという考えは生き残ってしまった。
いつでも来ていいと家を解放した。
あの子が来た時には果物を食べさせた。
たくさん食べ物を与えることだってできるのに、私はあえてそれをしなかった。
バランスの良い食事なんてものはなく、それでもあの子は出した果実を文句言わずに食べた。
ありがとうございますと声変わりのしていないあの子に感謝される度に、私はただ微笑んだ。
あの子の父親は育児放棄をしている割にあの子を気にしていたのだろう。
私に「触るな」と命じた。
あの子の前で言われ承諾した以上、触りたい願望は夢のように儚く消えた。
体の作りを描写するために必要なのだと、部屋を暖かくしあの子の服を剥いだ。
あの子は大人しく従い、私がいる間は下着だけでいるようになった。
部屋から出ることは無く、ソファに座り私がやることを見ていた。
少年は成長する。
いくら私が果物しか与えずとも全てを管理しているわけではなく、人間は成長していく。
しかし彼の成長は幸いゆっくりとしたものだった。
明らかに必要な栄養が足りていない。
わかってはいたがそれでも私は果物以外を与えなかった。
一切触らず、ゆっくりと育つ様をひたすらに見つめた。
高校生ともなればさすがに声変わりもする。
細いままで成長がゆっくりだったとしても体は男になっていく。
10年だ。
そんなにも長い間私はあの子の時間を奪った。
あの子を少年のまま留めたいという私の欲望のためだけに。
あの子が高校を卒業し家を出るという。
当然のように迎え入れた。
しかし同時にきた海外仕事のタイミングに、私はあの子を手放してやるべきなのではないかと思った。
このままでは少年から青年へとなるあの子に私は興味をなくすだろうと不安があった。
興味をなくした相手に今までと同じように優しく接してやれるとは思わなかった。
そうなったならあの子は傷つくだろう。
散々自分勝手をしてきたのに、嫌われるのも自分のせいになるのも怖かった。
だから人の形を見るために通う安い居酒屋で、バイトの男に声をかけた。
若く、しかし長いこと働いている男で、悪い人間には見えなかった。
ただ少し、あの子がようやく世界に旅立つ第一歩を無理やりにでも作ろうとした。
このままあの子を留めてはおけない。
私が興味を失ってしまう前にどうにかしなければ。
あの子と同じように若い男と接点を持たせる目的だった。
同性で似たような年ならば見える世界にすぐに影響するだろう。
今回は長期間海外から帰らない予定だったが、その後は徐々にあの子を色んなものに触れさせる気だった。
しかし思ったよりも事が進んだ。
あの子の父親よりも私はあの子を見ていたと言っても過言ではない。
海外から戻り久しぶりに会った時、様子が変わったのに気が付いた。
今まで大した話もしなかったあの子と話し、そして、私は初めて素直に「君は魅力的だった」と告白をした。
更には今回手紙を受け取ってあの子が自分の道を自分の足で歩み始めている確信を持った。
嬉しかった。
10年という時を奪ってしまったことを申し訳なく思い、そして、安堵した。
風呂と食べ物を少し与えていただけの私にあの子は感謝し、今まで金を受け取ることはしなかった。
今回あの子に渡した金は慰みではない。
手切れ金でもない。
少年の10年には足りないかもしれないが、あの子が今まで受け取るべきだった正当な賃金だ。
家の近くで時折見かけるあの子はいつも一人寂しく存在していた。
私はずっと無性に惹かれていた。
男でもなく女でもない存在。
年若いあの少年は男と呼ぶには幼く、私の求めるものに近かった。
ある日公園で一人ぐったりと倒れるように座っているあの子を見つけた。
見るからに具合の悪そうな子を私は保護するように連れて帰った。
警察に連絡しなかったのだから、私はいい大人ではない。
それでもあの子は私にひたすら感謝をした。
少しの果物と水を与え、私はあの子に提案をした。
「私は彫刻家だ。君をモデルにしたい」
あの子をそのまま写す気はなかった。
しかしその膨らみの無い薄い体を見ると沸き立つものがあった。
見かける度に一人でいるみすぼらしいこの子は被虐待児であろうと予想していた。
少なくともまともな家庭環境ではないだろうと。
怪我はないかと心配するふりをして服を脱がせ、その体を隅々まで見た。
肋骨が浮かび胸の膨らみの無い、陰茎の発達していない体に触りたかった。
触れたい衝動は抑えたが、このままこの子の時間を止めてしまえればという考えは生き残ってしまった。
いつでも来ていいと家を解放した。
あの子が来た時には果物を食べさせた。
たくさん食べ物を与えることだってできるのに、私はあえてそれをしなかった。
バランスの良い食事なんてものはなく、それでもあの子は出した果実を文句言わずに食べた。
ありがとうございますと声変わりのしていないあの子に感謝される度に、私はただ微笑んだ。
あの子の父親は育児放棄をしている割にあの子を気にしていたのだろう。
私に「触るな」と命じた。
あの子の前で言われ承諾した以上、触りたい願望は夢のように儚く消えた。
体の作りを描写するために必要なのだと、部屋を暖かくしあの子の服を剥いだ。
あの子は大人しく従い、私がいる間は下着だけでいるようになった。
部屋から出ることは無く、ソファに座り私がやることを見ていた。
少年は成長する。
いくら私が果物しか与えずとも全てを管理しているわけではなく、人間は成長していく。
しかし彼の成長は幸いゆっくりとしたものだった。
明らかに必要な栄養が足りていない。
わかってはいたがそれでも私は果物以外を与えなかった。
一切触らず、ゆっくりと育つ様をひたすらに見つめた。
高校生ともなればさすがに声変わりもする。
細いままで成長がゆっくりだったとしても体は男になっていく。
10年だ。
そんなにも長い間私はあの子の時間を奪った。
あの子を少年のまま留めたいという私の欲望のためだけに。
あの子が高校を卒業し家を出るという。
当然のように迎え入れた。
しかし同時にきた海外仕事のタイミングに、私はあの子を手放してやるべきなのではないかと思った。
このままでは少年から青年へとなるあの子に私は興味をなくすだろうと不安があった。
興味をなくした相手に今までと同じように優しく接してやれるとは思わなかった。
そうなったならあの子は傷つくだろう。
散々自分勝手をしてきたのに、嫌われるのも自分のせいになるのも怖かった。
だから人の形を見るために通う安い居酒屋で、バイトの男に声をかけた。
若く、しかし長いこと働いている男で、悪い人間には見えなかった。
ただ少し、あの子がようやく世界に旅立つ第一歩を無理やりにでも作ろうとした。
このままあの子を留めてはおけない。
私が興味を失ってしまう前にどうにかしなければ。
あの子と同じように若い男と接点を持たせる目的だった。
同性で似たような年ならば見える世界にすぐに影響するだろう。
今回は長期間海外から帰らない予定だったが、その後は徐々にあの子を色んなものに触れさせる気だった。
しかし思ったよりも事が進んだ。
あの子の父親よりも私はあの子を見ていたと言っても過言ではない。
海外から戻り久しぶりに会った時、様子が変わったのに気が付いた。
今まで大した話もしなかったあの子と話し、そして、私は初めて素直に「君は魅力的だった」と告白をした。
更には今回手紙を受け取ってあの子が自分の道を自分の足で歩み始めている確信を持った。
嬉しかった。
10年という時を奪ってしまったことを申し訳なく思い、そして、安堵した。
風呂と食べ物を少し与えていただけの私にあの子は感謝し、今まで金を受け取ることはしなかった。
今回あの子に渡した金は慰みではない。
手切れ金でもない。
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