ファーストフラッシュ

紺色橙

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第一章 3か月

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 予定していた3か月よりも早く迎えが来た。
 頼まれたときと同じようにおっさんに呼び止められ気付く。
 家で絵を描いてますよと言えば、へぇと珍しそうに声を上げた。
「じゃあ、明日」
 バイトに行く時間前に迎えに来るという。
 家に帰ったら準備をさせないと。



 すぐに行われる帰宅の準備。
 雪のサイズの服、俺には必要のない絵を描く道具。
 来た時よりも荷物は増えたが、それでも少ない。
 洗濯されていた服を畳み袋にしまう。

 四角い部屋が四角く掃除されるのも今日で終わりだ。
 明日からは俺の適当な独り暮らしに戻る。

「お前との共同生活、そんなに悪くなかったよ」
 3つに増えた袋を枕元に置いて、布団に入る。
 忘れ物が発生するほどのものもない。
 2か月もいた割には、こんなものしかない。
 季節は移らず、買ったものだけで足りてしまった。
「ありがとうございました」
 雪用の布団の上に座り、雪は深く頭を下げた。
 噛まれた唇がそれ以上何を言いたかったのか、俺にはわからなかった。



***



 車止めの向こうには、始まりと同じようにタクシーの迎えがいる。
 まだ白いことがわかる新しい靴が砂利を踏む。

「これ、金」
 おっさんが用意した100万そのまま。
 雪が手を付けなかった金を、開けた封筒に入れたまま返す。
「自分の好きなもの買えよ。もう青が無くなるだろ? それにもっといい絵筆だって」
「このお金は、オレのじゃなくて」
「お前ひとり分くらい、こんなにかかってねーよ。それに、死ぬ間際に思い出す程度には面白かったし」
 受け取ろうとしない封筒をそのまま鞄に入れてやる。
 少しくらいカッコつけたっていいだろう。
「じゃあな」


 俺はやはりヒーローにはなれなかった。
 可哀想な子を救ってやれるヒーローには。
 良い人ぶるのもうまくできただろうか。
 ちゃんとした大人になれていない自分には、どの道この2か月が関の山だったのだ。


 雪が持ってきたものは身に着けるものだけ。
 雪が持って行ったのも身につけるものだけ。
 残ったのは俺の使わない一組の布団。
 今日の朝に雪が自分で干して行った布団を取り込む。
 替えのシーツと共に、押し入れにしまいこんだ。
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